「WAVEDNA Liquid Rhythm」製品レビュー:ユニークなインターフェースが特徴のビート・メイク用ソフトウェア

WAVEDNALiquid Rhythm
カナダのソフトウェア・メーカーWAVEDNAからリリースされたMIDIベースのビート・メイク専用ソフトウェア=Liquid Rhythm。ビート・メイキングには縁遠いようなカラフルでポップなインターフェースが特徴です。それでは早速、その実力をチェックしてみましょう。

1小節パターンのシーケンスを組み合わせ ビートを生成していく


Liquid RhythmはMac/Windowsに対応し、スタンドアローンで起動するほか、VST/Audio Units/RTASの各プラグイン・フォーマットで使えます。ユニークなのはABLETON Live向けにMax for Liveデバイスが付属している点で、Liveとの連携にも強そうです。 Liquid Rhythmを起動すると、いかにもシーケンサーらしいインターフェースが現れますが、符割やピアノロールといった数字的な要素が少ないので、すぐ操作に慣れるでしょう。画面は幾つかのブロックに分かれていて、一番左側にはLibraryが配置されています。ここからLiquid Rhythmに内蔵されているドラム・キットやループ/単音サンプルなどを選びます。“Kick”や“Ethno”などタグでブラウズすることもでき、自前のサンプルもロード可能です(画面①)。

▲画面① 内蔵音源やサンプルなどをブラウズするLibrary。キットやループにカテゴリー分けされ、それぞれ楽器ごとにもフィルタリングできる ▲画面① 内蔵音源やサンプルなどをブラウズするLibrary。キットやループにカテゴリー分けされ、それぞれ楽器ごとにもフィルタリングできる
音源は、ダブステップやテクノなどジャンルごとに分かれたドラム・キットが収録されています。ただ、Liquid Rhythmはビート用シーケンサーとしてのキャラクターが強いので、音源を目当てにすると物足りないかもしれません。この辺りは追加ライブラリーがリリースされると面白そう。 このLibraryからキットを画面中央のArrangerのブロックにドラッグ&ドロップ(ダブル・クリック)すると、キットごとのトラックが自動的に作成され、音源がロードされます。そして、キットごとに分かれたトラックに対して、画面右側のリズム・パターンのブラウザーであるBeat Builder の中のBarForm Listからパターンを選びます。パターンは1小節のシーケンスとなっており、それを読み込むことで、ビートを鳴らすことができます。このBarFormは特徴的なインターフェースで、カラー・パターンにより直感的でユニークなビート・メイキングを可能にしています。 このBarFormの構造は、一番上に縦棒のベロシティとノートが表示され、中央に並ぶのはグリッドの符割で色分けされた8分音符単位のノート=BeatForm。BarFormの一番下は、アクセントの強/中/弱がカラー・パターンでグループ分けされており、後述するAccent Modifiersにより色ごとに一括してベロシティやスウィングを変更することができます(画面②)。
▲画面② ArrangerにロードされたBar Form。縦棒がベロシティで、紫が8分音符単位で並んだノート。一番下は強弱によって色分けされたアクセントとなっている ▲画面② ArrangerにロードされたBarForm。縦棒がベロシティで、紫が8分音符単位で並んだノート。一番下は強弱によって色分けされたアクセントとなっている
Liquid Rhythmではこの色分けによって、アクセントの位置や符割などビートのノリを視覚的に把握することができます。操作もドラッグ&ドロップが中心で、マウスだけでもビート作成が可能。もちろん、MIDIパッドやキーボードからノートを記録したり、ペン・ツールなどでノートを書き込んでいくこともできます。

