ルーム感から低域の余韻まで分かる解像度の高さです
仕事で使ってみたいSR-009S
オープン・エアのヘッドホンは、これまでに幾つかの機種を試したことがあるものの、音が遠くスカスカしていて、量感をつかみづらいという印象がありました。しかし今回、SR-009SとSRM-T8000(専用アンプ)を使ってみて驚いた……“弱点が無い”と言っても過言ではない素晴らしい出来栄えで、ミックスなどの仕事にも使える音がしたからです。試す前は“いわゆるピュア・オーディオ的な音なのかな?”と思っていたのですが、行き過ぎた感じがありません。またモニター・ヘッドホンのような冷たい印象も無く、優しさや気品のようなものを覚えます。密閉型に比べると距離感のある音ですが、決して遠くはありませんし、超低域まで出るから量感もつかみやすい。広がりや奥行きの表現力も素晴らしく、フワ〜っと音に包まれる心地がします。
詳しく見ていくと、周波数レンジがとても広く、必要以上にボリュームを上げなくてもソースの特性を見極めることができます。この点は、エンジニアとして長時間作業する上でとても大事なことです。ボーカルが立って聴こえるので、最初はそこに耳が行きがちですが、ほかの音と適切な距離感があるため楽器類もよく見える。その距離感は、前後左右の音の配置を細かく再現していることの現れで、録音に使われたスタジオの響きやアコースティック・ギターの倍音、マイクと楽器の隔たりなどもよく分かる。良いスタジオでレコーディングされた音源を聴きたくなりますね。低域については、主張こそ控えめですが30Hz辺りまできちんと見ることができ、キック・ベースのピッチの変化などもよく分かります。
歌の描写力に優れるSR-L700
SR-L700は、出力段に真空管を持つアンプSRM-007TAと半導体仕様のSRM-727Aのそれぞれで駆動させてみました。いずれもSR-009S+SRM-T8000の組み合わせより中域寄りのサウンドで、ステレオ感も絞りめという印象。この傾向は、SRM-727Aを使ったときに顕著でした。歌が大きく聴こえるので、クラブ・ミュージックなどよりはノラ・ジョーンズやダイアナ・クラールのような歌モノを気持ち良くリスニングできると思います。また、シンガーが声を張ったところのコンプの具合やひずみ感などもとらえやすいので、中域の解像度を重視しているのでしょう。
低域や高域も、SR-009Sほどではありませんがしっかりと出ていて、ドラムのルーム感やキック・ベースのピッチなどもきちんと把握できます。SRM-007TAと併用した際には距離感がよりつかみやすく、立体的に聴こえました。
今回チェックした2つのヘッドホンは、いずれもよくできていると思います。個人的にはSR-009SとSRM-T8000のコンビネーションに感動を覚えました。心の底から“欲しい!”と感じるほど好印象なので、機会に恵まれればミックスなどの仕事でも活用してみたいと思います。
Review by
星野誠
Product Overview
SR-009S(460,000円)は、前身機種SR-009で確立された多層固定電極の進化版“MLER 2”を備えるコンデンサー型のオープン・エア・ヘッドホン。スピード感、透明感、シルキーかつパワフルな質感が出音の特徴だ。SR-L700(135,000円)もコンデンサー型のオープン・エア・モデルで、共振を低減する新世代の長円型固定電極MLERを採用。専用のドライバー・ユニット(アンプ)として、入力段に真空管を備えたカップリング・コンデンサー・レスのSRM-T8000(595,000円)、出力段に真空管を持つ完全バランス・システムのSRM-007TA(147,000円)、同じく完全バランスで半導体回路のSRM-727A(132,000円)などをラインナップする。
SPECIFICATIONS
SR-009S▪周波数特性:5Hz~42kHz
▪重量:583g(付属ケーブル含む)SR-L700
▪周波数特性:7Hz~41kHz
▪重量:496g(付属ケーブル含む)共通項目
▪形式:オープン・エア・コンデンサー型
▪静電容量:110pF(付属ケーブル含む)
▪イア・パッド:本革(肌に触れる部分)
▪インピーダンス:145kΩ(@10kHz/付属ケーブル含む)