
16音ポリ/4マルチティンバーで
DCO/DCW/DCAを2系統用意
まず当たり前のことですが、物理スイッチがないので壊れないという部分は大きな利点です。実機はもはやビンテージ機材と呼べるほど生産から年月がたっているため、良い状態を保つのは容易なことではなく、どこかしら“ヘタリ”が生じてしまいます。いつも変わらないコンディションで音作りができるということは、シンプルであり大事なモチベーションへの近道です。そしてiPadアプリであるがゆえ、どこへでも持ち運び演奏できるのも魅力です。
音源部についてですが、さすが本家本元が作ったアプリというだけあって再現性はかなり高く、実機さながらの音像をそのままクリアな状態で出力できる印象を受けました。16音ポリ、4マルチティンバーと現代のシンセサイザーと比較するとかなり制限された音数ですが、DCO/DCW/DCAを2系統用意。8種類の基本波形の組み合わせ、各ブロックに1つずつ備えられたEGを駆使することで複雑な音色を生み出すことができます。PD音源ならではの、ほかでは得ることのできない懐かしさと新しさの共存した世界観を見出させてくれるかのようです。
DETUNE機能では、ピッチをズラすことで、広がりのある音色を作ることが可能。±4オクターブ内でNOTE、FINEの値で細かく設定できる上、ライン出力が1、2、1+2’、1+1’と4種類あるので、効果の違いを確認しながら選択可能です。また、実機にも搭載されている特徴的な機能として、RING MODULATIONとNOISE MODULATIONがあります。これらはワンタッチで音源に強力なパンチを付加し、金属的な響きや打楽器的な音色を作る際に重宝します。さらにDSPエフェクト、リバーブ、コーラスなどの高品位なエフェクトも追加されていて、より一層現代的なサウンド・メイクができるようになっています。何より、それらの効果を実機よりも把握しやすく、設定しやすい直感的なGUIに仕上げているのがこのアプリの一番の特徴だと思います。
ほかのアプリと連携可能な
Inter-App AudioやAudiobusに対応
DCO/DCW/DCAのEGエディットは、項目をタッチすることで詳細画面がシンプルに拡大表示されます。エディット画面が、鍵盤を隠すことがないので、リアルタイムに演奏し確認しながら各パラメーターの設定を変更することができます。小さな2列ほどの液晶画面の数値だけで設定しなければならなかった実機と比べると、分かりやす過ぎて悔しさにため息が出るほどです。鍵盤の大きさの変更(24鍵か30鍵)や、範囲選択のしやすさはもちろんのこと、最大4段のキーボードを表示させることができて、向かい合わせの配置にして2人で同時に演奏する、なんてことも可能になります。
市販のiPad用MIDIインターフェースを利用すれば、外部MIDI機器からコントロールすることもできます。それによりベロシティへの対応やピッチ・ベンドなどのコントロールも可能となるので、DAWとの連携による曲作りやライブ楽器としての利用など、普段の音源環境への良いスパイスとして役立つでしょう。またiPad内のオーディオ・ファイルを再生しながら演奏することもできるので、練習にも活用できそうです。
このアプリにはシーケンサーや録音機能など、これ単体で楽曲を完成させる機能は今のところ備わっていませんが、ほかのアプリと連携を取ることができるInter-App AudioやAudiobus(インプットのみ)に対応しているので、それらを組み合わせることでiPad内だけで自在にトラック・メイキングを楽しむことができます。
CASIOのシンセの魅力は、オケになじみつつも埋もれることがなく、かつ優しく温かみのある、デジタル楽器ながら人の心に寄り添うような音を奏でてくれるところだと思います。最新のシンセサイザーでは体感できない、その琴線に触れるようなサウンドを気軽に取り入れられるこのアプリは、きっと新しいアイディアの鍵となり、音楽制作の幅を広げるきっかけになることでしょう。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2015年4月号より)