「MOOG Grandmother」製品レビュー:スプリング・リバーブ搭載のセミモジュラー・アナログ・シンセサイザー

MOOGGrandmother
“MOOGがセミモジュラー式モノフォニック・アナログ・シンセサイザー、Grandmotherを発表”。そんなニュースを耳にしたのは今年の5月ごろでした。アメリカ国内のみで販売された初回生産分の500台はすぐに完売し、追加生産分がようやく日本にも到着。10万円代のアナログ・シンセにどうして皆そんなに騒ぐのか!? 早速レビューをご覧ください。

シンク・ボタンを備えた2系統のVCO
内部で配線済みの各モジュール

Grandmotherはセミモジュラー式のモノフォニック・アナログ・シンセサイザー。ベロシティ対応のキーボードは32鍵あり、各モジュールは内部結線されているためパッチングをしなくとも音を出すことが可能です。また41カ所におよぶパッチ・ポイント(21イン/16アウト/4マルチジャック)を利用し、自由にパッチングすることで内部の信号回路を変更したり、ギターなどの外部オーディオ入力やEurorackモジュラー・シンセとの連携ができるという点も最大の売りでしょう。

パネルに使われている色は写真で見るよりずっと奇麗で、ノブやホイール、鍵盤などの作りも同社のほかの機種と比較しても全くそん色無いため、幅広いユーザー層にアピールできるのではないでしょうか。

▲パネル部分。左からアルペジエイター/シーケンサー、モジュレーション、オシレーター、ミキサー、ユーティリティ、フィルター、エンベロープ、アウトプットのモジュールとアナログ・スプリング・リバーブのミックス・ノブを搭載する。各モジュールは内部結線されているためパッチングをしなくとも音を出すことが可能だ ▲パネル部分。左からアルペジエイター/シーケンサー、モジュレーション、オシレーター、ミキサー、ユーティリティ、フィルター、エンベロープ、アウトプットのモジュールとアナログ・スプリング・リバーブのミックス・ノブを搭載する。各モジュールは内部結線されているためパッチングをしなくとも音を出すことが可能だ
▲キーボード左側にあるコントローラー部分。左からGLIDEノブ、アルペジエイター/シーケンサーをコントロールする3つのボタン(PLAY/HOLD/TAP)が並んでいる。シーケンスの録音時には、それぞれがタイや休符、アクセントを設定するボタンとして機能。また、これらのボタンはオクターブ・トランスポーズ機能も兼ねている ▲キーボード左側にあるコントローラー部分。左からGLIDEノブ、アルペジエイター/シーケンサーをコントロールする3つのボタン(PLAY/HOLD/TAP)が並んでいる。シーケンスの録音時には、それぞれがタイや休符、アクセントを設定するボタンとして機能。また、これらのボタンはオクターブ・トランスポーズ機能も兼ねている

それではGrandmotherの上部に設置された各モジュールを見ていきましょう。オシレーター・モジュールにはVCOを2系統備え、波形は三角波/ノコギリ波/矩形波/ナロー・パルス波を搭載。オクターブ設定は、オシレーター1が32’/16’/8’/4’、オシレーター2が16’/8’/4’/2’で、1オクターブ分差があるのはMOOG製品ではお約束です。オシレーター2にはFREQUENCYノブがあり、上下7半音の範囲で調節可能なのでさまざまな音作りで使えるでしょう。オシレーター1の位相をオシレーター2の位相に合わせるシンク・ボタンも装備しています。パッチ・ポイントはそれぞれPITCH INとWAVE OUTを備え、オシレーター1にはPWM IN、オシレーター2にはLIN FM INを搭載。LIN FM INに信号を入力すると、ベルなど多彩な金属音を作ることが可能です。

2系統のオシレーター信号は、右隣にあるミキサー・モジュールへ。ここにはオシレーター1と2、ノイズがプリアサインされています。上部には3つの入力パッチがあり、ケーブルによるパッチングによって無効化される仕様です。ちなみにこのミキサーは、オーディオ信号以外にCVも扱えるところがうれしいですね。

