
出力トランスのON/OFFが可能
アナログ・オプティマイザーとしても使える
まずは、ツマミ類を見ていこう。中央一番上のボタンはバイパス・スイッチで、押すとトゥルー・バイパス状態になる。その下に並ぶツマミ群の中のinputとoutputには、数えてみるとそれぞれ30ステップのクリックが付いており、設定の再現性が非常に高い。また、本機はインプット・スレッショルド・タイプのため、input値が高くなるほどコンプレッション量が大きくなる設計である。mixツマミはドライ音とコンプレッションされたウェット音をミックスするパラレル・コンプレッション用で、左方向に回し切るとドライ100%、右方向に回し切るとウェット100%となる。ドライ100%にセットすると、コンプレッサーの回路を通さず原音にサチュレーションのみを加えられるアナログ・オプティマイザーとしての使用が可能だ。ツマミの両側に並ぶオルタネイト式トグル・スイッチは右側がレシオ調整用で、3:1/6:1/12:1の切り替えが可能。左側はxformerスイッチで、offにすると出力トランスを使用しないアクティブ・バランス回路が有効になる。onにすると出力トランスが有効になり、アナログな質感とサチュレーションが加わる設計。loadedにすると、出力トランスに適度な負荷がプラスされて、より大きなサチュレーションが得られる仕様だ。その下は2台のECM-519をリンクさせる際に使うlinkスイッチ。そして、内蔵のサイド・チェイン機能のハイパス・フィルターを120Hz/220Hzで設定できるスイッチへと続く。最下部のスイッチでは、コンプレッサーの動作をマニュアル(man)からオート・モード(auto1/2)に切り替え可能だ。その下には、10分割された赤色のLEDリダクション・メーターを備える。
音質の乱れ無しに熱量を上げる
ナチュラルなサウンド・キャラクター
実際のセッション現場にて、まずはドラムから3mほどの距離に立てたオフマイクに使用してみた。レシオをざっと3:1に、アタックとリリースを12時の位置に、mixツマミはウェット100%に設定してinputを上げていく。さらにアタックやリリースを調整し、mixツマミでドライ音とウエット音のバランスを取っていくと、とてもハイファイなサウンドが得られた。リダクションされた音に起こりがちな詰まり感や、混濁したような印象は全く無い。レシオの設定を変えてハードにリダクションしていくと、音調に熱い変化は現れたが、音質の乱れは無かった。続いてxformerをonにすると、適度に倍音が付加され、シンバルの余韻がスタジオに拡散していく様子がとても伸びやかに、かつ厚い音で得られた。loadedに設定すると、ゲインが若干落ちるもののキックが見事にサチュレートして、とても迫力のある音に変化した。ボーカルにおいてはECM-519が本領を発揮したように思う。本機のナチュラルな音色が、ボーカルの声色やニュアンスをそのまま表現するからだ。今回は、低域が魅力的なボーカリストでテスト。低音と近接効果による低域の増幅は、サイド・チェインのハイパス・フィルターを120Hzに設定することで解消できた。フェイク的な部分は、xformerをonにして耳当たりの良い倍音を付加することで、オケになじむ迫力あるボーカルになった。 ECM-519は極めてハイファイなコンプレッサーである。雑味が無くS/Nに優れた正確な音は、原音に忠実かつ大胆な音作りを可能にし、xformer機能によって個性に満ちた音作りもかなう。小さな筐体に大きな可能性を秘めているように感じられるコンプレッサーである。
