
計6ch同時出力可能な512
独立した2基のフィルターを搭載した521
●SYS-512 VCO:16HPに2基のVCOが収められています。最上段にはSQUARE、TRIANGLE、SAWTOOTH それぞれの波形出力が装備されているので、1VCOごとに3つの出力、計6チャンネルを同時に使用可能です。SQUARE波形にはPULSE WIDTHコントロールのスライダーがあり、外部CVを入力してパルスワイズ・モジュレーションをかけることもできます。またオシレーター・シンクにも対応。これを使って多彩な倍音を作り出せます。シンク・モードは“S”(=Soft)か“H”(=Hard)を選べ、Softの場合は入力された周波数に、Hardの場合は正数分の整数倍の周波数タイミングにかかります。独立した2基のVCOそれぞれにSYNC IN/OUTがあるので、お互いに掛け合わせたり、さまざまな信号入力を試してみてもいいかもしれません。
最下段にはモジュレーションの入力端子が、各VCOそれぞれにKEY(1V/oct)を含めて3つあります。VCO1のKEY INに入力された信号はVCO2にも適用されるよう設定してあり(逆もしかり)、それと同時に別の信号を入れればそれぞれトラッキングされる気の利いた設計です。ENVやLFOはもちろん、VCAの出力を返してみたり、VCOを入れてFM変調してみると単独VCOでは得ることのできない多彩な倍音を作れるでしょう。
現在の“何でもあり”Eurorackシステムにおいては非常にオーソドックスかつベーシックなアナログVCOであることは間違いなく、洗練された仕様をSystem-100Mが本来持っていたことにも驚がくしました。

●SYS-521 VCF:独立したVCFが2基収められた本機では、何と各VCFに入力が3つ、合計6チャンネルもあります。VCOの解説で“6つの波形を同時に出力可能”と書きましたが、それをそのままVCFに入力できるとは思いませんでした。
LPFフィルターの特性は、24dB/octになっており、ROLANDらしい鋭いカットオフで倍音をコントロール可能。レゾナンスは自己発振し、KEY IN入力でピッチの追従ももちろんですが、奇麗なサイン波を出します。当然ですがオシレーターとしても使えます。HPFはOFF/1/2の3段階のスイッチで選択可能。MOD INはそれぞれKEY INのほかに2つ用意され、ENVやLFOなどのモジュレーション・ソースをスライダーで深さ調節できます。このタイプのフィルターは、レゾナンスを上げてフリケンシーをいじると音痩せが気になるモデルも存在するのですが、SYS-521では全く気になりません。それが設計思想によるものなのかパーツの良しあしなのかは分からないのですが、安心してレゾナンスを上げられます。

●SYS-530 VCA:VCAも独立2基に対してそれぞれ3つの入力があり、VCOなどの音声信号だけでなくCVを入力してコントロールすることも可能です。INITIALツマミは入力が0の場合の出力レベルを設定するもので、これを10にしておけば入力された信号はそのままのレベルで出力され続け、0であれば入力されたMOD INに100%依存することになります。
LIN/EXPのコントロール・スイッチは、入力信号に対しての反応を選択可能。ENVなどのCVに対してはEXPを選択するとよりダイナミックな変化量になりますが、実際に試してみて選択すると良いでしょう。出力はOUTのほかにSUMという出力があります。これは2つのVCAが足された信号が出ます。そしてVCAをコントロールするためのMOD INがそれぞれ3つずつあります。鍵盤やシーケンサーのゲートでトリガーされたENVを1、LFOを2、VCOを3に入れてAM変調してみるのもよいかもしれません。さらに緑と赤のインジケーターがありますが、赤はオーバーロードの意。信号の強弱を表しているだけでなく、赤が付くとアナログ回路の持つ独特のひずみが付加されます。
ここまでがVCO、VCF、VCAというピッチ、音色、音量という音の構成3要素でしたが、これらの基本構成に対する信号の入出力に余裕があるので、既に発売されているAIRA Modular Effectシリーズや、お手持ちのEurorackモジュール、さらに今後発売されるであろうSystem-500拡張モジュールの数々(あくまで筆者の妄想)が追加されても無理なく受け入れることのできる設計になっています。

