
音楽を楽しめるナチュラルな音
同軸ならではの定位感の良さ
今回レビューするのはPIONEERの最高級スピーカー開発セクションの技術を継承したTAD LABの技術を盛り込んだ、RM-07。さて、このRM-07のサウンドを聴いて、まず感じたことは、とてもナチュラルだということでした。昨今のパワード・モニターは積極的に音作りし過ぎていると感じていた私には、とても自然に受け入れられるサウンドでした。パワード・スピーカーの多くが、ハイエンドが妙に持ち上がって聴こえたり、逆に低音域は小さなボディでローを出そうと無理なバスレフ特性を持たせたり、勝手にドライブ感を与えてしまっているようです。ですが、スピーカーの音ではなく、音楽を聴かせてほしいのです。セッティングしているときは、精悍(せいかん)で重くて硬いこのスピーカーが、こんなにナチュラルな音を響かせてくれるとは想像しませんでしたが、とても自然に音楽を楽しめました。最も重要なことですが、意外なほどそれをクリアできる製品がありません。
この“音楽を楽しめる”という要素は非常に重要です。刺激が強ければ、いったんは驚かせることができても、長くは続きません。スピーカーのサウンドに個性は要らないのです。音楽を素直に再生してくれて、音楽に専念させてくれればいいのです。
さらに驚いたのは、この小さなボディで、モニタリングに十分な周波数レンジと、音量感(ダイナミック・レンジ)が得られることです。小さいモニターのメリットは、ヒアリング・ポイントの近くに置けること。メタリックで耳障りな高音域では近くで聴くとなおさら耳に付きますが、このRM-07であれば、そうした問題はないでしょう。特性として50kHzまで伸びていることで、仮にソースがそこまで伸びた音源でなくても、聴きやすいナチュラルな高音域を実現しているのかもしれません。極めて優秀なドライバーです。一方、拡散性が強い低音域側も、近くで聴くことで、より正確なモニタリングができます。一番のウリは、2ウェイ同軸型であるという点でしょう。新開発されたという同軸ドライバーが、ニアフィールドでの定位感の良さを実現してくれています。
高剛性のアルミ合金製エンクロージャー
3バンドEQで設置場所の影響を補正可能
エンクロージャーは、見た目よりもズシリと重い高剛性アルミ・ダイキャスト。持ち上げたりたたいたりすると、しっかりとした剛性を感じます。また、特許技術であるAFASTにより、定在波を効果的に抑制しているとのことですが、箱鳴り感や不要共振など皆無に感じました。
リア側には、3バンドのEQが搭載されています。普段の仕事と全く同じ試聴環境(大型コンソールのメーター・ブリッジ上)では、どのバンドも、0dB(ユニティ)にした状態がベストでした。しかし、デスク上に置いて天板での反射が大きかったり、すぐ後ろが壁であったり、部屋のコーナーに置く際にはこうしたEQは必須でしょう。もっとも重要なミッドレンジは、マイナス側に最小1dB単位で調整ができ、ハイとローは持ち上げることも可能という、とても理にかなった設計になっていると感じました。
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私のアトリエであるKim Studioでは、設立以来一貫して、メインのモニター・スピーカーとしてRAY AUDIO RM7Vを使っています。そのユニットはTAD製で、RAY AUDIO主宰の木下正三さんが、PIONEER在籍時に開発されたユニットです。ということは、RM-07はその血統を受け継いでいることになるのかもしれません。フラットで色付けが無く素直なのに、力強く美しい音という点で、クール・ジャパンとして、世界に誇れる音です。イヤホンばかりでなく、こうした優れたスピーカーで、身体全体で音を感じてもらいたいものです。
黒を基調にした、マットなデザインからは、控え目ながら業務用としてのアイデンティティも感じられます。モノとして、印象的で素晴らしいデザインも、気に入りました。一回り小さなモデルのRM-05もあるようですので、そちらも興味深々です。開発技術陣の真剣さが使わってくる、素晴らしいモニターでした。

(サウンド&レコーディング・マガジン 2015年9月号より)