「UMBRELLA COMPANY HP-Adapter/BTL-Adapter」製品レビュー:ヘッドホンの信号伝送と駆動の改善をうながすバッファー・アンプ

UMBRELLA COMPANYHP-Adapter/BTL-Adapter
 UMBRELLA COMPANYから、ヘッドホン用のバッファー・アンプが発売されました。オーディオI/Oやキュー・ボックス、ユニバーサル・プレーヤー、DAC、パソコンなどのヘッドホン端子とヘッドホンの間に接続するもので、信号伝送と駆動の大幅な改善を図るそうです。ラインナップは、一般的なフォーン端子のヘッドホンに向けたHP-Adapter、バランス接続用のBTL-Adapterの2機種となっており、音楽制作からオーディオ・リスニングまで幅広い用途に向けています。早速チェックしていきましょう。

過渡特性や解像度が上がり
演奏がとらえやすくなるHP-Adapter

 HP-AdapterとBTL-Adapterでは“アクティブZEROインピーダンス出力回路”というコンポーネントにより、出力インピーダンスが0Ωになるようコントロールされています。その結果、周波数レスポンスのばらつきが軽減され、フラットな特性を得られるそうです。

 まずはHP-Adapterから見ていきましょう。前面にはヘッドホン端子(フォーン)とゲイン切り替えスイッチ(+10dB、0dB、ミュート)を装備。細かい音量調整は基本的にオーディオI/Oなどの方で行い、本機ではどのレベルで受けるかを選択します。背面は、入力端子(TRSフォーン)と電源端子のみというシンプルな構成。音質劣化の原因になり得るボリューム・コントロールが付いていないところに、リファレンス・サウンドへのこだわりが感じられます。

 まずはオーディオI/Oに接続し、マスタリング後の曲を聴いてみます。第一印象は“随分と音が大きくなる”というもの。オーディオI/O側の音量を固定にし、HP-Adapterを使用する前と後を聴き比べているうちに、機材としての実力がだんだんと分かってきました。印象をまとめてみると……。

①まず音が速い。分解能が高く、一音一音をはっきり、くっきりと再生。よどみが無くなり、タイミングやピッチがとらえやすく、ダイナミクスの表現や演奏のニュアンスも分かりやすい
②さまざまなインピーダンスのヘッドホンやイヤホンをつないでも、印象があまり変わらない

 以上のことから、音楽制作を中心に考えて開発されたのではないかと強く感じました。ご存じの通り、ミックス完了前は比較的小さな音量で作業が進みます。加えて、音をはっきりとさせる処理もミックス後に比べてあまりなされません。なので必然的に、キュー・ボックスには小音量かつ中低域がそこまで処理されていない音が返っています。そこで本機の出番。音量が通常のレベルくらいまで上がりますし、ダイナミクスが分かりやすく、音の立ち上がりが速いのでタイミングもとらえやすい。先述の通り、よどみが無くピッチも取りやすいです。リスニング用途でも、いろいろなヘッドホンに対してベストなパフォーマンスを発揮してくれるので、複数機種の聴き比べなどの楽しみが増えると思います。

▲︎HP-Adapterのリア・パネル。ステレオ・フォーンのアナログ入力と電源端子のみをレイアウトしたシンプルな仕様 ▲︎HP-Adapterのリア・パネル。ステレオ・フォーンのアナログ入力と電源端子のみをレイアウトしたシンプルな仕様
▲︎BTL-AdapterのリアもHP-Adapterと同じ構成 ▲︎BTL-AdapterのリアもHP-Adapterと同じ構成

HP-Adapterと同じ傾向ながら
さらなる立体感を呈するBTL-Adapter

 次に、バランス接続用のBTL-Adapterをチェックします。外見は、ヘッドホン端子が4ピンXLRで、BTL(Balanced Transformer Less)駆動になる以外はHP-Adapterと同じです。音の印象は、HP-Adapterより余裕があって定位の再現や分離、立体感がさらに向上している感じ。BTL駆動だけあり、解像度はさすがだと思いました。ヘッドホンは4ピンXLR仕様のものが必要になりますが、それだけの恩恵はあると感じます。レコーディング・エンジニアは、ミュージシャンに良い演奏をしてもらうための環境作りが第一。特に、演奏しやすいモニターを提供するのは重要な役割の一つです。本機があればリズムやピッチが取りやすいヘッドホン・モニターで、演奏をサポートしてくれるでしょう。

 リスニング用途においても余裕と高級感があり、立体感もHP-Adapterを上回っていると思うので、疲れずに長時間音楽を楽しめそう。解像度が高いため、これまで気付かなかった演奏者の息遣いなどを感じられるかもしれません。

▲BTL-Adapterのチェック・シーン。キュー・ボックスのライン・アウトを接続している ▲BTL-Adapterのチェック・シーン。キュー・ボックスのライン・アウトを接続している

 2機種に共通して感じたのは、分解能が高くてダイナミクスの表現が分かりやすく、リズムのニュアンスがつかみやすいということ。そして、ピッチや演奏ニュアンスを忠実に返してくれることです。キュー・ボックスに接続してオーバーダブしてみると思っていた以上に演奏しやすく、作業も音楽的に進めることができました。接続が簡単で、キュー・ボックス操作も今までと変わらないためストレスを感じません。

 スピーカーから音を出せない簡易的な宅録システムでは、HP-Adapterが作業の世界をがらりと変化させることでしょう。BTL-Adapterについては、ヘッドホンをバランス仕様にしなければならず少しハードルが高いように思いますが、ここはUMBRELLA COMPANYのこだわりどころ。一度試聴して、その恩恵を十分に味わってほしいです。エンジニアやミュージシャンの方は、これ一台持っておけば、どんなスタジオに行こうとも自分のいつものモニター環境を整えられるはず。派手ではありませんが演奏の実力を十分に発揮でき、作品クオリティ向上のための強い味方となることでしょう。

サウンド&レコーディング・マガジン 2020年1月号より)

UMBRELLA COMPANY
HP-Adapter/BTL-Adapter
各20,000円
⃝HP-Adapter ▪ヘッドホン端子:フォーン ▪全高調波ひずみ率:0.001%以下(@1kHz、+10dBu出力、50Ωロード) ▪最大出力レベル:+11dBu(50Ωロード) ⃝BTL-Adapter ▪ヘッドホン端子:4ピンXLR ▪全高調波ひずみ率:0.008%以下(@1kHz、+10dBu出力、50Ωロード) ▪最大出力レベル:+15dBu(50Ωロード) ⃝共通 ▪入力インピーダンス:15kΩ ▪出力インピーダンス:0Ω ▪周波数特性:0.1Hz〜50kHz(±0.5dB、@0dBu出力、50Ωロード) ▪外形寸法:61(W)×37(H)×113(D)mm ▪重量:195g