「AVID Pro Tools| S3」製品レビュー:AVBオーディオI/Oを内蔵したEUCON対応DAWコントローラー

AVIDPro Tools| S3
既に多くのスタジオ、クリエイターに多大な支持を得ているDAWコントローラー、AVID Artistシリーズのフェーダーは4本または8本。コンパクトで合理的ではありつつも、多くの情報を一度に把握する作業性の高さという点では、少々物足りないのも事実だ。それ以上を求めるとなると、それなりの設置場所が必要なC24などの大型コントロール・サーフェスになってしまう。その点、今回レビューするPro Tools|S3は16本のフェーダーを備え、絶妙なサイズ感とデザインだと感じる。

4イン/6アウトのオーディオ入出力
マイクプリも2基搭載


まずはコントロール・サーフェスとしての外観、操作、機能を大まかに説明していこう。16本のタッチセンス・フェーダーそれぞれの横に、10セグメントのLEDレベル・メーターを装備。ソロ、ミュート、チャンネル選択(Sel)、Recレディ、オートメーション・キーを備える。その上部にパン/プラグイン・パラメーターなどを扱う32基のタッチセンス・ロータリー・エンコーダーと、高解像度OLEDディスプレイを実装。ここにはトラック名と番号、詳細なメーター値、パラメーター名と値、オートメーション・モードなどが表示できる。大きなトップ・パネルに対して高さは低く、シャープな印象だ。コンピューターとの接続はイーサーネットで行い、プロトコルにはEUCONを採用している。さらに本機はAVB接続のCore Audio対応オーディオ・インターフェースにもなり、XLRでのマイク/ライン入力×2、TRSフォーンのライン入力×2、XLRのライン出力×2、TRSフォーンのライン出力×2、ヘッドフォン出力で計4イン/6アウト。現在のところ24ビット/48kHzに限定され、またコンピューターも比較的新しいものが必要となるが(現在はThunderbolt搭載Macが対応)、例えば普段はPro Tools|HDXを使っているユーザーが、ノート・パソコンと本機を持ち出して使うといった用途が想定できるだろう。今回のテストは、Macと接続して行った。設定などはEuControlソフトウェアをインストールして行う。新しいバージョン3.2が対応しており、以前のバージョンのEUCONに比べて、動作の安定性が向上したそうだ。 

繊細な操作が可能なフェーダー
プラグイン・パラメーターも展開可能


まずはPro Toolsのコントローラーとして使用してみることにしよう。ミックス中のセッションを開いてまず感じたのが、フェーダー動作の滑らかさ。軽いタッチで操作できるので、繊細なレベル調整が自然に行え、非常に心地が良い。また、選択したチャンネルのフェーダー位置をモーターでリコールする際のレスポンスが良く、動作音も静かで高級感がある。フェーダー・キャップを観察してみると、従来のノブの形状と比べて肉抜きされ軽く作られている。また、銅メッキの上に仕上げのメッキを施すなどタッチセンスのレスポンス正確さにつながる導電性も考慮されているようだ。フェーダー値の正確性も確認してみたが、DAW上のフェーダー値とわずかにずれる問題などは感じられなかった。またフェーダー横のレベル・メーターは視認性が良く、これがあると非常に助かる。ただ、Pro Toolsの画面ではフェーダーの左にメーターがあるのに対し、Pro Tools|S3は右にあるため、最初のうちは何度か隣のフェーダーを触ってしまった。特徴的な32のロータリー・エンコーダーは、まずInput、EQ、 Pan、 Dynといったカテゴリーがアサインされ、明快にアクセスが可能。任意のノブを押し込むと奥の階層に入る。さらに選択したチャンネルでInキーを押すことで、プラグインのパラメーターまでアクセス可能となる。横16ch分の操作ノブとOLEDディスプレイにずらりとパラメーター名と値が表示されるのだが、何せ16もあるため、目的のパラメーターを目の前に表示させることが容易だ。横に16ch分のディスプレイが並ぶという本機のスタイルは視認しやすく、非常に便利だと感じた。32基のロータリー・エンコーダーでパラメーターを触ってみても、非常に滑らかな動作で心地よい。ノブのトルク感、レスポンスが良いため、アウトボードを操作しているときの“音の変化を感じながら調整する感覚”に近く、少々使い飽きたプラグインであっても使用感が異なって非常に面白い。また、下段の16基にアサインされたパラメーターはFlipキーを押すとフェーダーと入れ替わる。つまりフェーダーでプラグイン・エフェクトのパラメーターの操作が可能だ。元の階層に戻ったり、別のチャンネルへアクセスするときは右側のBackで戻り、再びInを押すだけ。Pro Tools|S3上で任意のパラメーターをフェーダーに展開するのに必要な操作ステップが少ないのはうれしい。操作手順も違和感が少なく、操作の習得が必要という感じもしなかった。またトランスポートは、標準では右下のタッチ・ストリップにアサインされている。視覚的にはほとんど主張が無いが、トランスポートはコンピューターのキーボードで操作したい人も多いと思うので、合理的だと感じる。 

