パラレル・コンプ機能を採用したSlam
Gateは3つのセッティングを搭載
まずはDyna-miteのコンプレッサー/リミッター部分に相当するSlamから。左上にあるCOMPRESSIONノブを右へ回すと圧縮が強まり、その右隣にあるRELEASEノブで0.05〜5sのリリース・タイムを、右下にあるOUTPUTノブで±15dBの出力ボリュームを設定します。SlamにはDyna-miteと同様、コンプレッションした際の音量低下を調整する“自動メイクアップ・ゲイン機能”を搭載しているので便利です。COMPRESSIONノブの真下には、パラレル・コンプのブランド量を決めるDRY/WETノブを採用。もし仮に激しく圧縮したとしても、左に回すとドライ信号がブレンドされるので、本来のトランジェントを簡単に取り戻すことが可能です。
画面最下段には、アタックを2段階で調節できるFAST/SLOWボタン、リミッターピーク検出時の高周波の量を増幅するHF BOOSTボタン、外部サイド・チェインをオンにするEXT. S/Cボタンを搭載。ちなみにEXT. S/Cボタンをオンにすると、自動メイクアップ・ゲイン機能は無効となります。
次にGateを見ていきましょう。こちらはDyna-miteのゲート/エクスパンダー部分に相当し、Slamと同様シンプルで分かりやすい画面構成。左上にあるTHRESHOLDノブでゲートの感度を調整し、その下にあるRANGEノブで0〜60dBの範囲でゲイン・リダクション量を設定します。またRELEASEノブとOUTPUTノブ、HF BOOSTボタン、EXT. S/CボタンはSlamと同じ仕様です。
画面最下段には、FAST GATEボタン、FAST EXP.ボタン、SLOW EXP.ボタンを搭載。FAST GATEボタンはアタックの速いハード・ゲーティング(1:20)を、FAST EXP.ボタンはアタックの速いエクスパンディング(1:2)を可能にし、どちらも主にドラムなどのパーカッシブなサウンドに役立つと思います。最後のSLOW EXP.ボタンは、アタックの遅いエクスパンディング(1:2)を行い、ストリングスやシンセ・パッドなど立ち上がりが遅いサウンドに向いていると言えるでしょう。
なおDyna-miteをはじめSlamとGateには、急なゲイン変動によるポンピング現象などを抑える“信号予測リリース計算機能”が装備されています。
リリース・コントロールがしやすいSlam
程良いアナログの質感を付加するGate
それでは、SlamとGateにドラムを通してチェック。まずはSlamですが、リミッターはだいぶ強くかかります。アタックのFASTボタンをオンにして使ってみたところ、とても格好良いつぶれ方をしてくれました。RELEASEノブは効きが良く、余韻の長さとグルーブをうまく調整することができます。余韻は曲のグルーブ感に直結するので、この部分のコントロールがやりやすいのは大きなアドバンテージだと言えるでしょう。
ベースやギター、ボーカル、鍵盤などでは、アタックをSlowモードにして薄くかけると音が締まり、奥行きも感じられるのでリバーブの乗りが良くなりました。Slamは基本的なミックス処理後に、最後にもう一味何か足したい!というときなどに役立つでしょう。ただし狙いがない限り、かけ過ぎには注意した方がよさそうです。
Gateは正直、ほかのプラグインとあまり変わらないだろうと思っていたら大間違い。筆者のベスト・ゲート・プラグインとなってしまいました! まずはその音の太さ。決してベタッとはしておらず、程良いアナログ感が付与されるのです。これはSl
amにも共通する質感でしょう。パラメーターが少ないため細かいゲート処理をするには向いていないかもしれませんが、サウンドと操作性は“文句無し”の一言です。
ほかに面白いと思ったのはプリセット・コレクション。各プリセットをタグで管理できるので、求めるサウンドを素早く見つけることが可能です。筆者の一押しは、Gateプリセットの中にあるDistorted Gate。エクスパンダーのかかり具合と過大出力をうまく利用した緩いひずみのセッティングで、ドラムやパーカッションなどに大変役に立ちそうです。
SlamとGateはどのパートにも使えると思いますが、特にドラムにおいては大きな武器となるでしょう。また、ドラム用に何か新しいコンプを試してみたいと思っている方にもぜひお薦め。きっと今までのサウンド・メイキングに幅を持たせることができるはずです。またシンプルな画面構成のため、直感的な音作りがしやすいというのも大きな利点。今回のアップデートは非常に価値あるものになったと思います。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2019年5月号より)