48Vファンタム電源を供給して動作
パッシブ・マイクの出力値を29dB増幅
インライン・プリアンプとは、マイクとマイク・プリアンプの間に接続して、48Vファンタム電源を供給することで動作するアンプ。リボン・マイクやダイナミック・マイクといったパッシブ・マイクの出力ゲインを増幅するのに有効な機材です。ここ数年の間でさまざまなメーカーからインライン・プリアンプが登場していますが、TRITON AUDIOは早い時期からFetheadの名を冠するインライン・プリアンプ・シリーズをラインナップしていたと記憶しています。
Fethead Germaniumは、既発機のインライン・プリアンプFetheadにゲルマニウム・トランジスターを採用したモデルです。トランジスターは1950年ごろからオーディオ回路上で信号増幅やスイッチングのために使用されているパーツですが、その当初使われていた素材はこのゲルマニウムでした。しかし、ゲルマニウムは温度変化によって特性が変化するという欠点があり、トランジスターの素材は次第にシリコンに取って代わられたのです。そのような経緯がありながらも、ゲルマニウム・トランジスターは、Fethead Germaniumのような現代の機材にもしばしば使用されています。NEVEやTELEFUNKENのマイク・プリアンプといったビンテージ・ギアにはゲルマニウム・トランジスターを搭載したモデルが多く、その色気のある独特なサウンドの再現に現在においても必要とされているパーツなのです。
届いたFethead Germaniumは、ダンボール製の円筒に専用の布製バックと共に収められていました。筐体はマイクに直接つないでも邪魔になることのない太さに設計されています。Fethead Germaniumの使用方法は至ってシンプル。マイクのXLR端子にFethead Germaniumをつなげ、その後段にマイク・ケーブルからマイク・プリアンプに接続します。そしてマイク・プリアンプからファンタム電源を送ることで、Fethead Germanium内部のFETアンプが動作する、という仕組みです。
SN比の向上でクリアかつリアルな音色に
中高域に偶数倍音が多く付加される
今回は実際のボーカル録音の現場で、ダイナミック・マイクのSHURE SM7Bを使ってチェックしてみます。マイクとマイク・プリアンプの間にFethead Germaniumを挟むことで、ゲインが大幅に上がりました。Fethead Germaniumの有無を同一のレベルで比較してみると、Fethead Germaniumを接続した方が明らかにSN比の良いサウンドです。一回りクリアかつリアルな音色になり、録音対象の細かなニュアンスまで聴き取れます。
ゲルマニウム・トランジスターを搭載していないノーマルのFetheadもお借りできたので、こちらと比較してみることに。Fethead Germaniumと比べて少々大人しい印象で、ゲルマニウム・トランジスターがサウンドに影響を与えていることが確認きました。両モデルが持つ音質変化のキャラクターとしては、中低域にわずかに厚みが加わるように感じます。
レコーディング終了後に、Fethead GermaniumとFetheadを測定にかけてみました。するとFetheadがフラットな特性であるのに対して、Fethead Germaniumは入力レベル0dBu付近から少量の偶数倍音が付加され、その倍音は中高域に行くほど多くなっていることが確認できました。クリーンに収録したい場合はFethead、パンチのある音色を求める場合はFethead Germaniumを選択すると良いでしょう。
今回使ってみて、Fethead Germaniumは非常にコスト・パフォーマンスに優れたインライン・プリアンプだと思いました。劇的にSN比が改善されるFethead Germaniumの特性は、マイクからコンソールへの信号経路が長い大規模のレコーディング・スタジオや、コンサートで大いに役に立ってくれることでしょう。
また、自宅環境用のマイクやオーディオ・インターフェースでゲインが小さいモデルを使用している場合、Fethead Germaniumはそれらを買い変えるよりも低コストにその問題を改善してくれるはずです。ただし、Fethead Germaniumはファンタム電源が必要なコンデンサー・マイクには使えないので要注意。コンデンサー・マイクの出力ゲインを上げたい場合は、同社のFethead Phantomを使用しましょう。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2020年3月号より)