
ギター・アンプの低域までしっかり収音
高域はひずみにくくてスムーズ
実機が届く前からインターネット上の資料である程度イメージしていましたが、いざ目にしてみると良い意味で裏切られました。リボン・マイクということで、トランスの重みがあるだろうと思っていたものの、想像以上にずっしりとしていて、サイズもイメージより大きく感じられたからです。そして何より、削り出しのステンレス・スチール筐体。滑らかで美しく、作りの丁寧さと高級感が漂っています。当然ながらPADやローカットなどのスイッチ類は一切ありません。
パーツに関しては、ネジ1本に至るまで専用設計で自社生産しているそうです。スペック面を見ていくと、指向性はリボン・マイクなので双指向のみ。“SAMAR”ロゴのある正面に対して、裏側は逆位相となっています。付属品もミニマムで、ケースとマイク・ホルダーだけ。ケースは木製で、高級かつレトロな感じです。
早速使ってみましょう。スタジオでレコーディングの仕事があるので、現場に常設のコンデンサー・マイクNEUMANN U87と聴き比べてみます。まずはアコースティック・ギターのアルペジオやコード・ストロークを収音。U87よりも低域が豊かな印象ですね。抜けの悪いブーミーな低域ではなく、ナチュラルで太い感じです。逆に高域は若干おとなしいと思いますが、実際の楽器の音に近いイメージ。実のところU87のサウンド・キャラクターには癖がありますので、それからするとVL37の特性はかなりフラットだと言えます。
録り音にEQをかけると、ローエンドとハイエンドにさらなる違いが出てきます。スペック・シートを見たところ、周波数特性は20Hz〜25kHz。ラージ・スピーカーでモニタリングしつつ低域をオーバーに持ち上げると、しっかり低域を収めていることが分かりました。高域に関しては、可聴域を超えていますが、倍音の調整などを考えるとありがたいスペックです。
次にギター・アンプへセット。ダイナミック・マイクのSENNHEISER MD421も追加し、パワー・コードから録っていきます。音を聴いてみると、VL37のキャラクターはU87とMD421の間という印象。ただし低域に関してはVL37が最も多いように感じるので、コードではなくメロディックなリードなどでは、音の太さとして違いがよく分かるでしょう。スピード感については、U87が一番速くてMD421が中間、そしてVL37が最もゆっくりした感じ。アンプの音量を上げたときに、一番ひずみが少ないのはVL37です。特に高域はリボン・マイクらしく、ひずみ感の無いスムーズさで、3本の中ではアンプの音を最も忠実にとらえています。そのためヘビーにひずんだギターから軽妙なカッティングまで、奇麗に収音できると思います。
ひずみが少なくて太く
ナチュラルな歌声が得られる
続いて男性ボーカルでチェック。比較用のマイクはNEUMANN U47 Tubeで、かなりハードな歌を収めてみます。録り音はと言えば、ひずみが少なくて太く、ナチュラルなキャラクター。予想通りの結果ですね。ちなみに、広めでライブなブースでは若干オフめのサウンド、狭めのデッドな部屋ではクリアかつオンなサウンドが得られます。しかしこれはVL37のキャラクターというより、双指向性によるもの。本体の裏側からも収音されるので、ライブな部屋では単一指向性よりも反射音が多く入ってしまうのです。スタジオにガラスの面があれば、その反射特性がサウンドに大きく影響を与えます。とりわけ今回のようにパワフルなボーカルや大音量の楽器だと反射音が増え、抜けが悪くなりがちなので要注意。
最後にオマケですが、ハンド・クラップを録音してみました。コンデンサー・マイクでは“ペシペシ”というアタック音だけが強調されてしまいがちですが、VL37ではピーキーにならず、ナチュラルなサウンドで録れます。
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全体の印象としては、レンジが広くてとてもナチュラルなサウンド。そして最大音圧レベルの高さ(140dB SPL以上)、セルフ・ノイズ&ひずみの少なさが特徴ですね。今回は1本でのチェックとなりましたが、ぜひ2本使ってピアノやドラムのトップなどにも試してみたい。さぞかし位相感が良いことでしょう。ハイレゾ環境でのレコーディングも含めて、何にでも使えるという表現が私の中ではしっくり来ます。リボン・マイクを検討中の方には、ぜひ選択肢に入れてほしい1本ですね。


製品サイト:http://umbrella-company.jp/samaraudiodesign-vl37.html
(サウンド&レコーディング・マガジン 2016年4月号より)