「IZOTOPE O8N2 Bundle」製品レビュー:相互連携を実現したマスタリング&チャンネル・ストリップ・プラグイン

iZotopeO8N2 Bundle
IZOTOPEのマスタリング・プラグインOzoneと、チャンネル・ストリップ・プラグインNeutronが同時にバージョン・アップしました。今回のO8N2 Bundleはその名の通りOzone 8 AdvancedとNeutron 2 Advancedのバンドル。両製品がインテリジェント・アナリシス機能を持ち、そしてお互いに通信することによって、まるで自動ミキシングを目指すかのような、音作りのアシスト機能を実現しました。ワクワクしますね。

3バンド・ゲートが加わったNeutron 2
ワイズで広がりもコントロール

初めに、Neutron 2のTrack Assistantに代表されるインテリジェント・アナリシス機能について説明します。この機能はソースのスペクトル分析を行い、独自のデータベースと照らし合わせて、トラックのサウンドがどういうものなのか、どんな楽器が鳴っているのかなどを把握します。例えばボーカルにエフェクトをかけたいとき、従来のエフェクトのプリセットは、声質などを考慮しないとても大ざっぱなものでしかなく、場合によっては役に立ちません。一方、Track Assistantは声質を分析し、データベースから似た声質に対して行ったエフェクト処理のパターンを呼び出し、的確な音作りをします。ベテラン・エンジニアが行った音作りをここで実現してくれるのです。

では、Neutron 2 Advancedから紹介していきましょう。DAWで言う1トラック分、いわば1つの音色に対して処理を行うチャンネル・ストリップ・プラグインです。EQ、新規搭載のゲート、トランジェント・シェイパー、2つのコンプ、エキサイターを備え、それらを同時に使用できます。また、Advancedではこれらの機能が別々のプラグインとしても提供されます(後述)。ちなみにEQを除くすべてのエフェクトが最大3バンドのマルチバンド仕様。ゲートは3つの帯域に設定できるスペクトラル・ゲート(画面①)、コンプは3バンドまでのマルチコンプで、“Learn”機能を使うと音を解析して、分割バンド周波数を自動設定してくれます。トランジェント・シェイパーはアタックを強調する新しいタイプのエフェクト。各帯域に入ってくる音を別々に調整できるため、細やかな音のアタックを作り出せます。エキサイターも、3帯域に分けて強調することができ、一般的な高域のみ強調するエキサイターと比べて、音を太くするためにも使用できます。

▲画面① Neutron 2 StandardおよびAdvancedには最大3バンドに分割可能なゲートが新規追加された。クロスオーバーを提案してくれるLearn機能も搭載する。また画面右のセクションにはパンとワイズという定位に関するパラメーターも追加されている ▲画面① Neutron 2 StandardおよびAdvancedには最大3バンドに分割可能なゲートが新規追加された。クロスオーバーを提案してくれるLearn機能も搭載する。また画面右のセクションにはパンとワイズという定位に関するパラメーターも追加されている

EQは12バンドもあり、こちらもLearn機能で周波数ピークを感知して自動的にバンドを割り当ててくれるため、音作りの効率化が図れます。またダイナミックEQモードも備えているので、ディエッサーやその逆のエフェクトとして使うことも可能です。

さらに、新機能として、ステレオ使用時にマスター・セクションにワイズが付きました。モノラル・ボーカルでもこれを使うことで音像を大きくでき、地味に便利です。

動処理機能やマスキング対策に加え
視覚的な定位/バランス設定が可能に

さて、ここからがインテリジェント・アナリシス機能です。まずNeutron 1で話題になったTrack Assistantという機能があります。トラックの内容を分析して、あれよあれよとEQやコンプなどのパラメーターが動き、お勧めの設定のエフェクトを施してくれます。もちろんユーザーが好む音色は分からないので、基本的に“やや明るめ”のポップス向きな処理をしてくれますが、StyleとIntensityという項目が加わり、僕の好みを少し聞いてくれるようになりました。

