「MANLEY Force」製品レビュー:真空管アウトボード・ブランドによる価格を抑えた4chマイクプリ

MANLEYForce
ロサンゼルス近郊に本社工場を構えるMANLEY。同社といえば、高級真空管レコーディング機器およびオーディオ・メーカーのイメージがあります。今回、精巧なハンドメイド製品でありながら効率的な工程を採用することで低価格を実現した4chマイク・プリアンプ、Forceが発売されました。

チャンネル・ストリップCoreと同等の
カスタム・トランス採用マイク入力回路

Forceは4chマイク・プリアンプということで、見た目はシンプルな2Uラックです。シンプルですが、ブーメラン型に配置されているLEDレベル・メーター、数字の印字でなくユニバーサル・デザイン風に削り出されたドット・アクセントが本当にかっこいいですね。LEDレベル・メーターはレベルが上がるのに合わせ、緑→黄→赤と変化していきます。AVID Pro Toolsのレベル・メーターと同じ変化なので、慣れ親しんだ視認性です。ドット・アクセントはそのメーターのカーブに合わせて先端部の下に配置されていて、チャンネル番号を表しています。

メーターの下にはハイ/ローゲイン切り替えスイッチがあります。これは各チャンネルのゲイン幅を決めるもので、ローゲイン時は40dB、ハイゲイン時は50dBですが、内部のジャンパーの切り替えで60dBにもなり、最適な設定を探すことが可能です。そして、120Hzのハイパス・フィルター、フェイズの切り替え、48Vファンタム電源のオン/オフ・スイッチが並んでいます。

その下にはほかのMANLEY製品と同じ形のロータリー・ノブがあり、インプット・レベルを決められます。このノブで“ああ、自分もMANLEYオーナーになったんだ”と実感できるでしょう。ノブ横のDIRECT INはいわゆるDIで、ギターやキーボードなどからの信号を受けるフォーン入力端子です。DI入力の場合、入力レベル・コントロール・ノブが自動的に可変入力トリムとなり、トリム幅は20dBとなります。

リアには電源端子と入出力があり、入出力のXLR端子には金メッキが施されています。入力信号は各チャンネルに用意されたMANLEYのカスタム入力トランスであるMANLEY Ironと真空管に送られます。基本的にこのマイクプリは、同社のチャンネル・ストリップCoreと同一回路とのこと。一方、DIRECT INからの信号はトランスを通らず、電子バランス回路を経由してインプット・トリムから真空管に送られます。こちらは前述のCoreや、SLAM!と同様の仕様とのことです。

クリアでありながら低域の膨らみもある
独特の質感を持ったDIRECT IN

まずDIRECT INにベースを入力して鳴らしてみましたが、本当にクリアでありながら、低域の膨らみもあり、まさに高級オーディオの音という感じでした。最近のマイクプリにはHi-Zインがあるものが増えていて、“ゴリッ”とした音がうまく出ているものは多いのですが、このForceのような質感が出るものは珍しいと思います。

マイクで試す前に、同じベースで外部DIを使い、XLRインプットの音も聴いてみました。クリアで太い音に元気も加わった感じで、2種類のキャラクターが手に入ります。マイクプリ部とHi-Zの違いがはっきりしているのも珍しいです。この音の違いはMANLEY Ironトランスのキャラクターが関係しているのだと思います。

どっしりとした低域とクリアさを両立
ドライブさせるとパンチが加わる

初めての機材を使ってみるときは、なるべく本番で試してみています。ということで今回は、ただいまアルバム・レコーディング真っ最中の寺地美穂さんの協力で、彼女のサックス録音に使わせていただきました。マイクにはNEUMANN U87Iを使用してみました。

マイクプリはその音質はもちろん、レベルの突っ込み具合によるパンチやドライブ感の変化も重要なポイントです。まずはノーマルと思われる、緑の4つ目のLEDをターゲットにレベル調整してみます(写真①)。

▲写真① チャンネルごとに7セグメントのLEDを備えるピーク・レベル・メーター。最初の緑は−20dBu、黄色の1つ目は+17 dBu、赤は+24dBu ▲写真① チャンネルごとに7セグメントのLEDを備えるピーク・レベル・メーター。最初の緑は−20dBu、黄色の1つ目は+17dBu、赤は+24dBu

低域がどっしりとありながらクリアな音像です。低域がしっかりしていながらヌルくならないのは、MANLEYのWebサイトの説明にもあるように、真空管ヒーターに6V、DCラインに300Vという十分な電圧を供給できるパワー・サプライ部のおかげだと思われます。ここでハイパス・フィルターをオンにしてみると、自然に低域が軽くなった印象でした。マルチマイクのときはかなり効果的だと思います。今回は低域を残したかったので、ハイパス・フィルターは外して作業を進めていきました。

次にLEDの黄色の部分をターゲットにすると、ドライブ感が加わってパンチが出てきました。飽和し過ぎてしまうことなく、本当に自然です。低域感とパンチのバランスがすごく良いと感じました。

LEDメーターで赤が点灯してしまっても、すぐひずんでしまうわけではなく、ビンテージの風合いが足されたような飽和感になった印象です。もちろんやり過ぎるとひずんでしまうでしょうが、攻める価値のある音色だと思いました。

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マイクプリアンプは音のキャラクターを決める重要なファクターです。いろいろなキャラクターが出せるForceは、あると重宝する一台だと思います。

▲リア・パネル。各チャンネルにINPUT(マイク入力:XLR)とOUTPUT(XLRを備える) ▲リア・パネル。各チャンネルにINPUT(マイク入力:XLR)とOUTPUT(XLRを備える)

製品サイト:http://hookup.co.jp/products/manley/force/

サウンド&レコーディング・マガジン 2016年6月号より)

MANLEY
Force
オープン・プライス(市場予想価格:310,000円前後)
▪使用真空管:12AX7WA双三極管×4 ▪マイク入力インピーダンス:1.25kΩ ▪DI入力インピーダンス:10MΩ ▪最大マイク入力(Low Gain時):−5dBu ▪最大マイク入力(High Gain時):−25dBu ▪最大DI入力(Low Gain時):+24dBu ▪最大DI入力(High Gain時):+17dBu ▪最大出力(1kHzサイン波、100kΩロード、0.1% THD+N):+35dBu ▪出力インピーダンス:50Ω ▪出力ヘッドルーム(+4dBu):31dB ▪ダイナミック・レンジ:118dB(Low Gain時) ▪周波数特性:20Hz〜20kHz(−0.1/+0.3dB) ▪外形寸法:483(W)×89(H)×178(D)mm ▪重量:3.9kg