
ラーセン・マスタリングのセットアップを
プリセットから手軽に選択可能
気軽に外部に持ち出せるAPPLE iPad版に加え、64ビットにネイティブ対応したMac/Windows版は、スタンドアローン・アプリケーションとしてだけでなく、Audio Units/VST2/VST3/AAXなどにも対応。早速立ち上げると、まずLurssen Masteringスタジオのコンソールがドーンと眼前に立ちはだかる。この壮大な光景に気圧され、尻込みしてしまう方も安心してほしい。このソフトの大きな特徴は、ラーセン・マスタリングで実際に組まれているセットアップ“全体そのまま”がモデリングされていて、ユーザーであるあなたは、ポップ・ロックやヒップホップ、アメリカーナ、はたまたEDMなど、25種類用意された豊富な“スタイル”と呼ばれるプリセットから、お好みの設定を選ぶだけで、彼らの企業秘密とも言える(機材の最適な接続順/レベル管理を含む)そのセッティングを“一瞬で”手に入れられるのだ。
あなたはそれに対して、画面左下の“INPUT DRIVE”や右下の“PUSH”ノブを回し、グッとくるポイントをその耳で探すだけ。かつてこのような割り切った考え方のソフトウェアがこの世の中に存在しただろうか……? などと自問自答する筆者。そして試しに、自分がミックス・ダウンした2ミックス素材をDAWのトラックにインポートし、本プラグインをインサートしてみた。恐る恐る再生したところ、まず耳に飛び込んでくる音の“ハリ/ツヤ感”がググッと増したことに驚かされた。しかも音像が極めて自然でかつ余裕があり、充実しながらも耳が痛くなるような音声の破たんが一切無いのだ。これは内部処理が88.2kHzまたは96kHzで行われていることのみならず、同時に極めてシビアな“レベル(ゲイン)制御”が内部で行われている証明であるとも言えるだろう。
機材別のパラメーター調整のほか
オートメーションにも対応
次に前述した“INPUT DRIVE”と画面下部中央の5バンドEQと連動する“PUSH”ノブをそれぞれ回してみる。画面中央に配されたVUメーターを見ながら、0.1dB単位で細かくレベルを抜き差ししてみる……なるほどなるほど、これはすごい。音像にパンチをさらに与えながらも、破たんなきバランスをそのまま保ち続けているのだ。そしてふと右上に、機材の接続とおぼしきアイコンを発見し中に入ると、そこには現在使用されている機材が接続順に現れ、一部コンプレッサーのスレッショルド&ゲイン設定までもが表示されていた(画面①)。

前述の5バンドEQと併せ、自分好みに微調整した設定を自分の“スタイル”として保存も可能というわけだ。さらに、これらツマミなどの操作はオートメーション可能で、楽曲のセクションごとに盛り上げたり、スキマを作ったりという流れがいとも簡単に行える。何せたった一つのノブで、全体の掌握が可能なのだからそれもそのはず。あまりに簡単過ぎて、マニュアル無しでもう全容を把握してしまった筆者。完成したマスターは、AAC、WAV、FLACなどのファイル形式で書き出し可能だ(iPad版では、iTunesファイル共有やSoundCloudなどにも対応)。
さらにほかの使い方はないかと考え思いついたのが、ミックス時の各トラックに対する、ファイル・ベースでのレンダリング処理だ。元気のないトラックに対してLurssen Mastering Consoleでガンガン活力を与えていくこの手法、ファイル・ベース処理ならCPUパワーの残存量を気にすることもない。早速、AVID Pro Tools 12のAudioSuiteで試すと、淡泊なリズム・ループでさえも血が通い、存在感が手に取るように増してゆく。コレは面白い! ここまで手軽にイイ音を手に入れられるとは……。感銘とともに、だんだん他人にオススメするのがもったいなくなってきた、この“魅惑のブラックボックス”。あなたの耳は驚きを持って迎え入れるに違いない。
製品サイト:https://www.ikmultimedia.com/products/lurssen/?L=JP
(サウンド&レコーディング・マガジン 2016年6月号より)