「AVID Pro Tools|Dock」製品レビュー:iPadをタッチ・ディスプレイに使用するEuCon対応コントローラー

AVIDPro Tools|Dock
昨年10月のAES New Yorkにて発表されたPro Tools|DockがAVIDから発売されました。今までも各社からフィジカル・コントローラーが出ていますが、AVIDからのリリースとなると、Pro Toolsユーザーとしては気になるところです。一方、現在はマウス&キーボードでの操作に慣れていて、スタジオにコントローラーがあってもフェーダーのみ使う程度で済ますことも多いのですが、このPro Tools|Dock、APPLE iPadとの組み合わせが使いやすかったのでしょうか、こんなに便利なのかと驚きました。

無償アプリPro Tools|Controlと連携
iPadをリモコンとして使用可能

Pro Tools|Dock、やはり一番目を引くのはタッチ・ディスプレイとしてiPadを採用した点でしょう。iPadにアプリのAVID Pro Tools|Controlをインストールし、これと組み合わせて使用することを前提としています。Pro Tools|Control自体は無料なので、ぜひインストールして使ってみてください。これだけでも便利さが伝わると思います。

iPad側でPro Tools|Controlを起動する際に、AVIDアカウントでのログインが求められます。これで、自分のAVIDアカウントの製品として、EuCon制御をつかさどるEuControlが登録されるので、これをダウンロードしてコンピューターにインストール。あとはEuControlのセッティングだけですんなりつながってくれました。

コンピューターとPro Tools|DockはLANケーブルでEuCon接続、iPadとはWi-Fiで接続します。Pro Tools|Dockのリア・パネルにはiPad用のUSBポートがありますが、これは充電用。つまり、DockとiPadは物理的にはつながってない状態で、置いてあるだけという感じですね(写真①)。iPad+Pro Tools|Controlを使って、部屋のいろいろな場所で聴きながら調整したり、一人で録音するときブースに持ち込んでリモコンとして使う、などもできます。

▲写真① iPadを載せていない状態のPro Tools|Dock ▲写真① iPadを載せていない状態のPro Tools|Dock

まずはPro Tools|Dock、キーボード、マウスを並べてみました。作業している机の上に置くと、Pro Tools|Dockは意外に大きく感じます。最初はキーボードをメインにPro Tools|Dockは横に置いて使っていたのですが、次第に真ん中にDock、横にキーボードになりました。つまり、Pro Tools|Dockはキーボードをほとんど使わないで済むよう作られています。最終的にはDockとマウスでほぼ事足りるようになります。

タッチ・ストリップを2本実装
オートメーション・モードの全ボタンを用意

Pro Tools|Dockのトップ・パネルには、ジョグ・ホイールを中心に、下にトランスポート、左にオートメーション、右にビュー・コントロールのセクションがあります。さらに下と右側にタッチ・ストリップが1つずつ、左にフェーダー、そして上に16個のソフト・キーが効率よく並んでいます。iPad用スペースの左右には8個のプッシュ・トップ型タッチセンス・ソフト・ノブも用意されています。

目新しい操作子は、タッチ・ストリップでしょうか(写真②)。Pro Tools|S3にも採用されていたもので、1〜4と数字が書かれています。この数字部分に自由にコマンド割り当てることができ、SHIFTと組み合わせて計8つずつのコマンド割り振りが可能です。

▲写真② トップ・パネル右端には垂直に、ジョグ・ダイアル下には水平に用意されたタッチ・ストリップ。それぞれ4分割されたエリアごとに機能をアサインできる ▲写真② トップ・パネル右端には垂直に、ジョグ・ダイアル下には水平に用意されたタッチ・ストリップ。それぞれ4分割されたエリアごとに機能をアサインできる

真ん中にどんと居座っているジョグ・ホイール、個人的には使う機会が無いかなとも思ったのですが、ジョグ/シャトルといったトランスポート・コントロールだけではなく、ビュー・コントロールのセクションと合わせてズームやバンク切り替えなどの操作ができます。また、先述のタッチ・ストリップも、その長さを生かしてジョグ・ホイールと同じような機能を扱うことができます。

