【製品レビュー】上位機種の機能と操作性を忠実に継ぐコンパクトなPA用デジタル卓

RSS BY ROLANDM-300
アナログライクな操作感とマルチな使用が話題のデジタル・ミキサーのシリーズに最新モデルが登場

RSS BY ROLAND M-300 472,500円


ROLANDの製品を使用していて毎回感じることは"感覚的、直感的に操れる"ということが大きなポイントだと思います。実はこれデジタル・ミキサーではとても大切な部分で、思いのままに操れるかどうかが"その人の仕事ができるか否か"を決定付ける判断基準にもなるのです。実際、さまざまな面でメリットが多いため、デジタル・ミキサーの導入をしている現場が増えているからです。そんな中、アナログライクな操作感で分かりやすく、マルチに使用できることで一躍話題に上ったV-MixerシリーズM-400。筆者の管理しているお店にも導入していますが、さまざまなPAエンジニアが乗り込まれても問題なく、15分位のアテンドで使えてしまう分かりやすさ。まさにデジタル卓の優等生が弟分のM-380に引き続き、今回妹分のM-300がリリースされたので、皆さんにご紹介したいと思います!


コンパクトながら充実した機能シンプルかつ動きのある操作性


まず本機はM-400が小型になったものとお考えください。つまり"音がすごく良い" "小さいのに使い勝手も良い" ですから当然"軽い"。そんなに入出力は要らないのでM-400を導入するのは......とお考えの方にまさにベスト・マッチな製品です! おさらいとして、本機を含むV-Mixer共通事項から説明しますと、システムのベースとなっているのは、ROLAND独自のデジタル・オーディオ伝送技術であるREAC(Roland Ethernet Audio Communication)。これは、最高24ビット/96kHz非圧縮デジタル・オーディオの最大40ch双方向伝送を可能とする技術です。システムはごくシンプルで、イーサーネット・ケーブルCAT5eを使用し、Digital SnakeをはじめとするREAC機器と組み合わせるだけです。これでさまざまな現場にフィットするシステムを構築できます。その後のパッチの変更などもマトリクスのような画面で簡単に設定変更が可能。


しかし簡単だからといっても、音質に妥協はありません。従来マイクから出力された音はミキサーに入るまで、一切の手を加えられません。従来のマルチケーブルを通る微弱電力では外来ノイズにとても弱く、いわゆる"SN劣化やノイズ"の原因になっていました。このREACシステムでは、入出力ユニット側で入力された直後の音をミキサー側(ゲイン)からリモートでディスクリート設計の高品位プリアンプを使用しゲイン・アップ、その直後をADコンバートし、それをデジタルで伝送することで"みずみずしく生きたサウンド"をそのままミキサーに入力することに成功しました。これがV-Mixerの音の良い理由なのです!


いよいよM-300について説明に入ります。まず外形寸法ですが、470(W)×194.9(H)×482.7(D)mm、重量はたったの9.8kgというコンパクト・サイズ。ラック・マウント・スタイルも可能で、見た目以上の軽さにびっくりしました。中身が入ってないのかと思ったくらいです(笑)。


コンパクトになりながらも本機は32ch入力、出力はメインLCR/8AUX/4マトリクスという余裕のキャパシティ。またREACシステムとは別に本体標準の入出力もあり、入力(XLR×4、TRSフォーン×4、RCA×4)、出力(XLR×4、TRSフォーン×4)と充実。直接本機にアウトボードやCDプレーヤー、マイク、アンプなども接続できます。 M-300は画面のある上部とフェーダーが位置する下部の2つのポジションに分かれています。まず、ひときわ明るくセンターに鎮座する800×480ドットの高精細カラー・ディスプレイを装備し、ミキシングに必要な情報を表示。細かく色分けされたつまみや画面情報により、即効性が求められる現場の作業効率を上げるのに一役買っています。ディスプレイ右横のジョグ・ダイアルとカーソルが一体化した操作部もかなり大きく作られているため、細かくてイライラすることもありません。そして筆者が特筆すべきV-Mixerのポイントが"ボタンの数が多い" 点です。通常デジタル・ミキサーは操作子を少なくしシンプルに作るのですが、本シリーズはアナログ・ミキサー以上にボタンの数が多いのです。これはユーザーが深い階層に入らなくてもいいように最低限用意されたボタンなのです。ですから作業中に戸惑うことも少なく、動きのあるライブと同様に生きたオペレーションができます。もちろんユーザー・ボタンやユーザー・レイヤーも装備しているので、使いやすいようにカスタマイズすることもできます。まさに大型ミキサー・システムが片手で運べるサイズになったのです!


さらにV-MixerとREACシステムの素晴らしい点として、Windowsパソコンと本体をCAT5eケーブルで接続すると、DAWソフト"CAKEWALKSonar"で最大40トラックのライブ・レコーディングを行うことが可能。最近需要が高まっているライブ・レコーディングが何の準備もなくすぐに始められるのです!(SonarがインストールされたWindowsマシンは別途用意)。そして同じく需要が増え始めたイヤホンを使用するモニタリング、通称"イアモニ"に最適なライブ・パーソナル・ミキサーM-48と完璧に連携。数台のM-48をREACケーブルのみというシンプルな方法で完ぺきにリンクでき、自由にアーティストが手元でモニター・バランスを調整できるのです。まさに次世代のモニタリング環境が実現します。 そして本機は、デジタル卓の真骨頂でもあるオールインワンですから、チャンネルごとのパラメトリックEQやコンプ、ゲートなども内蔵し、文句の付けようがありません。さらに今回のM-300のリリースにおいては、細かな部分のアップデートも施されており、パラメトリックEQのロー、ハイが従来はシェルビング固定だったのに対し、ピーキングからもチョイス可能になった点や、ゲート、コンプもキーイン・フィルターの機能が追加されるなど、より現場で使いやすくなっています。


