「MODOR NF-1」製品レビュー:10種類のオシレーター波形を搭載する8ボイス・デジタル・シンセ

MODORNF-1
 MODORは、ベルギーを拠点にするシンセサイザー・ブランド。今回レビューするNF-1が最初に発売されたのは2015年ですが、小ロット生産のため日本に上陸することはありませんでした。しかし2019年、USBポートなどが追加されたリニューアル・モデルが満を持して日本に入荷。幸運にもその中の一台をレビューすることになりました。

10種類のオシレーター波形
MODつまみで多彩な音色変化を実現

 NF-1を箱から出してまず目を引くのは、白い筐体とフロント・パネルに配された数々のつまみやボタンでしょう。つまみは斜めに並んでいたりするところがちょっと風変わりとも言えますが、逆に筆者はそこが開発者のこだわりだと思えて好印象です。また、付属品として木製サイド・パネルとラック・マウント用の金具が同梱されています。木製サイド・パネルは、間違いなく大人気となるでしょう。

▲木製サイド・パネルを装着した状態 ▲木製サイド・パネルを装着した状態

 リア・パネルを見てみましょう。左端から、外部のMIDIコントローラーやコンピューターと接続し、MIDIデータの受け渡しなどを行うためのUSB Type-B端子のほか、ボリューム、サステイン(いずれもフォーン)、ステレオ出力L/R(フォーン)が備えられ、Lchはヘッドフォン出力としても使用可能です。それからMIDI THRU、OUT、INが配されています。

▲リア・パネル。左端から、外部のMIDIコントローラーやコンピューターと接続し、MIDIデータの受け渡しなどが可能なUSB Type-B端子のほか、ボリューム、サステイン、ステレオ出力L/R(以上すべてフォーン)、MIDI THRU/OUT/INを備える。Lch出力はヘッドフォン・アウトも兼ねている ▲リア・パネル。左端から、外部のMIDIコントローラーやコンピューターと接続し、MIDIデータの受け渡しなどが可能なUSB Type-B端子のほか、ボリューム、サステイン、ステレオ出力L/R(以上すべてフォーン)、MIDI THRU/OUT/INを備える。Lch出力はヘッドフォン・アウトも兼ねている

 NF-1の信号の流れですが、オーディオ系はオシレーターからフィルター、アンプ、そこにエフェクトが加わり、変調系はLFOとエンベロープ・ジェネレーターを搭載するという極めてオーソドックスなもの。しかし細かく見ていくと、これがなかなかあなどれない仕様であることが分かります。

 オシレーター・セクションでは、全10種類もの波形を扱うことができます。

▲オシレーター・セクション(ピンク枠)。オシレーターを合計3基備え、ノコギリ波、矩形波、三角波、シンク波、加算合成法高調ノコギリ波、ソナー・ノイズ、ウィンドウ・ノイズ、アーケード・ノイズ、サインFM、サイン・フィードバックFMという全10種類の波形を扱える。これら以外に、ホワイト・ノイズも用意。オシレーター2/3によるリング・モジュレーションも可能 ▲オシレーター・セクション(ピンク枠)。オシレーターを合計3基備え、ノコギリ波、矩形波、三角波、シンク波、加算合成法高調ノコギリ波、ソナー・ノイズ、ウィンドウ・ノイズ、アーケード・ノイズ、サインFM、サイン・フィードバックFMという全10種類の波形を扱える。これら以外に、ホワイト・ノイズも用意。オシレーター2/3によるリング・モジュレーションも可能

 まずはノコギリ波/矩形波/三角波という3種類の波形から。古典的な減算合成シンセだと、波形を選択してフィルターで倍音をカットするという流れが基本ですが、NF-1の場合はもう一つ、波形を選択した段階で倍音をコントロールすることが可能です。

 やり方はMODつまみを回すか、LFOやエンベロープなどを使います。一番分かりやすいのは矩形波で、MODつまみを回すことで周期幅が変化してPWMができるわけです。これがノコギリ波だとMODつまみを回すにつれて矩形波っぽい波形になりますし、三角波だとさらに倍音を付加することができたりします。つまり、基本的な3種類の波形しかないように見えますが、実際にはもっと多彩なのです。

 次のシンク波は、いわゆるオシレーター・シンクのこと。演奏しながらMODつまみで音色を変えたり、エンベロープを使って時間軸で変化を付けたりすればおなじみのオシレーター・シンク・サウンドが楽しめます。

