
物理モデリング・レゾネーターのRings
ミキサーや分配器として使えるShades
まずはRings。物理モデリング・シンセシスをベースにしたモデルです。MUTABLE INSTRUMENTSのラインナップには既に同じような物理モデリングを搭載したElementsがありますが、Ringsはよりレゾネーター・セクションに特化した構成になっています。エキサイターやリバーブは無いものの、その分の処理能力をレゾネーターに割り振ることで、断続的に入力されるサウンドを途切れることなくシンセサイズするという意味でのポリフォニーや、Elementsとは異なるレゾネーター・タイプの搭載など、Elementsには無い機能を獲得しています。
物理モデリング・シンセシスのレゾネーターに入力する基本といえば、インパルスに近い非常に短い波形。エンベロープ・ジェネレーターでその基本となる波形を作って入力してみます。3種類あるレゾネーターをそれぞれ選んでみると、単なるインパルスがアルゴリズムの差によってさまざまなサウンドになっていきます。もちろん物理モデリングですから、そのどれもが撥弦していたり、プレートをたたいていたりするような物理的な存在感のあるもの。パーカッションのように使うとしても、また音程のあるシーケンスに使うとしても、非常に特徴的で存在感のあるものですから、実制作において楽曲の引っ掛かりになるサウンドを作る際にも非常に有効でしょう。シーケンサーでエンベロープを動作させ、ちょっといじっているだけでも通常のシンセでは難しいような複雑な倍音を持ったシーケンスを作ることができました。めちゃくちゃ楽しい!
少しポリリズミックなディレイを足してみたいので、ここでShadesを用意してチャンネルを作りましょう。Shadesはミキサーやアッテネーター、またボルテージ・オフセットとしても使えるユーティリティです。Ringsのアウトをパラって片方はShadesのch1に、もう片方はディレイに入力しリターンをShadesのch2にインプット。これだけでミキサーとして動作します。Shadesの各チャンネルはユニポーラー/バイポーラーの選択ができるので、オーディオ信号のレベルはもちろん、LFOなどCVの強さを調整することも可能です。ここで使用しているのは原音とディレイの2ch分ですから、ch2のアウトから音声を取ります。その間、ch3は独立したアッテネーター/オフセット・ジェネレーターとして動作しますから、別途さまざまな用途に使用することができます(写真①)。と、いうようにRingsとShadesで、単純なインパルスから複雑で存在感のあるパーカッシブなループができました。

9種のモジュレーションが使えるWarps
ランダムにA/B振り分けするBranches
続いてはWarps。これは2つのオーディオを入力し、その2つのクロス・モジュレーションによりシンセサイズしていくモジュールです。Warpsでは7種類のクロス・モジュレーション・アルゴリズムを用意。クロス・フェード、クロス・フォールディング、ダイオード・リング・モジュレーション(デジタル・モデリングによる)、デジタル・リング・モジュレーション、ビット・ワイズXORモジュレーション、オクターバー/ コンパレーター、20バンド・ボコーダーという複雑なモジュレーションが可能です。またボコーダーには3つのアルゴリズムがあるので、合計9つのポジションが大きなノブに割り振られています(写真②)。

基本的にはインプットAとBにそれぞれサウンドを入力し、ノブを回しながら変調を確認していく感じです。金属的なサウンドからビット・クラッシュのようなデジタルなサウンドまで原音からは想像もできないようなモジュレーションが可能。インプット1に単純な波形のオシレーターを内蔵しており、外部オシレーターが1つしかない場合でも簡単に使用することができます。私は2つのオシレータを接続し、変化を確認してみました。さらにLFOをアルゴリズム・セレクトにアサインしてアルゴリズムがどんどん変わっていくように設定します。
ここでBranchesも使ってみましょう。Branchesは入力されたゲート/トリガー情報を確率によってA/Bアウトに振り分けるモジュール。シーケンサーのゲート・アウトをBranchesで分岐させます。エンベロープを2つ用意して、通常のものと極端な設定のものを用意。確率によってリズミックに変化するシーケンスを作ってみました。元が単純な波形とは思えない複雑な倍音を含みつつ、その倍音構成がランダムに、繰り返しなく変化。トランジェントもこれまた繰り返しなく動いていきます。このような音楽的なランダムネスを含んだシーケンスは、DAW上での楽曲制作においても、狙って作るのが難しいもののひとつですが、この構成であれば非常に簡単に、聴いたこともないようなものを作ることが可能です。
今回は2モジュールずつ触ってみましたが、モジュラー・シンセサイザーは構成が増えることにより可能性がとてつもなく広大になっていきます。皆さんもぜひモジュールをそろえて楽しんでみてください。
製品サイト:http://www.fukusan.com/products/mutable/rings.html
(サウンド&レコーディング・マガジン 2016年6月号より)