3chのデジタル・ミキサーを内蔵
iOSデバイスでリモート操作が可能
まずは製品スペックから見ていこう。ツィーターに2インチ径のネオジム・ドライバー×4基、ウーファーに6.5インチ径のハイエクスカーション・ドライバー×2基を装備している。最大音圧レベルは122dB SPLで、周波数特性は40Hz~20kHz。高域にクラスAB、低域にクラスDのパワー・アンプを採用し、最大出力は600Wを誇る。KLARK TEKNIKのテクノロジーが採用されたパワー・アンプで、3D音響用のSpatial Sound Technologyやリバーブ・エフェクトも同社技術によるもの。またAPPLE iOSデバイスでも操作可能な、3chのデジタル・ミキサーを内蔵している。リアには2系統の入力端子(XLR/フォーン・コンボ)が備えられており、それぞれにリンク出力(XLR)を装備。
高さが71.3cmで重さはわずか11.9kgの筐体にはトップとリアに片手で持てるよう取手が付けられており、実際に1人で簡単にスタンドへ設置できた。
まずは説明書を見ないで操作してみた。電源を入れるとLCDスクリーンが点灯するので、音色を変更するPROCESSボタン、あるいはBluetooth接続などの設定を行うSETUPボタンから各セクションに入って操作する。音量調節はアナログのボリューム・ノブではなく、ジョグ・ダイアルを使用。こちらはDSP機能の操作時に押し込むことで、決定のアクションを行う役割も担っている。
PROCESSボタンを押すと、入力A/BとBluetoothの音量をコントロールするInput Level、3バンドEQ、加えてMusic/Live/Speech/Clubのプリセットを用意するModeと、スピーカーの設置位置をStand/Wall/Cornerのいずれかに設定するPositionが表示される。PROCESS内の項目はどれもシンプルで分かりやすい作りだ。
続いてAPPLE iPhoneに専用アプリケーションのTurbo Controlをインストールし、Bluetoothでペアリングをしてリモート・コントロールを行った。Turbo Controlは入力A/Bとマスターの3系統のボリューム調節、EQ調節、ModeとPositionのプリセット切り替え、LCDスクリーンのバック・ライトのオン/オフが制御できる。入力A/Bにはリバーブをかけることも可能だ。
またIP300同士をBluetoothでリンクすることで、ステレオ・コントロールに対応。iPhoneとスピーカー1本は簡単にペアリングできたが、ステレオ・リンクはブレットを介さずスピーカー同士でペアを組むことになっており多少手こずった。しかし、説明書を読めば容易であった。
Turbo Controlは項目の数値表記が無いため、値を動かしてから元の設定に正確に戻すには、LCDスクリーンを確認しなければいけない。またステレオ・リンクにした際に入力A/Bの音量調節がリンクできれば、ミキサー無しでセットアップができて便利だったように思う。しかし、ステレオという発想ではなくエリア・カバーの区分けで管理すると考えると、各スピーカーが独立している方がかえって良いかもしれない。
中高域に特徴があり定位感が良い
中小規模なら十分なエリア・カバー
まずはスタジオ・ブースにてペアでサウンド・チェックを試みた。一言で言うならば、定位感が良い。縦に並んだ2インチ径のツィーター4基が、左右に向けて交互に装備されていることに起因するのかもしれない。120°のカバレージを有する本機は、部屋のすべてのスペースで死角が無かった。特筆すべきは裏側の音が非常にクリアなこと。ダクトが付いていたがブーミーな周波数帯域はほとんどなく、それは横側に関しても同様の印象であった。TURBOSOUND特有の中高域がギラっとした音色を有しながらも、全体としてクリアなサウンド。音量を少し抑えても中高域が聴こえやすかった。
次に約30人が入ったスタジオで、声とBGMを再生。ModeでMusic、PositionでStandを選択してコンソールで少し低域を処理したのだが、十分なエリア・カバーとパワーを発揮してくれた。音楽を大音量で鳴らすには少し低域が物足りないため、同シリーズのサブローを追加するのもいいだろう。
Modeはそれほど極端に音色変化が無い点が良い。それぞれのプリセットを比べると“少し変わったかな?”と思う程度だ。基本設定からそれほど音色を変えずとも、さまざまなシーンに対応できるようにという設計意図を感じる。配置位置を指定するPositionも試したが、原音を損なわない範囲にとどめているように思える。
IP300はスタンド使用のみならず壁に常設したりテーブルに乗せるなど、多くの用途で使用できそうだと感じた。カフェや中小規模のイベントなどのエリア・カバーには最適だ。定位感がしっかりしているので、トークを中心としたイベントなどでも活躍するだろう。簡易的ではあるがスマートフォンやタブレット端末によるリモート・コントロールは、テレビのリモコンを触るような感覚でボリューム調節ができて便利だと感じた。広いエリアで複数のIP300を設置するような場合でも歩きながら調節できるため、良い音響環境が作れそうだ。操作が簡単なので、死角のコントロールを音響専門のスタッフ以外にやってもらう、といった使い方も良いだろう。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2019年2月号より)