「ROGER LINN DESIGN Linnstrument」製品レビュー:XYZの3軸構造によるタッチ・センシティブMIDIコントローラー

ROGER LINN DESIGNLinnstrument
ROGER LINN DESIGNはかの有名なLinndrumを生み出したロジャー・リン氏が興した電子楽器メーカーで、今回は非常にユニークなMIDIコントローラーLinnstrumentが発売となりました。実際触ってみるとさまざまな発見がありましたので、できるだけ分かりやすく解説できればと思います。

3Dで指の動きをセンシング可能な
25×8マスのパッドを装備

まず、横に25マス、縦に8マスの白い方眼のパッドは、シリコン製ではありますがグニャグニャしているわけではなく、適度に指に引っかかって扱いやすくなっています。1マス1マスが鍵盤と同じような役割で、横軸は半音階で並んでおり、デフォルトではCの音が青色に点灯。そのほかの白鍵が緑色、黒鍵が消灯という状態になっています。つまり横25マスは2オクターブ分の音域をカバーしているのです。

縦8マス分は何かというと、指定の間隔でズラした音階が8列並んでいるという形。このズラす間隔はRow Offset(Rowは行という意味)というパラメーターで設定し、例えば+5にした場合はC3の上はF3となり、C3の下はG2となります。ギターのような発想なのかなと思っていたら、Row Offsetの設定の中に“GUITAR”というパラメーターも用意されており、縦に指をすべらせるとギターのアルペジオのような演奏も可能でした。さすがに片手でコードを押さえるには慣れが必要ですが、スケールがギター的に配列していることで1オクターブ以上の跳躍も簡単にできますし、横幅もあるので両手での演奏も可能です。ただ、鍵盤演奏をメインにしている方には最初はかなり難しいと思います。ギター演奏の心得がある人の方が直感的に操作できるかもしれません。

ツマミやフェーダーなどが全くないLinnstrumentですが、指一本で3つパラメーターを同時にコントロールすることができます。キーを押さえたまま左右(X軸=PITCH)に揺らすとピッチ・ベンド、上下(Y軸=TIMBRE)に揺らすとモジュレーション・ホイール(CC01)またはカットオフ・フリケンシー(CC74)、押し込むようにして(Z軸=LOUDNESS)揺らすとポリフォニック・プレッシャーまたはチャンネル・プレッシャーもしくはエクスプレッション(CC11)が変化します。XYZの3軸=3Dで指の動きをセンシングするというわけです。

接続端子は、USBとMIDI IN/OUTが備えられており、USBで接続すれば簡単にソフト・シンセやDAWと連携することができます(バス・パワーに対応)。実際にアナログ・モデリング系のシンセをLinnstrumentで演奏してみると、感度の高さと滑らかさは特筆すべきものがありました。一般的なリング状のホイールを使ったピッチ・ベンダーにはできない繊細で人間的なベンディング/ビブラートが可能なのです。ただ、繊細であるがゆえに、ピッチをしっかり安定させた演奏にはかなりの訓練が必要で、鍵盤楽器というより弦楽器のようにとらえて奏法を習得していくべきもののように感じました。

マトリクス方式の設定で
使いやすく追い込むことが可能

Linnstrumentをしばらく試していて感じたのは、使う音色をかなり選ぶということでした。非常に多くのコントロール信号を出すので、その信号に繊細に反応できる物理モデリング系のシンセサイザーなどが合うのではないかと思います。とはいえ自由自在に演奏するとなれば設定を音源に合わせてチューニングする必要があります。液晶ディスプレイのステータス表示がないLinnstrumentでは、パッドを利用してマトリクス方式的に設定を編集します。その設定は、本体左側にある、PER-SPLIT SETTINGS、PRESET、SPLIT、GLOBAL SETTINGSといったボタンを押して行うのですが、ボタンを押すと、8×25のパッドのLED点灯が設定を表すものに変わります。

PER-SPLIT SETTINGSは、パッド上部のパネルに書かれているMIDI MODEやBEND RANGE、LOW ROWといった各種パラメーター表を見ながら設定できます(写真①)。書かれたパラメーターの位置とキーが対応しているので、表を見ながらキーを押していくと、設定を細かく追い込んでいくことが可能です。またGLOBAL SETTINGSは、パネル下部にパラメーターが書かれており、PER-SPLIT SETTINGSと同様に設定していきます。前述のROW OFFSETの設定や、アルペジエイターのパターンの選択などもここで行います(アルペジエイターの有効化はPER-SPLIT SETTINGSにあります)。

最初はコントロールする項目の選択肢が多く、慣れるのに苦労するのですが、MIDIの基本的な知識がある人ならマニュアルが無くても設定を細かく追い込んでいくことは可能かと思います。また、ROGER LINN DESIGNのWebサイトには、推奨ソフト・シンセなどがまとめられたページがありますので、そちらを参考にして自分好みに設定すれば、Linnstrumentにしかできない表現が可能になるのではないでしょうか。

▲サイドには各種接続端子を備える。左から電源入力、MIDI IN/OUT、USB B、フット・スイッチ(ステレオ・フォーン) ▲サイドには各種接続端子を備える。左から電源入力、MIDI IN/OUT、USB B、フット・スイッチ(ステレオ・フォーン)
▲写真① PER-SPLIT SETTINGSの各種設定は、パッド上部に書いてあるパラメーターを参照しながら行える ▲写真① PER-SPLIT SETTINGSの各種設定は、パッド上部に書いてあるパラメーターを参照しながら行える

製品サイト:http://www.rogerlinndesign.com/linnstrument.html

サウンド&レコーディング・マガジン 2016年5月号より)

ROGER LINN DESIGN
Linnstrument
オープン・プライス(市場予想価格:262,500円前後)
▪パッド:25×8 ▪外形寸法:570(W)×209(H)×25.4(D)mm ▪重量:約2.2kg