MOOGの代名詞ラダー・フィルターを搭載
単独使用可能なアナログ・リバーブ

ミキサーから出力した信号は、さらに右隣のフィルター・モジュールへ流れます。フィルターにはもちろん、減算合成方式シンセの本家本元であるMOOGの−24dB/Oct(4ポール)ローパス・ラダー・フィルターを採用。パッチは入力/出力、ENV AMT IN、CUTOFF INがあり、ほかにはカットオフ・ノブ、エンベロープ・アマウント・ノブ、レゾナンス・ノブなどを備えています。カットオフ・ノブのすぐ下にあるキーボード・トラッキング・スイッチは、1:2/OFF/1:1の切り替えが可能。設定によってはこのフィルターをレゾナンス発振させ、オシレーターとして使うこともできます。ここに外部オーディオ信号を入力したくなりますが、その際はリア・パネルにあるインストゥルメント入力(フォーン)を使いましょう。パネル上にある入力パッチは、シンセ系の入力専用と考えると分かりやすいです。

▲リア・パネル。左からファイン・チューン・ノブ、メイン/ヘッドフォン・アウト(ステレオ・フォーン)、インストゥルメント・イン(フォーン)、Eurorackアウト、リバーブ・アウト、アルペジエイター/シーケンサーCV用のクロック・イン、オン/オフ・イン、リセット・イン、クロック・アウト(いずれもミニ)、MIDI IN、THRU、OUT、MIDIインターフェースを備えるUSB B端子 ▲リア・パネル。左からファイン・チューン・ノブ、メイン/ヘッドフォン・アウト(ステレオ・フォーン)、インストゥルメント・イン(フォーン)、Eurorackアウト、リバーブ・アウト、アルペジエイター/シーケンサーCV用のクロック・イン、オン/オフ・イン、リセット・イン、クロック・アウト(いずれもミニ)、MIDI IN、THRU、OUT、MIDIインターフェースを備えるUSB B端子

フィルターから出力された信号はVCA通過後に2つに分岐。1つはそのままメイン出力とEurorack出力へ、もう1つはスプリング・リバーブを経由してメイン&Eurorack出力に流れます。リバーブは本物のアナログ・スプリング・リバーブなので、本体を揺すると“ガシャーン”とスプリングが振動する音を聴くことができるでしょう。ほかのモジュールと同様、VCAとリバーブもパッチング次第では単独での使用が可能です。ちなみにリバーブの入力はパネル上にありますが、リバーブの出力はリア・パネルに搭載されています。

フィルターの右側にあるエンベロープ・ジェネレーターには、MOOG製品としては少数派であるADSRタイプが装備されています。しかも、サステインだけはノブではなくスライダーになっているのが粋! アタック/ディケイ/リリースはそれぞれ時間を設定するのに対してサステインはレベルなので、それを視覚的に確認しやすくした配慮だと思われます。

腰が据わった野太い低域
0.07Hz〜1.3kHzで調節可能なLFO

ここまでに登場したモジュールを使って音を出してみましょう。ざっと音を作ってみて思ったことは、“MOOGっぽい”ではなく“MOOGそのもの”という印象。腰が据わった野太い低域は言わずもがな、ノコギリ波のエッジが見えるようなザリザリとした高域の質感、オシレーターを重ねてデチューンしたときの暴れ方、カットオフ・フィルターの切れ具合、レゾナンスを上下したときのニュアンスなど、どれを取っても“MOOGのサウンドそのもの”としか言いようがありません。とにかく音質に関しては、Grandmotherの核となる音源部分を使った音だけでも、紛れもなく“本家の音”であると感じました。しかし、本機のお楽しみはまだまだ続きます!

まずは本体パネルの左から2番目にあるモジュレーション・モジュール。GrandmotherにはLFOが搭載されており、その波形はサイン波/ノコギリ波/ランプ波/矩形波の4種類です。RATEノブではLFOの周期を0.07Hz〜1.3kHzと広範囲に調節できますので、LFOだけでなく、Grandmother“第3のオシレーター”として使うこともできます。

キーボードの左側に設置されているモジュレーション・ホイールは、パッチング無しでフィルターのカットオフ・フリケンシーやオシレーターのピッチ、パルス波の幅にかかるモジュレーションの深さをコントロール可能。例えばピッチ・モジュレーションをかけたいときは、パネル上にあるモジュレーションのRATEノブとPITCH AMTノブを調整し、“グイっ”とモジュレーション・ホイールを適宜操作すればよいわけです。

