増幅回路にはFETを採用
CINEMAGの出力トランスを使用
モデルとなったEla M 251というマイクは、1960年にTELEFUNKENから委託を受けAKGが開発したチューブ・マイクだ。太くつややかで色気立つ音色が特徴だが、現存するものが非常に少なく、我々プロのエンジニアでもオリジナルを手にする機会はまれ、という希少なマイクである。
ColaresはこのEla M 251の持つ存在感あふれるサウンド・キャラクターは追求するものの、コストやノイズ・レベル、メインテナンスなどに考慮し、あえてチューブではなくFETをセレクト。ビンテージ・マイクの良いところを反映させつつも、コスト・パフォーマンスに優れ、現代の音楽に適した使い勝手の良いマイク製作を目指すという姿勢は、ROSWELL PRO AUDIOの企業理念とも言えるだろう。
マイク本体に目を向けてみる。写真で見るより落ち着いた深みのあるオレンジ・メタリックのボディは、NEUMANN U47 Tubeとほぼ同じサイズ感。グリル下部に−10dBのPADスイッチと、後述するVariable Bass Responseスイッチを備える。また、Ela M 251で使われているAKG CK12と同じ34mm径のラージ・ダイアフラムは単一指向固定。コスト・パフォーマンスを狙った割り切りであろう。
ROSWELL PRO AUDIOのDelphosではよりクリアな音色を求めトランスレス仕様なのに対し、より個性的で存在感あるトーンを得るためCINEMAGのアウトプット・カスタム・トランスを採用している辺りにも、ROSWELL PRO AUDIOのラインナップ内における明確な差別化が表れている。付属の専用フライト・ケースにはRYCOTEのショック・マウントが同梱されている。ネジ式4点止めの構造は本体をしっかり固定でき、従来品のようにゴムが使われてないので、フロア・ノイズ遮断率も高く、非常に使いやすい。
ナチュラルで深みのある音
PADスイッチで二次倍音が減少
では実際の音色はどうだろうか。まずはアコースティック・ギター本体斜め上50cmほどの位置に立てたColaresを、AVID Pro Tools|HD Omniのマイク・インに接続し、Pro Tools|Ultimate上でチェックしてみた。ストロークやアルペジオなどを録ってみたところ、ナチュラルで非常に深みのある音というのが第一印象だ。いわゆるFETコンデンサー・マイクが持つ“ソリッドで立ち上がりの速い感じ”よりは、チューブ・マイクの持つ“つややかでリッチ”という傾向に近い。細かく分析してみると、200Hz辺りの太さがボディ鳴りをしっかりとらえているが、ブーミーな印象は皆無。中域は2kHz辺りの芯の強さによって音像にしっかりとした存在感を与えており、10kHz辺りにほのかな伸びがあるため、ギターのきらびやかさもしっかり表現されている。パッと聴いて分かる派手さを目指すのではなく、ビンテージのチューブ・マイクの持つ倍音豊かな音色に近いものが、FETで“狙い通り”表現されているのには驚かされる。
続いて男性ボーカルでも試してみたところ、声の乗りとまとまりがとても良い。声を張っても中高域の嫌な堅さが感じられないのは、声の持つキャラクターを柔らかくとらえているからだろう。歌の輪郭もしっかり見えるので、抜けに関しても不足は感じられない。
搭載されているVariable Bass Responseスイッチはフラットを含めて3段階のハイパス・フィルターとして機能。スイッチを一段下ろすと100Hz辺りから下がバッサリと切られる。吹かれやローエンドのノイズ対策に効果的だ。さらに一段下ろすと、もう少し上のポイント(150〜200Hz辺り)から緩やかにロール・オフされる。こちらは近接効果による低域の膨らみや、音源そのものの持つブーミーな部分を抑えるのに役立つだろう。加えて−10dBのインプットPADを入れることで二次倍音が減少し、クリアなサウンドが得られるとのことなので実際に試してみたところ、確かにFETマイクらしい若干ソリッドな音色に変化した。このようなサウンド・バリエーションが手軽に得られることは、実際に使う上で音楽の可能性を広げてくれるので大変ありがたい。
ビンテージ・マイクを現代に再現する上で、細部まで可能な限り再現するという選択もあるし、ROSWELL PRO AUDIOのようなアプローチもある。ColaresはEla M 251の雰囲気を上手にまとった、とても使いやすいマイクだと感じた。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2019年2月号より)