そのほか、各セクションのボタンには機能が明記されていて、見れば分かるのでシンプルです。左側のオートメーション・セクションには、Pro Toolsのフェーダーに付いているオートメーション・モードが全部スイッチとして表に出ています。12個のオートメーション・スイッチを使用して、モードを切り替えてサーフェスから直接フェーダーを書き込むことが可能。ALTキーを押すと、各キーはプレビュー、ジョイン、パンチ取り込み、パンチへの書き込みなど、別機能にアクセスできるようになります。

右側のビュー・コントロールにも12個のボタンを用意。一番上のBank◀/▶は多トラック・セッションでの移動にとても便利です。また、一番手前側のOK/Cancel/Saveも頻繁に使うと思います。

8つのソフト・ノブで
iPad内のプラグインをコントロール

個人的に一番使いたかったのは、EQやダイナミクスなどをつまみでコントロールする機能。これはPro Tools|Controlのチャンネル・ビューと組み合わせて行います。左右の8つのソフト・ノブがiPad画面にあるパラメーターのちょうど横に位置しており、使いやすいです(写真③)。iPadでページを選んでソフト・ノブを回してコントロール。ノブをプッシュすることによってフラットな設定に戻るのも便利ですね。EQのQ幅の設定は、周波数(Freq)のSELを押すと現れます。なるべく同じ画面で使いやすく済まそうとの配慮が感じられます。コンピューターのプラグイン画面を確認しなくてもノブだけでコントロールできるのは、とても音楽的ではないでしょうか。

▲写真③ 左右に4基ずつあるソフト・ノブはPro Tools|ControlのChannel Viewのパラメーターとリンク。EQやダイナミクスなどのプラグインやセンド・レベルなどを感覚的に操作することができる ▲写真③ 左右に4基ずつあるソフト・ノブはPro Tools|ControlのChannel Viewのパラメーターとリンク。EQやダイナミクスなどのプラグインやセンド・レベルなどを感覚的に操作することができる

EQ/ダイナミクスは、デフォルトで立ち上がるプラグインをPro Toolsで決めて登録しておけば、iPad側でAdd EQ?(あるいはDynamics)をタップすることで登録したプラグインがが立ち上がり、マウスを一切操作すること無く使用できます。また、パラメーターのコントロールはEQ/ダイナミクスに限らず、それ以外のプラグインやパン、センドなども対応しています。

さらに、InsertsページでConfigを押すとプラグイン一覧が現れ、そこからインサートするプラグインを選ぶこともできます、表示もPro Toolsのインサート・スロットと同じく、プラグイン種別やメーカー階層的になっておりとても見やすく表示されます。

同様にInput/Sends/Pan/Mixページでは入出力アサイン先も選べますが、“Sendを1に”とか“アウトプットをバス2に”などのような作業は、タッチ・パネル上よりもPro Tools|Dockのソフト・ノブを回した方がやりやすいですね。

キーボード無しでも操作が可能に
あらゆる機能がアサインできるソフト・キー

次に便利で大事なのが、ソフト・キーです。これをきちんと使い始めると、冒頭で述べたようにキーボードは無くても何とかなるのでは?と思えるようになりました。

Pro Tools|Controlには、画面全体にソフト・キーを表示するSoft Keys Viewと、画面下部に16個の機能が並ぶPrimary Soft Keysがあります(画面①)。Soft Keys Viewは、Pro Tools|Dockのフィジカルな操作子ではできないほかのすべてを補ってくれると言ってよいのではないかと思います。初めから150ページにもわたってショートカットが組まれているのです。そんなにあっても使いこなせないのではと思うかもしれませんが、どのページにジャンプするといったマクロが組んであったり、個別の作業に合わせてその内容に応じたページが用意されています。

▲画面① Soft Keys Viewには、さまざまな機能のショートカットが並ぶ。画面下にさまざまな色で並んでいるのがPrimary Soft Keysで、Pro Tools|Dockのソフト・キーとリンクしている ▲画面① Soft Keys Viewには、さまざまな機能のショートカットが並ぶ。画面下にさまざまな色で並んでいるのがPrimary Soft Keysで、Pro Tools|Dockのソフト・キーとリンクしている