LFOをオシレーターとして使う場合は、まずキーボードに沿ってオシレーターのピッチを変更させるため、パネルの一番左端にあるARP/SEQモジュールのKB OUT(キーボード・アウト)とモジュレーション・モジュールにあるRATE INをパッチング。次にオシレーターの音を聴くため、モジュレーション・モジュールのWAVE OUTからミキサー・モジュールのNOISE INにパッチングすると、ノイズ・ジェネレーターからの信号が切り離され、代わりにモジュレーションからの信号が入力されます。ミキサーのNOISEノブを上げるとモジュレーションからの信号音が聴こえてきますから、ミキサー・モジュールにあるOSCILLATOR 1ノブを上げてピッチを合わせましょう。狙う音次第ではぴったりとピッチを合わせたい場合があるかもしれません。そんなときは、本体左側にあるオクターブ・トランスポーズ部分の中央に位置する、[SHIFT]ボタンを押しながらRATEノブを回すことで微調整ができます。なんて素晴らしいアイディア! GrandmotherがMOOG Minimoog Model Dでおなじみの3VCO仕様のモノシンセとして使えるようになりました。ここまでの解説文だけを読むと“面倒”と感じる方もいるかもしれませんが、実際のパッチングはわずか2秒で完了しますのでご安心を。

そのほか、モジュレーション・モジュールにはS/H OUTとSYNC INを装備。S/H(サンプル/ホールド)はLFO周期とノイズ・ジェネレーターを組み合わせて使用します。SYNC INは、信号が入力されるとLFOの波形をスタート・ポイントにリセットすることができ、これを応用すればキーボードを弾くタイミングでS/Hのタイミング・コントロールが可能です。

4つのマルチプル・ジャックを装備
アルペジエイター/シーケンサーを搭載

パネル中央のユーティリティ・モジュールには、マルチプル・ジャック、ハイパス・フィルター、アッテネーターという3つの機能が備わっており、いずれも内部結線はされていません。そのため使用する際にはパッチングする必要があります。

マルチプル・ジャックには4つのミニ・ジャックが並列接続されており、1つの信号を分岐させたいときに便利。続くハイパス・フィルターは、−6dB/Octという緩やかなカーブ設定となっています。アッテネーターはバイポーラー式。例えば+5Vの信号を入力したとき、アッテネーター・ノブがセンターの位置で0V、時計回りに振り切った状態で+5V(元の入力信号と同じ)、半時計回りに振り切った状態で−5Vとなります。信号を反転させたいときはもちろん、外部モジュラー・シンセ同士におけるコントロール信号の調整役など、意外と出番は多いでしょう。

ARP/SEQモジュールには、アルペジエイターとシーケンサー機能を搭載。先述した、キーボード左側にある3つのボタンでこれらを操作します。特にシーケンサーは秀逸で、入力はMODEスイッチを“REC”に設定し、鍵盤をポンと弾いただけで完了。256音までのシーケンスが最大3つまで保存でき、前述のボタンを使用すれば休符やタイ、アクセントまでも入力可能です。

これだけの機能とサウンド・クオリティを持ちながらお値段が12万円程度というのは、正直“大バーゲン”ではないでしょうか。“価格を下げれば何かが犠牲になる”という懸念は少なからずともありましたが、Grandmotherにはそれがどこにも感じられません! そのため、プロはもちろん、シンセサイザーに興味があるビギナーの方たちにもぜひ使ってみてほしい製品です。Grandmotherで少しずつパッチングを覚え、MOOG Mother-32やDFAM、あるいはEurorackモジュラーと組み合わせるなど、楽しみは再現なく続くことでしょう!

▲ブロック・ダイアグラム ▲ブロック・ダイアグラム

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サウンド&レコーディング・マガジン 2019年1月号より)

MOOG
Grandmother
125,000円
▪最大同時発音数:1 ▪VCO:2基(三角波、ノコギリ波、矩形波、ナロー・パルス波) ▪ノイズ・ジェネレーター:ホワイト・ノイズ ▪VCF:4ポール・ラダー・フィルター(ローパス、10Hz〜20kHz)+1ポール・フィルター(ハイパス) ▪EG:ADSR×1 ▪VCA:EG、キーボード・リリース、ドローン ▪LFO:1基(サイン波、ノコギリ波、ランプ波、矩形波)、ピッチ、カットオフ、パルス・ウィズス ▪アッテネーター:バイポーラー(双極性) ▪シーケンサー:256ステップ×3パターン ▪アナログ・エフェクト:スプリング・リバーブ ▪パッチ・ベイ:41ポイント(21イン/16アウト/4マルチジャック) ▪キーボード:FATAR製32鍵(ベロシティ対応) ▪外形寸法:585(W)×140(H)×362(D)mm ▪重量:7.25kg ▪付属品:パッチ・ケーブル