次に紹介するのがMasking機能です。これもNeutron 1からある機能で、ほかのトラックにインサートしたNeutronと通信して、EQ上で周波数のぶつかり具合を視覚的に見ることができます。例えばボーカルに対して、どの楽器の周波数が歌の邪魔をしているのかを視覚的にとらえられます。これはEQのみなので、全トラックにインサートする場合などは前述したNeutron EQプラグインを使えばCPU負荷も抑えられます。

最後に、前バージョンに無い新機能がVisual Mixer(画面②)。これはNeutron 2 Advancedのフェーダー+パン+ワイズ(もしくはその機能に特化したMix Tapというプラグイン)が通信することにより、ミックスのステレオ・イメージやバランスをグラフ上で調整できます。まだ繊細なミキシングには対応できませんが、未来に向けて期待しておきたい機能です。

▲画面② Neutron 2 AdvancedのVisual Mixer。Neutronもしくはそのフェーダー+パン+ワイズ機能に特化したMix Tapをインサートしたトラックが、図上に表示される。上下が音量、左右が定位。ステレオ定位のソースはワイズのコントロールも可能だ ▲画面② Neutron 2 AdvancedのVisual Mixer。Neutronもしくはそのフェーダー+パン+ワイズ機能に特化したMix Tapをインサートしたトラックが、図上に表示される。上下が音量、左右が定位。ステレオ定位のソースはワイズのコントロールも可能だ

Neutron譲りのAssitant機能や
リファレンス機能が加わったOzone 8

続いてOzone 8 Advandedです。こちらはDAWのマスター・フェーダーに挿して、あるいはスタンドアローン・アプリケーションとして使用します。マスタリング処理として考えられる機能を網羅しているモンスター・ソフトです。Ozone 8は7つのエフェクト・スロットを持っていて、そこにビンテージ/ダイナミックなど3種類のEQ、ビンテージ/マキシマイザーなど4種類のダイナミクス、エキサイター/スペクトラル・シェイパー/ビンテージ・テープなどのハーモニクス系、イメージャーなどの空間系といった12種類のプロセッサーを割り当てて使います。

筆者はOzone 5から使い続けていますが、バージョン・アップするたびに音の解像度が上がり、空間、音量、周波数の扱いやすさがどんどん上がってきています。Ozone 7よりもさらに一皮むけた音質向上を感じます。

そのOzoneにも、インテリジェント・アナリシス機能が初めて搭載されました。もちろん機能は自動マスタリングです。これには3つのアシストが用意されています。1つ目は配信なのかCD用なのか、派手め/抑えめなど、目的に応じたマスタリングを行ってくれるMaster Assistant機能。2つ目は自分の好みの曲の音質に近付けるようマスタリングしてくれるReference機能(画面③)。そして最後はNeutronと通信して全体の音質を視覚的に表示しながら、各チャンネルを上げ下げして音色を根本から作り上げていく後述のTonal Balance Control機能です。

▲画面③ Ozone 8 Standard/AdvancedのReference機能は最大10のオーディオ・ファイルを読み込み、マスタリングの仕上がりの参考とする機能。楽曲中の参考とする部分を指定することもできる。こうして解析した結果はMaster Assistantによって、モジュールの選択とパラメーターの設定に反映される ▲画面③ Ozone 8 Standard/AdvancedのReference機能は最大10のオーディオ・ファイルを読み込み、マスタリングの仕上がりの参考とする機能。楽曲中の参考とする部分を指定することもできる。こうして解析した結果はMaster Assistantによって、モジュールの選択とパラメーターの設定に反映される

