
鳴らした瞬間に懐かしい気持ちになる
JX-3PやE-MUのシミュレート音源
最初に使ってみたのは、ドラム音源のBeat Box Anthology。内蔵音色は、リズム・ボックスやリズム・マシン、ハンド・クラップ専用機など、1960年代から1990年代のモデル×80台が96kHzでサンプリングされたものです。実機で所有しているものも数多く収録されているので聴き比べてみたところ、何と実機よりも音が良い! 経年変化を感じさせない音です。興味深いのはリズム・ボックスのループで、DAWのテンポに同期するため、楽曲に独特のノリを与えることができます。音色やループなどのコンテンツは“Kits”“Loops”“Sounds”の3カテゴリーに分類されており、それぞれの中で“Classic”“Analog”“Digital”のいずれかのサウンド・タイプを選ぶ形。“Kits”内のドラム・キットにはエンベロープやフィルターなどのパラメーターが用意されており、打楽器一つ一つの音色調整が行えます。
実機を使っていた経験があって、今回Vintage Vaultで再会を果たしたシンセが幾つかあります。ROLAND JX-3Pを再現した、UVX-3Pもその一つ。JX-3Pは、別売のコントローラーPG-200をつながないことには、音色のエディットが超困難でした。しかし、このUVX-3PはGUI上にPG-200を思わせる操作子が配置され、単体でも音作りしやすい仕様です(画面①)。

肝心の音はと言うと、鳴らした瞬間に懐かしさと手放したときの思いが一気によみがえるもの。初期DCOシンセ特有のザラザラした質感とクロス・モジュレーションの効果、そして内蔵のコーラスをかけることにより太くなる感じまでそっくりなのです。
続いてチェックしたEmulation Oneは、ハービー・ハンコックやデペッシュ・モードなどが1980年代に使っていた8ビット・サンプラー、E-MU Emulatorのライブラリーから作られたインストゥルメント。音色にはロービットな味わいがあり、特にベルのサウンドにグッときます。続いてEmulation IIもチェック(画面②)。

こちらはEmulatorの後継機である12ビット・サンプラー、Emulator IIの再現版です。ドラムやベース、ストリングス、パッド、リード、オケヒット、クワイアなど250種類以上の音色が搭載されており、そのどれもがどこかで耳にしたことのある“あのサウンド”。実機のアナログ・フィルターを再現したフィルター・セクションや内蔵エフェクト(フェイザー、ディレイ、リバーブなど)で音作りもエンジョイできます。E-MUつながりで言うと、同社が1980年代に発売した12ビットのリズム・マシン=Drumulatorの再現版であるDrumulationも出色。8パートのドラム音源で、内蔵の16ステップ・シーケンサーでパターンを打ち込めます。
Chromaを模した個性的な響き
ウェーブテーブル・シンセも収録
発売当時の1980年代には10万ドルもしたといわれるワークステーション、FAIRLIGHT CMI IIXを再現したDarklight IIXも使えます(画面③)。

生楽器の音を中心に250種類以上のプリセットを持つシンセ“Page P”、ステップ・シーケンサーを備えたリズム・マシン“Page B”、3パートの音源付きシーケンサー“Page U”の3セクションから成り、それぞれを個別に使用してフレーズを作成します。中でも“Page U”は本当によくできていて、雰囲気のある音色はすぐ楽曲に取り入れたくなります。
“Kroma”はRHODESのアナログ・シンセChromaを再現したインストゥルメント。僕は以前、RHODES Chroma PolarisというChromaとよく似た6ボイスのシンセを持っていたのですが、どことなくそれにも近いキャラクターです。特に、出音のペッタリとした感じやフィルター・レゾナンスの特性はそっくり。LFOなどのモジュレーション周りはChroma Polarisよりもシンプルな作りで、なおかつ強力にかかる印象です。演奏していて感じたのは、とにかく音色がリッチでツヤがあるということ! プリセットの中では、パッドの音色にどこかジャーマン・プログレ風のテイストを感じることができ、心地良かったです。ちょっとほかのシンセでは出せないサウンドが魅力ですね。
さて、皆さんご存じの“ウェーブテーブル”。PPGが1980年代にWaveというシンセに採用し、広まった音源方式ですね。そのウェーブテーブルを使ったシンセ×7種をパックにした、Wave Runnerというインストゥルメントが収録されています。まずはPPG Wave 2をベースにしたWaveRunner 2.0を触ってみたところ、全体的にとても太い音。ビンテージっぽいリードやパッドとともに、最新のエレクトロにも使える華やかな音色も収録されています。次に試したWaveRunner Orangeは、WALDORF MicroWave XTまんまのルックス。MicroWave XTと言えば筆者あこがれの機材で、今もオークションで追いかけてしまうほどの一台。WaveRunner Orangeの音色は現代に合った感じに作られていて、内蔵のステップ・モジュレーターを使えばウォブル・ベースも簡単に作れます。WaveRunnerの各シンセに収録された波形をレイヤーし、再構築した音源のWaveRunner Xは、まさにおいしいトコ取りの最強のウェーブテーブル・シンセ。エディット画面が割り切った仕様で、音作りが簡単に行えます。音色については、鋭角的なリードやサイド・チェイン・コンプのかかったベースなどを搭載し、やはり現代の音楽にバッチリ対応します。
Vintage Vaultの収録音源は一つ一つの完成度が高く、懐かしさも相まって、つい夢中になり過ぎました……それこそ原稿を書く時間がガンガンに削られるほどに(笑)。有名アーティストの象徴的なサウンドがそのまま入っている快感と、同じフレーズを弾いてしまえる快感、コレはちょっと楽し過ぎます! また、実際触ったことのあるシンセならエディットもスイスイ行えるので、手放した機材が戻ってきたような感覚になりました。いろいろなジャンルの制作で大いに活躍するでしょうし、ぜひ試してみてください!
(サウンド&レコーディング・マガジン 2015年2月号より)