
オリジナルを忠実に再現するため
1960年代当時の技術者を探した
1960年代と変わらない当時の音色をよみがえらせるためにACME AUDIOがまず行ったのは、当時のオリジナルDIで用いられたトランスフォーマーを忠実に再現すること。そのために同社はこのオリジナルのトランスを製造していた当時の技術者を探し求め、35年の時を経てモータウン・サウンドを復活させたそうだ。またこのDIの製造は、モータウン・レコード発祥の地デトロイトで行っている。では早速チェックしていこう。
まず外観はオリジナルDIと同等のコンポーネントが用いられている。ビンテージ感満載のデザインと塗装、そしてノブやスイッチ類の形状は所有する喜びも与えてくれるだろう。構造は至って簡単で、パラ接続されたインプットが2系統。アンプなどへのパラアウトはここから取ることができる。ほかにはDIRECT/ATTN.の切り替えスイッチと、アッテネーターのレベルをコントロールするためのポット(ボリューム)、グラウンドのリフト・スイッチ、そしてアウトプット用のXLR端子、以上である。
パッシブ型の本機は、1960~70年代の使用方法を前提に作られているので、マイク・プリアンプやコンソールを後段に接続することが必要になる。アマチュア、プロ問わず、スタジオ機材のことがあまり詳しく無い方は注意が必要だが、安価なミキサーに付いているライン・アンプではゲインが稼げないので本機は使えない。本機を効果的に使いたいのならある程度S/Nが良く、ゲインが65dB~70dBは稼げるマイク・プリアンプを用意したい。そして当時のモータウン・サウンドを堪能したいのであれば、モータウンで使われていたALTEC 1567Aや1566、250コンソール、またはNEVE 1073、TELEFUNKEN V672などのマイクプリがお勧めだ。
太く芯のあるサウンドで
ブルースやファンクに持ってこい
ではサウンドをチェックしていこう。まずはエレキギターをつないでみた。スイッチはDIRECT側ではマイクプリのゲインを40~45dBに設定するとライン・レベルで出力される。これは比較用に用いたCOUNTRYMANに比べて10dBほど小さいが、アクティブDIなのでこれくらいの差になるのは普通であろう。
肝心の音色は素晴らしいの一言に尽きる。太く芯のある音。それでいて素直な音色で、ノーEQでもオケに埋もれないのだ。奥行きもあり、特にブルースやファンクなどにはもってこいのサウンドだと思った。このサウンドがノーEQ、ノー・コンプレッサーで得られるのはうれしい。
次にベースでも試してみたが、これも文句無しのサウンドだ! 太く、芯のあるサウンドはギターと同じ傾向だが、ベースではさらに音に音圧が加わり、力強い印象。ALTEC 436コンプとの相性も良く、まさにジェームス・ジェマーソンのモータウン・サウンドがよみがえる。ビンテージ・サウンドが好きなベーシストの方には特にお薦めしたい。
次にスイッチをアッテネーター(ATTN.)側にしてチェックをしてみたが、出力レベルがDIRECT側からさらに20〜60dB下がる。パッシブ型のアッテネーターなのでインピーダンスも変化し、英語版の説明書によれば、10kΩ@−20dB to 110kΩ@−60dBとなっている。インピーダンスの変化による音色の違いも楽しめるが、アッテネーター・ツマミを一番右の10(音量が最大値)にしてもかなり出力が小さいので、高性能なマイクプリが必要になるだろう。実際に最大ボリュームの状態で、FENDER Telecasterをつないだ場合、マイクプリのゲイン・アップが65~70dB必要だった。アッテネーターを絞っていくとさらにゲイン・アップが必要になるので、楽曲にもよるが、バラードなどの静かな曲では、かなりS/Nの良いマイクプリを使わないと少しノイズなどが気になるかもしれない。だが、それ(ノイズ)も含めての楽曲という考え方がこういった機材を使う場合には必要であろうと思うし、S/Nの良し悪し以上のものが音楽に貢献していると思う。
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以上、いろいろとチェックしてきたが、ビンテージ機材やこういった機材を使う場合には、使い手側にもある程度の知識とデメリットの部分を許容できる懐の広さも必要になる。しかし、そういった部分を差し引いても得られる音の喜びを感じてもらえるだろう。

製品サイト:https://www.miyaji.co.jp/MID/product.php?item=Motown%20D.I.%20WB-3
(サウンド&レコーディング・マガジン 2016年6月号より)