Pro Tools以外のDAWにも対応
複雑な設定が不要で安定動作


続いて、Pro Tools以外のEUCON対応DAWソフトとしてAPPLE Logic Pro Xでもテストした。ロータリー・エンコーダーはミキサーのインプットやパンといった基本パラメーターに使えるのはもちろん、プラグインのアサインや操作も簡単に行えた。ソフト・シンセをメーカー名/プラグイン名で探し、インサート。Inキーでパラメーターにアクセスする。シンセのハイパス・フィルターのカットオフ周波数でひとしきり遊んだ後に、Backを押して今度はエフェクトをインサート。右手でEQやコンプを操作しながら、そこで変化した音量を左手のフェーダーでコントロールする、といったことができてしまう。ちなみに、先述のEuControlをインストールした以外は特に何の準備もせずLogic Pro Xを起動したのだが、自動でコントロール・サーフェスとして認識された。その後もLogic Pro XがPro Tools|S3を見失うことは無く、終始安定していた。 

モニター・コントローラー機能は
1dBステップでの調製が可能


先述したようにPro Tools|S3はイーサーネット・ケーブルを介したAVBでコンピューターとつながり、オーディオ・インターフェースとして機能する。この機能に関しては筆者の環境では使用できなかったので、AVIDのオフィスを訪問して簡易的なテストをした。オーディオ関係の設定はロータリー・エンコーダーの上段右側に展開できる。ここではマイクプリのゲインやファンタム電源オン/オフ、−20dB PADといったインプット系(写真①)と、
▲写真① インプット・ゲイン増幅量は数値とバー・グラフで表示。48Vファンタム電源や−20dB PADの設定も行える ▲写真① インプット・ゲイン増幅量は数値とバー・グラフで表示。48Vファンタム電源や−20dB PADの設定も行える
モニター・コントローラーでのモニター・アサイン(物理的なインプットまたはDAWソフトからの出力)、レベル、DIM、カットなどが行える(写真②)。
▲写真② モニター・コントローラーでは2つのステレオ・ペア出力の切り替え、モニター・ソースの切り替え、DIM、カットが操作できる。Pro Tools|S3本体の入出力をこのようにエンコーダーへ展開したいときは、右のPageキー2つを同時に押す ▲写真② モニター・コントローラーでは2つのステレオ・ペア出力の切り替え、モニター・ソースの切り替え、DIM、カットが操作できる。Pro Tools|S3本体の入出力をこのようにエンコーダーへ展開したいときは、右のPageキー2つを同時に押す
レベル調整はロータリー・エンコーダーを使って1dBステップで細かく調整可能。タッチセンスなので一気に回せば大きく音量を変更することもできるし、リコール性も備える。限られたスペースでかなり自由度の高いモニター調整が可能だ。ほかのオーディオ・インターフェースがある場合や48kHz以外のサンプル・レートでの作業時には、アナログ入力して使うこともできる。音色は色付けが少なく、近年のAD/DAらしい広範なダイナミック・レンジと優れたSN比が印象的だった。Pro Tools|S3は、縦長のフェーダーに対して、OLEDディスプレイで横につながったようなラインを作り出している。こうしたレイアウトは、プラグイン・パラメーターを表示させたときに視線を誘導する。これが使用するロータリー・エンコーダーの位置を明快にし、操作性を高める効果をもたらしているように感じた。左右に配置されたボタン類と相まって、ほぼ左右対称のレイアウトとなっており、操作方法も合理的に考えられているのが美しい。パネル上の余白の取り方もシャープに感じられた。個人の制作環境においても大型スタジオにおいても、常に視界に入るものは外観の格好良さが非常に大事だ。そして触れてみると、キーボードとマウスのみの作業と比べて、はるかに操作の精密化&高速化が可能だ。この洗練された手触りは、実際に触れて体感していただきたい。 
▲リア・パネル。左からライト用端子(XLR)、電源スイッチと電源入力(12V DC)、ヘッドフォン端子(ステレオ・フォーン)とフット・スイッチ入力(フォーン)、アウトプット3&4(TRSフォーン)、アウトプット1&2(XLR)、USB×2(キーボード&マウス用)、イーサーネット×2、ライト用端子。ライト端子があるのはPAコンソール・システムS3L-Xとサーフェスが共通のため ▲リア・パネル。左からライト用端子(XLR)、電源スイッチと電源入力(12V DC)、ヘッドフォン端子(ステレオ・フォーン)とフット・スイッチ入力(フォーン)、アウトプット3&4(TRSフォーン)、アウトプット1&2(XLR)、USB×2(キーボード&マウス用)、イーサーネット×2、ライト用端子。ライト端子があるのはPAコンソール・システムS3L-Xとサーフェスが共通のため
 (サウンド&レコーディング・マガジン 2015年1月号より)
AVID
Pro Tools| S3
オープン・プライス (市場予想価格:535,000円前後)
【REQUIREMENTS】 ▪Mac:Mac OS X 10.8.5以降、INTEL製プロセッサー、2GB以上のRAM、500MB以上のディスク空き容量、10/100 Base-T以上のイーサーネット。AVB使用時はMac OS X 10.9.3以降、4GB以上のRAM、Thunderbolt搭載のMac ▪Windows:Windows 7または8(Home Premi um、Professional、Ultimate)、1GHz以上のプロセッサー、500MB以上のディスク空き容量、10/ 100 Base-T以上のイーサーネット(AVB非対応) ▪対応アプリケーション:AVID Pro Tools/Pro Tools HD 11.2.1以降、Media Composer 8.1以降、APPLE Logic Pro X、STEINBERG Nuen do 6.5以降、Cubase 7以降、ほか 【SPECIFICATIONS】 ▪規準レベル:+4dBu(ライン入出力) ▪外形寸法:710(W)×72(H)×363(D)mm ▪重量:6.2kg