
フローティング機構を採用したことで
振動による悪影響を回避
まず初めに、資料にあった“大型ダイアフラム”という記載や写真から、XY方式のステレオ型で大きめのマイクを想像していたので、実機を手にしてみると“予想よりも随分小さいな”という印象でした。そんなAT5045の外観から見ていきましょう。ボディは同じペンシル型のコンデンサー・マイクAKG C451と比較すると、AT5045の方が長さ/太さ共に一回りほど大きくしたようなイメージです。ダイアフラムを覆うカプセル部分にはきめ細かなメッシュ加工が施されており、ボディ部分はつや消しの黒で落ち着いたデザイン。同社AT5040の流れをくむ独自新規格の長方形大型ダイアフラムには2ミクロンの金蒸着が施されており、堅固なアルミ+真ちゅうハウジング内に収められています。これだけ小さい筐体でありながらも長方形のダイアフラムを採用したことで、広い振動板面積の確保に成功。そのため、ラージ・ダイアフラムのように豊かな低域をとらえる特性を持っています。また、マイク本体からダイアフラムをフローティングさせる高度な内部ショック・マウント構造により、振動の悪影響を回避することが可能です。
上位モデルから継承しているディスクリート設計で、単一指向性を採用し、PADやフィルターなどは付いていないシンプルな構造になっています。サイド・アドレス型なので、ボディの先端ではなく、側面にダイアフラムが向いています。マイク本体以外に、マイク・クランパー(AT8481)、ウィンド・スクリーン(AT8165)やキャリング・ケースなどが付属しています。
高域はナチュラルに伸びる
低域は非常に存在感があって太い
では、実際に音を聴いてみましょう。NEUMANN U87AIと比較しました。まずはピアノに対してオンマイクでセッティング。高域には実にナチュラルな伸びを感じました。そして驚きは低域の太さ。ピアノのフレームや響板の鳴りまでをとらえているイメージです。通常のオンマイク・セッティングでは、十分な低域の存在感でしょう。
次に、ストリングス・カルテットを録ってみました。借りられたAT5045は1本だけだったので、オフ気味にセッティング。レンジの広さはピアノと同様で良い印象でした。ニュアンスとしては、オフセッティングにしたことで音像の輪郭がくっきりと感じられ、まさに解像度が上がった感じです。さらには、床や壁の存在やその場の空気が伝わってくるようでした。U87AIと比較してみると、AT5045の方が指向性が若干強いという印象で、位相をよりはっきりと感じられた気がします。ピアノ、ストリングス・カルテット共にステレオ・ペアでセッティングができたら、定位感や位相感をもう少し詳しく探れたかもしれませんね。
さらに、アコースティック・ギターでチェック。オン/オフセッティングで聴き比べましたが、サウンド・イメージは同じく良好。初めは床に対してマイクを垂直にセッティングしていましたが、長方形のダイアフラムの特性を生かす使い方をしてみようと思い、マイクを少しずつ床に対して平行に近付くように動かしていきました。すると音のニュアンスに少しずつ変化が……。最終的に、床に対して平行なセッティングになると、部屋の響きや音との距離感が増して、野太い印象だった低域は少し緩和され、中域の量感が増えたように感じられました。
ちまたに存在しているほとんどのマイクには、円形のダイアフラムが当たり前のように採用されています。ですから、本機のような長方形のダイアフラムを持つマイクの使い方を工夫すれば、空間に広がる音像やサウンドのニュアンスなどが、新しい形で得られることが分かりました。それがこのマイクを使う面白さにもつながっていくのでしょう。つまり本機は、床に対して垂直になるようにセッティングすれば、スモール・ダイアフラムのように音源をピンポイントで狙えます。また、床に対して平行になるようにセッティングすれば、ラージ・ダイアフラムのようにワイドに空間をとらえることもできるのです。非常に多様なマイクであると言えますね。
AT5045は、管/弦楽器やパーカッションをはじめ、ボーカル録音時でもレンジの広さや存在感、音の深みや解像度共に好印象でした。使い方や発見は未知数の予感……楽しませてくれそうなマイクです!

(サウンド&レコーディング・マガジン 2014年12月号より)