加算合成や複雑なノイズも用意
FMではモジュレーター自身の変調も可能

 続いて、加算合成法高調ノコギリ波。本来は基音を元に倍音を加算していくことで音作りをしますが、NF-1では初期設定がノコギリ波の倍音並びになっており、MODつまみを回すことで16倍音までの加算が可能です。独特のサウンドが味わえるでしょう。ちなみにここでは基音以外の高調波を特定のルールで増減させることができます。これは、オシレーター・セクションの左下にあるFM CARRIERボタンとフロント・パネル上部にあるSELECTつまみで設定可能です。

 さて、ここからはオシレーター波形の変わり種が3つ続きます。最初はソナー・ノイズとウィンドウ・ノイズの2種類。どちらも理屈的にはノイズをバンドパスに通し、MODを回してレゾナンスをコントロールするというものです。ソナー・ノイズはダークかつくぐもった音色で、ウィンドウ・ノイズは金属をチェーンソーで切るときに鳴るような、筆者お気に入りのサウンド。昭和だと、これだけのことでもシンセを丸々一台使っていましたが、NF-1ではオシレーター部分だけで実現でき、これはデジタルならではのアドバンテージだと言えるでしょう。

 3種類目はアーケイド・ノイズです。その名の通り、初期のテレビ・ゲームでよく聴くようなノイズ音がします。MODつまみを回すと“バリバリ”というサウンドから“ビキビキ”といった音色に変化するのですが、これはテレビ・ゲーム好きなユーザーなどから熱望されること間違いなしでしょう。

 残る2つの波形はFM系。サインFM/サイン・フィードバックFMでは、生成したサイン波を“キャリア”、それを変調させるもう一つのサイン波を“モジュレーター”と呼びます。ちなみにこのモジュレーターの音は聴こえません。初期設定ではこれら2つの周波数比は1:1ですが、先述したFM CARRIERボタンとその右隣にあるFM MODULATORボタンを押すことによって変更可能。サイン・フィードバックFMでは、モジュレーター自身も変調します。これにより、サインFMよりもさらに倍音が多いサウンドが作れるようになるのです。

 NF-1には、これら10種類の波形を持つオシレーターが合計3基搭載されているため、組み合わせ次第で自由度の高い音作りが可能になるでしょう。

自己発振可能なマルチモード・フィルター
10種類のフォルマント・フィルターを内蔵

 NF-1のフロント・パネルには2つのフィルター・セクションがあり、それぞれ違ったタイプのフィルターを搭載しています。1つ目はフィルター・カーブが−12dB/Octの典型的なマルチモード・フィルターで、ローパス/ハイパス/バンドパス/ノッチ(バンド・ストップ)の4種類を装備。ローパス・フィルターではレゾナンスつまみを最大まで上げると自己発振し、鍵盤入力でピッチの追従も可能です。

▲ローパス/ハイパス/バンドパス/ノッチ(バンド・ストップ)の4種類を備えるマルチモード・フィルター・セクション(紫枠)と、フォルマント・フィルター・セクション(オレンジ枠)。フォルマント・フィルターにおけるピーク周波数の組み合わせは、10種類のプリセットに加えてユーザー独自の設定も行える ▲ローパス/ハイパス/バンドパス/ノッチ(バンド・ストップ)の4種類を備えるマルチモード・フィルター・セクション(紫枠)と、フォルマント・フィルター・セクション(オレンジ枠)。フォルマント・フィルターにおけるピーク周波数の組み合わせは、10種類のプリセットに加えてユーザー独自の設定も行える

 2つ目は、人の声に含まれている特徴的な周波数ポイントにピークを付けるフォルマント・フィルター。これによって人間の脳は、音声を母音のように認識できることが分かっています。例えば母音の“A”なら808/1,132/2,848/3,852Hz、“O”だと412/808/2,725/4,845Hzにピークを持ってくるといった具合です。NF-1にはこのような周波数帯域のピークを組み合わせたプリセットが10種類用意されており、使用したいものを3スロットまで選べます。

 例えばオシレーターはノコギリ波で、フォルマント・フィルターは“A/O/E”の3つを選択。そしてFORMANTつまみを回すとあら不思議、“あぁーおぉーえぇー”と聴こえるのです。この例の場合、必ずA/O/Eの順番で再生させる必要はありません。Oからスタートし、LFOやエンベロープなどで変調させたりしてもいいでしょう。試しにコードを弾いてみると、まるでロボットのコーラス・グループが歌っているかのようなサウンドが出現……! こういったシンセだからこそ出せる、人工的な音色はとても魅力的だと感じました。

