
デスクトップで使いやすいデザイン
付属エフェクトは自然なかかり方
本機は1Uサイズですが、本体前面を斜めに浮かせる形でハニカム構造のサイド・パネルが付いており、デスクトップで使いやすいようデザインされています。ラッキング用のアダプターも付属しており、奥行きは約200mmとリア・パネルに手が届きやすいサイズとなっています。
フロント・パネルのレイアウトは、左から電源スイッチ、2系統のファンタム電源スイッチ、IN 1〜8(XLR)、LINE/INSTを切り替え可能なIN 9/10(フォーン)、IN 1〜10のゲインつまみ、LINE OUT 1/2の音量つまみ、ヘッドフォン端子とその音量つまみという構成。IN 1〜8はマイク入力で、ライン・レベルの信号を入力するとひずんでしまうので注意が必要です。なお本機は単体の8chマイクプリとしても使用でき、IN 1〜8がリアのLINE OUT 1〜8より出力されます。
付属ソフト“Setting Panel”(画面①)はデジタル・ミキサー機能を装備。

ソフト上で入力トラックのミュート・スイッチをオフにするとダイレクト・モニター状態になり、入力音をレイテンシー無くモニターできます。また、各トラックの“Analog”スイッチをアクティブにして、その下にあるPHASE/EQ/COMPスイッチをそれぞれオンにすれば、DAWに送る前の音を加工できます。このEQはパッシブ系の素直にかかるタイプで、かなりゲインを上下させても不自然な感じになりません。HIGH MIDとLOW MIDの設定範囲は32Hz〜18kHzのフルレンジで、かなり自由に音作りできます。COMPもソフト・ニーの自然にかかるタイプで、強くかけても不自然になりません。逆にレシオを16:1と高めにセッティングすれば、コンプらしいニュアンスを出すこともできます。
画面右にあるマスター・フェーダーは“OUTPUT SETTING”のページにあるLINE OUT1/2を“MASTER L/R”に変更しないと動作しないのですが、この設定にすると、TASCAMらしい中低域の密度が高いサウンドに変化します。DAWとうまく組み合わせて使いこなせば、音作りの幅が広がるでしょう。
現代的で明るいマイクプリの音質
ヘッドフォン出力も優秀
男女ボーカルと生ドラムでマイクプリの音質をチェックしてみました。録音/試聴環境は、APPLE MacBook Pro+AVID Pro Tools 10です。本機は96kHzにまで対応していますが、今回は24ビット/48kHzで聴いてみました。
まず全体的な音の印象は、以前のTASCAM製品と比べて、現代的で明るい、スピード感のある音色になっています。ハイエンドの抜けが良いので、モダンな女性ボーカルのポップス/ジャズなどに向いているでしょう。先述したSetting PanelのEQで80/160/320Hz辺りを調整すれば、往年の太い感じも演出できます。
次にSSLコンソールのアウトプットをLINE INに入力してみたところ、中低域が濃いTASCAMらしい音色が得られました。中でもフロントにあるIN 9/10の音が太く、好みでした。次に、このIN 9/10をINST入力に切り替えてパッシブ・タイプのFENDER Jazz Bassを入力したところ、低域が豊かで非常にバランスの良いDIとなりました。ヘッドフォン出力の音質も太くスピード感があり、パワーも十分。ヘッドフォン・アンプとしても優秀だと思います。
本機にデジタル入出力は装備されていませんが、アナログ16イン/8アウトをこのサイズで最大限うまく作り込んだ印象。魅力的なデザインや現代的なサウンドは、新しいTASCAMブランドのイメージに貢献するものだと思います。ぜひ店頭で試聴してみてください。

(サウンド&レコーディング・マガジン 2015年4月号より)