EQやコンプは現場仕様にアップデート、容易なセッティングでスムーズに進行


では、実際の現場で試してみたいと思います。今回のライブはバンド・スタイルが5組と、なかなか盛りだくさんな内容です。しかし、本機にはトークバック用のSM58とBGM/SE用のデッキをインプット、アウトには録音用にCD-R、DVDデッキを接続しただけ。後のインプット類はマイク・ケーブルほどの太さのREACケーブルを2本差すのみで設置も非常に楽です。ステージ側には16イン/8アウトのDigital Snake S-1608(176,400円)を2台セットし、後はこれにマイクをインプットとアウトからアンプ・ラックにパッチをするだけ。仮に接続が終った後に、急きょチャンネルの並びを変更したい場合はレイヤーで変更するもよし、パッチで変更するもよしといった具合に簡単です。当然ながらこれをアナログに置き換えると、コンプが32台、ゲートが32台、そのほかにも......となるところ本機にはすべてがビルトインされています。


ステージを用意している間に、本機の中に内蔵しているエフェクトでラックの並びを制作しますが、これも任意にパラメトリックEQやグラフィックEQ、リバーブやディレイ、コーラスなどからチョイスし、あっという間に設定終了です。もちろんエフェクトに関しては、音楽業界で代表されるエフェクトを作り上げてきたROLANDですし、EQに関しても同アルゴリズムのM-400ユーザーである筆者の太鼓判付きですっ!


アナログとデジタルの境界線を越えるサウンド・クオリティとオペレーション


設定終了後、早速サウンド・チェックです。デジタル卓にありがちな、良い言い方をするならば"分離の良い"、いわゆるバラバラに聴こえる感じがV-Mixingシリーズにはないのです。そこがアナログ・サウンドの感じに似ています。しかもそのアナログのようなサウンドの作り方で分離良くすることも容易です。誰しもがM-300に音を入力したときに音質の良さ、押し出し感、混じり方の圧倒的な実力を認めざる得ないと思います。


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▲写真1 リハーサルでの使用風景。階層の少ないアナログライクな操作感により、現場での対応がスムーズになる。100mmフェーダーの搭載により細かな微調整が行える



さらに操作性の面も、17本用意されたモーター・フェーダーは100mmストロークなので、細かいバランスを要求される場合においても快適にコントロールが可能です。また中央の大型ディスプレイには見やすく配置されたプリアンプ(ゲイン)、アッテネーター、EQ、PAN、AUXレベル、コンプ、ゲートなどが一目で監視可能な上、ディスプレイ脇のつまみ、スイッチですぐにアナログライクな操作ができ、最低限の操作で迷うことなくオペレーションが可能。快適にサウンド・チェックを終えリハーサルに入れました(写真①)。


何となくモニターに音を返して始めたのですが、やはり微調整のためリクエストが幾つか出てきます。しかし、アナログライクなスイッチ群のおかげで瞬時に応えることができました。ボーカルにかけていたリバーブ(最大4系統使用可能なマルチエフェクトで使用)は、11種類のエフェクト・アルゴリズムから選択でき、コーラスやフェイザーといったモジュレーション系やビンテージ・エフェクト、31バンド・グラフィックEQまでをも搭載しています。オペレーションに余裕があるからこそ、細かく設定することもでき、とても好調な滑り出しです。 途中CD-Rに録音したいというバンドに"USBメモリーがあれば直接音データをWAVで渡せるよ"と言ったら"パソコンにコピーする時間の短縮になる"とすごく喜んでくれました。しかもM-300はミックスしたサウンドを16ビットの非圧縮WAVファイルとして保存、また再生(SEやBGM)が本体だけで対応できるだけではなく、もちろんUSBメモリーにユーザーの設定ファイルやミキサー・データなども保存できます。


各バンドのリハーサルを終えた後、M-300がリモート・コントロール可能なM-300 RCS(無償)を同社のWebサイトよりダウンロードして、無線LAN経由でM-300をリモート使用したチェック(直し)を行います。コンピューター上の画面も本機と全く同じなので、操作も簡単です。


そして本番もトラブル無く無事終了。USBメモリーを渡し、ばらしもREACケーブル2本を巻くだけという、最後までシンプルで疲れない優れものです。音質についても、ミュージシャンや関係者から"デジタルを感じさせない"と高評価でした。


M-300をはじめ、V-Mixerは今までのアナログとデジタルの境界線を無くし、現場の労力とトラブルを軽減する画期的な製品です。しかも、さまざまな面でのコスト・ダウンやサイズ・ダウンが図られ、まさにパーフェクトとしか言いようのないアイテムだと思います。M-400を持つユーザーからすると現場すべてがV-Mixerになればと、今回のレビューで再確認させられました。


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▲リア・パネル。上段左からTRSフォーン出力端子×4、XLR出力端子×4、RCAピン入力端子×4、TRSフォーン入力端子×4、XLR入力端子×4(ファンタム電源対応)。下段左からデジタル出力×1(オプティカル)、RS-232C端子、入力端子(D-Sub 9ピン)、RS-232C/MIDI切り替えスイッチ、MIDI OUT(THRU)/IN、USB、REAC A/


『サウンド&レコーディング・マガジン』2010年9月号より)


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M-300
472,500円
▪チャンネル数/32ch入力、メインLCR/8AUX、4マトリクス、最大80ch出力▪内部信号処理/24ビット、44.1/48kHz ▪総信号遅延時間/約2.8ms▪ダイナミック・レンジ/105dB(XLR出力端子/TRS出力端子) ▪外形寸法/470(W)×194.9(H)×482.7(D)mm(卓上設置時) ▪重量/9.8kg