 ここで紹介した2つのフィルターは、フォルマント・フィルター・セクションにあるROUTEボタンで直列/並列にルーティングが変更可能。またMIXつまみを回すことで、フォルマント・フィルターの効果を確認することができるようになっています。簡単な例を挙げるとすれば、“ミャウミャウ”というレゾナンスを使ったフィルター・ベースを、次第に“ワウワウ”といったような音色に変化させることができるのです。

癖の無い素直なサウンド
ディレイなど3つのエフェクトを搭載

 最後に、NF-1の変調系=モジュレーター・セクションについて。左側にはLFOつまみが3つとS&H(サンプル&ホールド)つまみが1つ、右側にはエンベロープに関する各つまみとグライドつまみを装備しています。LFO1では0.1〜10Hzまでのノーマル・モードと2〜200Hzまでの高速モードが選択可能。また、LFO1は打鍵ごとに開始点が異なるポリフォニック仕様で、オシレーター・セクションにパッチングされています。対するLFO2は常に開始点が同じモノフォニック仕様で、フィルター・セクションにパッチング。ちなみにLFO1/2はサイン波/矩形波/ノコギリ波/三角波の4種類を設定できますが、LFO3は三角波のみで、外部MIDI鍵盤のモジュレーション・ホイールにアサインされています。

▲モジュレーター・セクションには、サイン波/矩形波/ノコギリ波/三角波の切り替えが可能なLFO1/2と、三角波のみ選択できるLFO3、ランダムな値に信号をジャンプさせることができるS&H(サンプル&ホールド)を装備。またエンベロープを4基搭載し、ループ・モードも設定できる ▲モジュレーター・セクションには、サイン波/矩形波/ノコギリ波/三角波の切り替えが可能なLFO1/2と、三角波のみ選択できるLFO3、ランダムな値に信号をジャンプさせることができるS&H(サンプル&ホールド)を装備。またエンベロープを4基搭載し、ループ・モードも設定できる

 エンベロープは4基搭載されていますが、ユニークなのは基本はADSRでありながら、アタックとディケイの間にポイント(T2)追加され、その時間やレベルを調整できること。またエンベロープにループ設定をかけることも可能です。

 そのほか、NF-1にはモジュレーション・マトリクスがあります。例えばベロシティの強さでエンベロープ3のアタック・タイムを微妙に変化させつつ、そのエンベロープ3自体をソースにしてカットオフを動かすなんていうことができるのです。

 NF-1の最終段にはエフェクト・セクションが設けられ、コーラスやディレイなどのエフェクトを設定可能。こちらのパラメーターも当然マトリクス・モジュレーションの対象となりますので、積極的に音作りに組み込みたいものですね。ちなみに同社のフリー・ソフトウェアModorを使えば、コンピューターからNF-1の音色を管理/作成することもできます。

 NF-1の音は癖が無く、とても素直な印象。アナログ系のサウンドについて言うなら、MOOGよりARP Odysseyのようなシャープで芯のあるイメージが近いです。FMや加算合成では1980年代当時よりもSN比が良く、音が立っているのでさまざまな使い方ができるでしょう。またアーケード・ノイズの音はなかなか出せそうで出せないので、好きな人は要チェック。プリセットは448パッチもあり、アナログ・シンセから1980年代のデジタル・ミュージック、EDM、サウンドスケープ系のシンセ・サウンドまで幅広く収録しています。しかも、どこかで聴いたことがあるような音は少なめで、逆にこだわった音色が多いなというのが印象的でした。NF-1は、ほかとは外観や仕様が一味違うちょっと個性的なシンセサイザー。音作り大好き派には、マストなアイテムだと思います。

サウンド&レコーディング・マガジン 2019年10月号より)

MODOR
NF-1
オープン・プライス(市場予想価格:157,300円前後)
▪最大同時発音数:8 ▪ステレオ・デジタル・オシレーター:3基(ノコギリ波/矩形波/三角波/シンク波/加算合成法高調ノコギリ波/ソナー・ノイズ/ウィンドウ・ノイズ/アーケード・ノイズ/サインFM/サイン・フ ィードバックFM) ▪フィルター:マルチフィルター×1、フォルマント・フィルター×1 ▪LFO:3基(サイン波/矩形波/ノコギリ波/三角波) ▪エンベロープ:ADSR×4 ▪モジュレーション・マトリクス:19ソース×86デスティネーション ▪デジタル・エフェクト:コーラス、フランジャー、ディレイ ▪外形寸法:440(W)×80(H)×267(D)mm ▪重量:4.65kg(実測値)