「MACKIE. DRM12A / DRM18S」製品レビュー:独自DSPとクラスDアンプを搭載するラインアレイ&サブウーファー

MACKIE.DRM12A / DRM18S
意欲的な製品展開を見せるMACKIE.から、フラグシップPAスピーカーのDRMシリーズが登場しました。コスト・パフォーマンスに優れた同シリーズには、個人的に出てほしかったラインアレイも含まれており、期待が持てます。

65Hzまでの再生能力を持つDRM12A
共振によるひずみをFIRフィルターで防ぐ

今回テストするのは、12インチのウーファー部を搭載するDRM12Aと、18インチのサブウーファーDRM18S。DRM12Aはラインアレイ・スピーカーで、指向性は垂直20°/水平110°です。どちらも2,000WのクラスDアンプとDSPを内蔵しています。別売りのスピーカー・ポールやフライング・キットを使えば、複数のDRM12Aを重ねてスタックする、DRM18Sにポールを立ててDRM12Aをポール・マウントする、大きい会場用につり下げる、といった設置が可能です。

▲DRM12Aのリア・パネル。写真左側にはLCDとロータリー・エンコーダー、XLR入力端子、XLR出力端子が備わっている。写真右側にはPowerCon電源端子とサーキット・ブレーカー・スイッチ、DRM12Aをデイジー・チェーン接続するための電源スルー端子がある▲DRM12Aのリア・パネル。写真左側にはLCDとロータリー・エンコーダー、XLR入力端子、XLR出力端子が備わっている。写真右側にはPowerCon電源端子とサーキット・ブレーカー・スイッチ、DRM12Aをデイジー・チェーン接続するための電源スルー端子がある

重量はDRM12Aが25kg、DRM18Sが40kg。別売りのスピーカー・ポールSPM400(オープン・プライス:市場予想価格5,400円前後)を使い、DRM18Sに乗り上がってDRM12Aをポール・マウントしましたが、さほど苦ではありませんでした。試聴してみた第一印象は“意外とおとなしめのサウンド”だということ。同価格帯のスピーカーでは派手めにチューニングされていることが多いのですが、DRM12A+DRM18Sはアコースティック系のライブにも使いやすそうです。

▲DRM18Sのリア・パネル。写真左側にはLCDとロータリー・エンコーダー、2chの入出力端子がある。各チャンネルにはマイク/ライン・イン(XLR/フォーン・コンボ)、ダイレクト・アウト(XLR)、ハイパス・アウト(XLR)を装備 ▲DRM18Sのリア・パネル。写真左側にはLCDとロータリー・エンコーダー、2chの入出力端子がある。各チャンネルにはマイク/ライン・イン(XLR/フォーン・コンボ)、ダイレクト・アウト(XLR)、ハイパス・アウト(XLR)を装備

低域をサブウーファーに頼るような100Hz以下が出ないハイボックスのシステムでは、観客によってサブウーファー前がふさがれたとき、上空が低域不足になることがよくあります。しかし、DRM12Aは65Hzあたりまで出ていて好感が持てました。ポート・チューニングを下げ、12インチの低域ドライバーを1,620Wのアンプ出力を用いて大振幅化し、この再生域を実現しているのでしょう。

音がおとなしく感じたのは、DRM12Aの12インチ低域ドライバーと1インチ高域ドライバー×3の音のつながりがスムーズにできているためでもあるようです。スペックを見てみると、クロスオーバー周波数は1kHz(−24dB/oct)と書かれています。12インチ・ウーファーのスピーカーとしては、1kHzという周波数設定は低い方。通常、12インチ・ウーファーであれば2~3kHzまでは楽勝で再生されますが、DRM12Aでは大振幅化によって起きるウーファー・ユニットの高域部分でのドップラーひずみを避けるため、1kHzまで下げたのだと思います。そうすると高域ドライバーのホーン部を大きくしなければならず、タイム・アライメントやホーンの共振によるひずみ感の増加などを対処しなければいけません。そこでFIRと呼ばれるフィルターを搭載し、電気的に対処をしています(DRM18Sも内蔵しています)。