Primary Soft Keysは12個がiPad下部に並ぶもので、Pro Tools|Dock上の16個のソフト・キーと連動して使うことができます。Pro Tools|Dock側のソフト・キーもマルチカラーLED付きになっており、画面と合わせた色で点灯します。なお、Pro Tools|Dock上の左の2つはこのPrimary Soft Keysの表示と、選択したトラックのフェーダー表示、右の2つはページ選択です。Primary Soft Keysも最初から19種のセットが用意されていますが、使用頻度が高い機能をこちらに組んでおけば、Pro Tools|Dockのフィジカルのソフト・キーが使え、さらに便利だと思います。

また、ソフト・キー以外のボタンの機能がカスタマイズ可能なのも特徴と言えます(画面②)。僕も少し機能を補充したくて試してみましたが、組み直すのはコンピューター上のEuControlソフトウェアから簡単にできるので、気になったときにどんどん変えていって、使いやすくしていきたいですね。

▲画面② EuControlのセッティング画面。各キーには既に割り当てられている機能以外のものをアサインし直すことができる。タッチ・ストリップにジョグ/シャトル機能を割り当てることも可能となっている ▲画面② EuControlのセッティング画面。各キーには既に割り当てられている機能以外のものをアサインし直すことができる。タッチ・ストリップにジョグ/シャトル機能を割り当てることも可能となっている

Pro Tools|Dockのサーフェス・コントロールにはタッチ・スクリーンで選択したトラックが直接マッピングされ、タッチセンス・モーター・フェーダーによって簡単にレベルを調整できます。EuCon接続なので高解像度で反応も速いのが良いですね。10セグメント・メーターでのレベル・モニターも便利です。

今回はPro Toolsでの検証となりましたが、もちろん他のEuCon対応アプリケーションでも使用できます(Pro Tools|Controlとの対応には若干制限がありますが)。Appというボタン一つですぐに切り替えられるので複数のソフトを同時に使用することも可能です。

またPro Tools|S3とも併用できるとのこと。Pro Tools|S6は置けないという規模のスタジオでも、このセットなら置けるかもしれません。

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フィジカル・コントローラーは無くてもDAWでは作業はできる……今までそう思っていて、正直最初は要らないかなとか感じながら使い始めたのですが、慣れていけば本当に便利でした。実際に触ってみないことには感じられないと思うので、まずは無償のPro Tools|Controlを使い倒してから、ぜひ一度ショップで体感してもらえればと思います。

同時に、今回は約1週間のテストということもあり、“使いこなす”というレベルには達しませんでした。それだけPro Tools|Dockではいろいろなことができるので、覚えていくほど、そしてカスタマイズしていくほど使いやすくなるのだと思います。操作そのものは、すぐに使えるほど簡単なんですけどね。

▲リア・パネルには、再生/録音スタートに使用できるフット・スイッチ入力(TRSフォーン)、コンピューターとの接続に使用するイーサーネット・ポート、充電用USB端子が並ぶ ▲リア・パネルには、再生/録音スタートに使用できるフット・スイッチ入力(TRSフォーン)、コンピューターとの接続に使用するイーサーネット・ポート、充電用USB端子が並ぶ

サウンド&レコーディング・マガジン 2016年9月号より)

AVID
Pro Tools|Dock
149,000円
SPECIFICATIONS ▪外形寸法:352(W)×138(H)×359(D)mm ▪重量:1.9kg REQUIREMENTS ▪Mac:Mac OS X 10.10.5以上、INTEL製プロセッサー ▪Windows:Windows 8/10、1GHz以上のプロセッサー ▪共通項目:2GB以上のRAM、500MB以上のディスク空き容量、10/100Base-Tイーサーネット・ポート ▪iPad:iOS 9.3.1以上、 iPad Air、iPad Air 2、iPad Pro(9.7インチ)、iPad Mini 2、iPad Mini 3、iPad Mini 4。iPad Pro(12.9インチ)も後日対応予定