
ライン・レベルの信号も入力可能
2系統のDIを搭載
Stingerは既に定評のある同社のマイクプリGTQ2の1チャンネル分に加え、アウトプット側にフェーダーを装備。興味深いのは、通常のDI入力のほかにもう1つ別系統のDIがあり、オーバードライブ回路によりクランチ・トーンやアナログ的な質感を加えられることです。このDI入力は−20dBのPADを備えており、ライン・レベルの信号を入力してエフェクト処理することもできます。ミニチュア・コンソールのような構成で、コンピューターの隣に置いてもなじみやすいサイズと言えるでしょう。
トップ・パネルの構成ですが、まず一番上が電源スイッチです。本機は電源を内蔵しているので、ケーブルをつなぐだけ。その下の斜めになっているセクションにNEVEでおなじみのマイクプリの入力レベル切り替えノブがあり、−10〜+80dBという設定になっています。左は48Vファンタム電源と位相反転のスイッチ。その下には3バンドのEQが用意され、80HzのシェルビングEQ(±15dB)、400Hz/1.6kHz/3.2kHzで切り替えられるベルEQ(±18dB)、12kHzのシェルビングという構成はGTQ2と同じです。手前のフラットな部分には、突き上げで+10dBに設定されている100mmストロークのフェーダーが用意されており、右に−33〜+24VUを3dBステップで表示するLEDメーター(プリ/ポストを選択可能)があります。左のDIコントロール部にはOVERDRIVEとアウトプット・レベルを調整するボリューム、その下にFXとPADのオン/オフ・スイッチが配置されています。
フロント・パネルにはDI入力が2系統あり、それぞれINPUTとPARALLEL(スルー・アウト)端子を用意。左が“INSTRUMENT”、右が“GT D.I.”となっているのですが、前者がエフェクトを通るチャンネル、後者はGTQ2に搭載されているのと同等のスタンダードなDIとなります。やや分かりづらいですが、2基のDIが搭載されていると考えてください。
秀逸な効き味の高域シェルビングEQ
音作りの幅が広いひずみ系エフェクト
さて実際にStingerに触れてみます。まずボディの質感がプロ用機材らしさをアピールしており、何とも言えぬ満足感があります。操作は分かりやすく、各操作子も安心できる作り。特に100mmフェーダーの存在は大きいと考えます。レコーディングの際はできるだけプリアンプのヘッド・マージンを有効に使いたいのでゲインを上げるのですが、DAWのインプット側のオーバー・レベルが気になるときがあります。例えばボーカルをサビだけ少し下げたいという場合などに、このフェーダーが力を発揮してくれるでしょう。エンジニア的な感覚かもしれませんが、録音時にこのフェーダーに指をかけているだけで、不思議と安心するものなのです。
筆者は普段からGTQ2を使用しており、サウンドには満足しています。本機も入出力段にMARINAIRのトランスを装備するなどNEVE 1073を意識して設計されているだけあり、中高域から上の倍音の雰囲気はよく似ています。一方の中低域から下に関しては、NEVEより柔らかく優しい感じを受けました。好印象だったのが3バンドEQ。中でも倍音にシルキーな輝きを与えてくれる12kHzのシェルビングは絶品と言えます。80Hzのシェルビングも実音を壊すことなくエネルギッシュに音色を変化させてくれ、アナログEQの存在意義をしっかりと表現できています。
続いては興味津々のDIです。GT D.I.はサウンドも素晴らしく、スタンダードに使えます。こちらの系統はプリアンプに直結されているのですが、INSTRUMENTのDIはプリアンプと別系統となっており、+4dBで出力されます。もちろんその出力をプリアンプに入力したり、ほかの機材につなぐことも可能です。問題はそのサウンドで、そんじょそこらのアナログ・シミュレーターとは一線を画します。はっきりとしたキャラクターを持っており、FXのスイッチを入れるだけでかなり良い感じのドライブ感が得られるのですが、“OVERDRIVE”のツマミを全開にすると、ファズそのものと言っていいような音色になります。さまざまな使用法が考えられるユニークなエフェクトで、ここぞというときに本領を発揮することは間違いないです。
Stingerはレコーディング時のDAWとの併用はもちろん、スタジオに持ち込んでナレーターがカフ・ボックス代わりに使うのもありだと思います。また、多彩なDIを生かして楽器プレイヤーがステージ上で活用しても良いでしょう。アナログならではの使い勝手/サウンドを存分に味わえる、素敵なプリアンプです。


(サウンド&レコーディング・マガジン 2016年3月号より)