
ロンドンのエア・スタジオで収録
さまざまなニュアンスを組み合わせ可能
アイスランド出身のオーラヴル・アルナルズはニルス・フラームやニコ・ミューリーらと並び、現代的なテクノロジーやアプローチを取り入れた新世代クラシックである“ポストクラシカル”を代表するアーティストです。自身のアルバム以外にもシガー・ロスなどとの共演/録音や、多数の映画音楽などを手掛けています。彼の重要なアイテムがピアノとストリングス。自身が演奏するリリカルなタッチのピアノと、それを包み込むようなデリケートな抑揚と音色/奏法の変化を伴ったストリングスは彼の音楽の特徴であり魅力です。
Olafur Arnalds Chamber Evolutionsはそんな繊細な動きを伴うストリングス・サウンドを丹念な録音作業と工夫を凝らしたプログラミングにより、鍵盤で手軽に演奏できるようにライブラリーが組まれています。
Chamber(チャンバー)とは“編成の小さい”という意味で、第1/第2バイオリン、ビオラ、チェロ、コントラバスの順で4、3、3、3、3の合計16名の演奏者によりロンドンのエア・スタジオ(!)で録音されています。この規模は通常の編成の半分くらいに相当し、迫力や量感という点では大編成にかないませんが、指揮者の指示に俊敏に反応できる機動性の高さと、人数が少ないので個々の奏者がクローズアップされ、大編成よりも弓使いなどが感じられる生々しい存在感が得られることが利点です。
Olafur Arnalds Chamber EvolutionsのプログラムはコントラバスのみのBassと、その他のパートが一緒になったChamberに分かれ、さらに“Grid”と“Wave”という2種類のモードに分類されています。ユニークなのは、一般的なストリングス音源のように単なるピチカートやスピカートというようなパッチは用意されておらず、“Sul Tast Ord”、つまり“弓を指板の近くで用い木管のような柔らかな音から始まり、徐々に弓の位置をコマの方に移動させる”などデリケートな音色の変化と抑揚をつけた演奏が多数収録されていることです。
それらの音色はGridモードではChamberが19種類、Bassが7種類あり、ニュアンス違いでsubtle(目立たない)、thrills(緊張感)など4種類のカテゴリーに分かれます。中央のマトリクスは、縦が鍵盤の音域、横がそのカテゴリーによって色分けされていて、シンセのモジュレーションのように縦/横をパッチングすることでアサインします。素晴らしいのがニュアンスは違っていても音楽的なトーンは統一感を持って作られている点。なので異なるニュアンスを持つパッチが音域ごとバラバラにアサインされても、鍵盤で和音を押さえるだけで各音が違った変化をしながら不思議なほど統一感を持ったサウンドが得られます。ハマったのがChamber Gridのパッチングのランダム機能で、穏やかな変化のものから極力バラバラのものや、指定したカテゴリーを中心にしたものなど7種類のバリエーションがあり、ほとんどハズレ無しで予想できない面白さを持ったサウンドが出てきます。

クレッシェンド〜ディミヌエンドする
Waveモードはテンポ同期も可能
もう一つのモード“Wave”はアルナルズの得意な波のようにクレッシェンド〜ディミヌエンドするパッチを集めたものです。こちらはキー・スイッチで複数のトレモロやビブラートなど細かにニュアンスの違う12種類のパッチが切り替えられるようになっています。さすがなのはどのパッチを選択しても全音域で抑揚が奇麗にそろっており、いつまでも弾いていたくなる心地良さを持っていることです。またWaveには、テンポに合わせて波がピークになるようDAWと同期する“Time Machine”というパッチも用意されています。
また各パッチ(先述のマトリクスの縦軸1つに相当)は、単独使用できる音色としてIndividualというフォルダーにも個別に収納されています。
Olafur Arnalds Chamber Evolutionsはアーティストの音楽観が丁寧に反映され、使用するクリエイターに新たなインスピレーションを与えてくれる素晴らしいソフト音源だと思います。オーラヴル・アルナルズのサウンドに興味を持った方には絶対にお薦めできる製品です。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2018年4月号より)