Ozone 8とNeutron 2の連携で
ミックス全体をコントロール

これを踏まえて、OzoneとNeutronだけを使ってAVID Pro Tools 12.8でミックスを行ってみました。まず、全トラックにNeutronをインサート。リバーブなど残響系は搭載されていないので、別途Auxに用意しました。まずNeutronのTrack AssistantをクリックしてInstrument、Style、Intensityを選び、Nextボタンをクリックしてトラックを再生すると、みるみるパラメーターが変化して音色が調整されました。こんな形でどんどん各トラックを処理。ピアノは随分ブライトな音色にされてしまったので、その場でプリセットをクリック。Keys>Acoustic>Jazz Pianoを選択したら好みの音色に。全部終わったら、リバーブなど残響系を足しながら、フェーダーでバランスを作りました。また、アコギがボーカルの邪魔していると感じたので、ボーカルのNeutronを開いてMaskingをクリック。白く表示されるマスキング・ポイントを下の段のアコギEQで下げました。

こうやって、大体のバランスを整えたら、Ozoneの登場です。マスター・フェーダーにインサートしてMaster Assistantをクリック。配信向けかCDかを聞かれるので、今回はCDにします。再生すると音量がぐっと上がって、ステレオ感がぐわんと広がり、ドンシャリ気味の派手な音色になりました。クラブ系やロック系ならアリな音色ですが、今回はアコースティックでおとなしめなので、リファレンスを使いましょう。Referenceをクリックして、お気に入りの女性歌手のCD曲を読み込ませてみます。再度、Master AssistantでReferenceを選択して再トライすると、いい感じです。楽器編成が違うにもかかわらず、ステレオ感などの印象はうまく再現されています。

さてここからもう一手間かけて仕上げです。Ozoneの後にTonal Balance Controlをインサート(画面④)。各チャンネルの上げ下げでさらにミックスを追い込みます。説明書によれば、音楽は大きく3つの周波数パターンに落ち着くそうで、ここにあるTargetボタンにもModern、Bass Heavy、Orchestralの3種類があります。今回はOrchestralを選択。Tonal Balance Controlには、4つに分割された帯域それぞれにダイナミック・レンジの枠があり、その範囲にメーターが収まっていれば大体OKというのが基本的な使い方。今回の曲は高域が部分的に上へはみ出てしまいます。歌の張り上げたところが気になるので、Total Balance Contorolの下段にボーカルを表示。スペクトラル・カーブを見ると7kHz辺りの歯擦音が原因なので、これを少し下げました。

▲画面④ Ozone 8 Advancedに付属するTonal Balance Controlは、理想とするサウンドに対して、ミックスにおける各帯域のダイナミクスのふるまいを視覚的に確認できるツール。画面下部にはOzone 8 AdvancedもしくはNeutron 8 AdvancedのEQを呼び出すことができ、ミックス全体もしくは各トラックのEQを遠隔操作することができる ▲画面④ Ozone 8 Advancedに付属するTonal Balance Controlは、理想とするサウンドに対して、ミックスにおける各帯域のダイナミクスのふるまいを視覚的に確認できるツール。画面下部にはOzone 8 AdvancedもしくはNeutron 8 AdvancedのEQを呼び出すことができ、ミックス全体もしくは各トラックのEQを遠隔操作することができる

さて、今回試したO8N2 Bundle、個人的には絶対に“買い”の製品です。さすがに個性を出してナンボのプロの世界で働いていますから、全部を自動機能にやらせるわけにはいきません。でも、ちょっとミックスに悩んだときに“Neutron君、お前ならどうするよ?”と気軽に聞けるエンジニアが一人いるようで、時々アイディアをもらえます。OzoneのReferenceやTonal Balance Controlも、まだ手探り状態ではありましたが、うまく使えれば新しいミックスにたどり着ける可能性があります。両製品共に、今後のさらなる発展に期待しながら、使い続けていきたいと思います。

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サウンド&レコーディング・マガジン 2018年1月号より)

iZotope
O8N2 Bundle
オープン・プライス(市場予想価格71,000円前後)
REQUIREMENTS ▪Mac:OS X 10.8.5〜10.12.6、AAX/AU/VST2&3/RTASをサポートするホスト・アプリケーション ▪Windows:Windows 7〜10、AAX/VST2&3/RTASをサポートするホスト・アプリケーション