音色に時間的変化を加えられる540
4つのエフェクトを搭載した572
●SYS-540 2ENV-LFO:ここまでの基本構成に時間的なピッチ/音色/音量の変化を加えるのがSYS-540 2ENV-LFOの役目です。この540では独立したENVが2つとLFOが1つの構成で、ENVはMANUALボタンでの手動操作も可能。FAST/SLOWモードの選択もできるので繊細な音作りもできます。ENV信号の+(プラス)出力2つに加えてー(マイナス)出力も1つ装備。もしこのマイナス出力を装備していないにもかかわらずそういった信号が欲しくなったら……CVインバーターが必要です。お分かりいただけるでしょうか、この計らい。そしてENVは外部トリガーではなくCYCLモードにしてLFO的に使用することも可能です。
LFO部分ですが5種類の波形が選択制ではなく同時に使用できます。FREQの隣にはDELAYツマミがあり、鍵盤入力やトリガーに対してLFOをリセットや時間的表現をすることが考えられています。LFO信号の波形を頭からスタートさせるENV1/2を選択できるKYBD TRIGスイッチ、DELAY TRIGではLFO DELAYをリセットするENV1/2を選択可能。これは明らかにビブラートなどの表現にピッタリくる手段だと思いますが、効果音的な音作りでも威力を発揮することでしょう。これも単純な発振器的なLFOだけしか手元にない場合、表現に苦労する効果です。
ほかにもLFOは外部CV入力によって発振周波数をコントロールできますし、可変できる周波数範囲をH/M/Lの3つのレンジを使い分けられるので重宝しそうです。またチェックして気がついたのは、LFOの最速周波数が予想より若干遅いなということ。しかしLFOの波形とVCOの波形がほぼ同じ!ということは、速い周波数が必要ならVCOが2つもあるでしょ?と言われた気分です。そうです、だからこそわざわざ3つのレンジを用意するほど繊細に作られていたんですね、感無量です。
ここで筆者も経験した通り、VCOやLFOといった名前にとらわれて機能を見失ってはいけません。ENVもCYCLモードにすればLFOになるしVCFだって発振させればオシレーターにもなり、LFOのパルス波形だってトリガーにもなるのです。こういった発想の転換こそシンセサイズの醍醐味でもあります。

●SYS-572 Phase Shifter/Delay/LFO:フェイズ・シフター、ディレイ、LFOとゲート・ディレイという4つのエフェクトが搭載されたモジュール。まずPHASE部もDELAY部も共通で一番左のMODノブには一番下のLFOが内部結線されているので、わざわざSYS-540などの外部LFOを使用することなくモジュレーションできるのが便利です。
PHASE部ですが、上記のMODは外部CV入力があり、外部のノイズやS&Hなどを入力することも想定されます。SHIFT FREQで中心周波数を設定しRESONANCEではフィードバック量を調節。最後のウェット/ドライの割合を決めるMIXにも外部CV入力があるのでENVなどを入力しても面白いかもしれません。全体の効果の印象は想像より優しいものでしたが、MOD INにCYCLモードにしたENVで高速LFOを作って入力してみたら想像以上に過激な効果も達成したので、皆さんもぜひ試してみてください。
DELAY部も同様にMODはLFOが内部結線されていますが、外部CV入力によってコントロールできるのもうれしいです。こちらも内部LFOだけに頼ったモジュレーションでは比較的優しい効果に限られますがいろいろな信号を入力することによって音作りの幅が広がります。
内部LFOは三角波の正相/逆相の出力が用意されており、その出力は周波数が上がるにつれて出力電圧が下がるように設計されているので、SYS-540などのLFOに比べて出力が小さいので注意が必要。やはりPHASE SHIFT/DELAYのMOD用のLFOと考えて良さそうです。
次にGATE DELAYですがPHASE SHIFT/DELAYといったエフェクトに限らずあらゆるGate信号に使用可能なので、鍵盤やシーケンサーのゲート信号から遅れてENVがかかる音色などに簡単に適用できるでしょう。

以上、駆け足でしたが各モジュールを紹介してきました。しかし忘れてはいけないのがケースと電源です。84HPのEurorackケースの外観は、サイドのウッド・パネルと黒アルミのコントラストに重厚感があり、斜め置きやシステム拡張時のスタックにも対応しているので安心です。そして電源ですが、同社のSystem-1MやBitrazerなどの消費電力の多いモジュールにも余裕で対応できる2,000mA。安価で脆弱な電源利用による音質劣化は、音作りの大敵となりますので、すみやかにこのケースを使用することをオススメします。
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群雄割拠のEurorackモジュラー・シンセの時代に満を持して我が国産の雄、ROLANDが放つモジュールは、その歴史にさんぜんと輝くSystem-700/100/100Mの名を借りた懐古主義的な復活と思い込んでいた自身を恥じる結果となりました。VCOやVCFといったコアな部分の設計/デザインはさまざまな音作りを受け入れられる可能性を秘め、時代に合った音作りとはその機材ではなく操作する自らの内なる問題であると教えられたのです。再度の妄想ではありますが、これからたくさんの拡張モジュールが出るかもしれません。S&Hやノイズ出力、マルチプルやシーケンサー、ポルタメント用スルーリミッター、リングモジュレーターやミキサーなど……。また、Eurorackシステムの利点でもある、音作りにおける柔軟な考え方のモジュールが数多く存在し、その利用は無制限である中でも、ROLAND System-500シリーズはコア・システムとして質実剛健なベーシックかつ特別な存在感を放つ製品と言えるでしょう。

製品サイト:https://www.roland.com/jp/products/system-500_complete_set/
(サウンド&レコーディング・マガジン 2016年5月号より)