次は破たん寸前時の音を聴くため、ドラムを荒々しく演奏してもらい、内蔵リミッターが効くところまで乱暴に音を突っ込んでみました。リミッターが警告的に効き始めた段階で冷静に少し下げれば、リミッティングされたことは気付かれないでしょう。もちろん度を越すと、ステージ上の生音とシンクロしなくなり、リミッティングされて“ハグハグ”したような音になってきますが、それでもパワー・アンプのひずみは起きにくいです。このとき、ポートからの風量はかなり大きくなりますが、それをパワー・アンプの放熱に流用しているというメーカーの説明にはうなずけました。また、クラスDアンプへ必ず搭載されているスイッチング電源にパワー・ファクター・コレクション・テクノロジーなるものを採用し、不安定な電源使用時にも安定した駆動をするとのことです。

カーディオイド・モード対応のDRM18S
2〜3台を組み合わせた設置が可能

DRM18Sは、2〜3台を使用することでカーディオイド・モードを使用できます。3種類の置き方ができるので、会場に合わせて最適なセッティングが可能です。DRMシリーズのシステムにDRM18Sを加える場合、クロスオーバー周波数は90Hzが通常の設定となっていますが、自分で40〜160Hzの間に設定することもできます。ハイボックスをフルレンジで鳴らし、DRM18Sとわずかにオーバー・ラップさせるなど、プロ・エンジニアならではの応用も可能です。ステージ設計から立ち会えるなら、センター床下にモノで配置し、L/Rのハイボックスとは別系統で送るというプランもありかと思いました。

DRM12AとDRM18Sは共にリア・パネルにDSPのコントロール部を備えています。各種メーターが表示される“MAIN”、最大100msのディレイを設定できる“DELAY”、設定の保存/呼び出し(最大6つ)やアクセス制御ができる“CONFIG”は両機種に共通したメニュー。DRM12Aにはアレイの本数に合わせたプリセットを選べる“ARRAY”、サブウーファー使用時のクロスオーバーを設定する“SUB"、リアルタイム・アナライザーを見ながら3バンドのシェルビングEQを設定できる“EQ”が備わっています。また、DRM18Sには極性を変更できる“MODE”、カーディオイド・モード設定を行う“CARDIO”、クロスオーバーを設定する“X-OVER”があります。

▲DRM12AのDSP設定画面。6つのモードがあり、そのうちの一つであるARRAYでは、最大約30m分の空気損失を計算して音を補強してくれるなど、スピーカーの構成に合わせたプリセットを選べる ▲DRM12AのDSP設定画面。6つのモードがあり、そのうちの一つであるARRAYでは、最大約30m分の空気損失を計算して音を補強してくれるなど、スピーカーの構成に合わせたプリセットを選べる

DRM12AとDRM18Sは、すべてが水準に達していて機能に過不足が無いスピーカーです。特に“過”の部分が無く、プロ機として応用の余白部分がある点が気に入りました。パッシブ・モデルもリリースされているというのは、スピーカー部への自信の表れでしょう。良いエレアコギターを作ろうとするときのように、ピックアップ(=パワー・アンプ)に頼らず、まずは良いギター(=スピーカー)を作る。そういうニュアンスが感じられます。品行方正なサウンドは“ユーザーの意図をできる限り反映します”と言われているように感じました。

サウンド&レコーディング・マガジン 2019年8月号より)

MACKIE.
DRM12A / DRM18S
オープン・プライス(DRM12A:市場予想価格200,800円前後、DRM18S:市場予想価格141,800円前後)
●DRM12A ▪ユニット構成:1インチ・ドライバー×3基+12インチ・ウーファー ▪パワー・アンプ:2,000W(クラスD) ▪周波数特性:50Hz〜20kHz(–10dB)、65Hz〜20kHz(–3dB) ▪指向特性:110°(水平)×20°(垂直) ▪最大音圧レベル:135dB ▪外形寸法:627(W)×386(H)×457(D)mm ▪重量:24.9kg ●DRM18S ▪ユニット構成:18インチ・ウーファー ▪パワー・アンプ:2,000W(クラスD) ▪周波数特性:30Hz〜120Hz(–10dB)、35Hz〜160Hz(–3dB) ▪最大音圧レベル:135dB ▪外形寸法:584(W)×592(H)×790(D)mm ▪重量:40.8kg