円形のインターフェースMapsで スムーズにビートのブラウジングが可能


BarForm Listは全部で256個のパターンが用意されていますが、Liquid Rhythmの面白いところはこれらのパターンの中から、オススメのBarFormを提案する“Suggested”、同じようなノリの“Similar”といった具合に、フィルタリング機能によってパターンを絞り込むことができる点。Arranger上のBarFormの色分けを判別してパターンを絞り込んでくれる斬新な機能です。 BarForm Listの下には、1ステップ=8分音符で8ステップ(1小節分)の打ち込みが可能なステップ・シーケンサー=BeatForm Sequencerを配置(画面③)。
▲画面③ 1ステップ=8分音符で8ステップ(1小節分)の打ち込みが可能なステップ・シーケンサーのBeatForm Sequencer。クリックするだけで簡単に打ち込みできる。下には、ランダマイズしてくれる“Surprise Me!”やフィルを自動生成する“Remixer”といった機能もある ▲画面③ 1ステップ=8分音符で8ステップ(1小節分)の打ち込みが可能なステップ・シーケンサーのBeatForm Sequencer。クリックするだけで簡単に打ち込みできる。下には、ランダマイズしてくれる“Surprise Me!”やフィルを自動生成する“Remixer”といった機能もある
8分音符ワンショットの紫/16ビートの青/3連符の赤といった具合に色ごとに符割が変わり、クリックするだけで1ステップを3分割したり、2分割して裏の拍だけ鳴らしたりと、簡単に打ち込みできます。 このBeatForm Sequencerには、ランダマイズしてくれる“Surprise Me!”やフィルを自動生成する“Remixer”といった機能もあります。さらにバリエーションを加えたい場合は、Beat Builderの上部にあるBWボタンを押してBeatFormを細かくエディットすることもできます。 また、同じく上部にあるMapボタンを押すと円形のインターフェースが特徴的な、2つのMaps画面が現れます。BeatFormとBarFormに分けられた2つの円の中には、ノリによってカテゴリー分けされたデータが配置されており、同じようにArrangerにドラッグ&ドロップしてパターンを作ります。右側のBarForm ListとBarForm Mapは連携していて、BarForm Listでパターンを選択すると、BarForm Mapの同じパターンが選択されるので、リスト形式に比べ、ブラウズにかける時間を減らすことができます。Liquid Rhythmの内部ミキサーも、上部Mixボタンからアクセス。現バージョン(1.4.2)ではPanとVolumeのみコントロール可能となっています。 画面下部には、分子という意味のMolecure Toolsのブロックがあり、その名の通りビートの細かいパラメーターを制御できるセクションです。そこには、BarForm内部のシーケンスを丸ごとずらすGrooveMoverや、カラー・パターンごとのベロシティや跳ね具合を調節するAccent Modifiers、BeatFormのノリを変化させるBeat Form Paletteなどがあり、リズム・パターンをエフェクティブに変更可能。また、リアルタイムにBeatForm Sequencerの特定のステップだけを変更できるBeatForm Tumblerは、ライブでも役に立ちそうな機能です。 こうしてビートを組んだら、ABLETON Live 9を起動してLiquid Rhythmをプラグイン・モードで使用してみましょう。Liquid Rhythmプラグインをインサートすると、別ウィンドウでLiquid Rhythmのインターフェースが表示され、Liquid Rhythmのオーディオ・アウトがそのままLiveのミキサーに立ち上がり、同期して動きます(画面④)。
▲画面④ ABLETON Liveとシームレスな連携が取れるLiquid Rhythm。Live専用のMax for Liveデバイスを付属し、Liquid Rhythmをシーケンサーとして、Drum Rackを音源として使用することが可能。またABLETON PushやNOVATION LaunchPa dをLiquid Rhythmのコントローラーとしても使える ▲画面④ ABLETON Liveとシームレスな連携が取れるLiquid Rhythm。Live専用のMax for Liveデバイスを付属し、Liquid Rhythmをシーケンサーとして、Drum Rackを音源として使用することが可能。またABLETON PushやNOVATION LaunchPadをLiquid Rhythmのコントローラーとしても使える
LiveからLiquid Rhythmに対してパターンをトリガーする必要は無いので、余計な一手間がかかるということもありません。実際の制作ではこの状態で使用することが多いでしょう。またMIDIベースなのでスタンダードMIDIファイルとして書き出せるのも特徴です。

Max for Liveデバイスが付属 Pushによる演奏も可能


Liquid Rhythmのユニークな点はLive専用のMax for Liveデバイス“Liquid Rhythm.amxd”が付属していること。このデバイスはインサートするだけでいいのでMaxに関する知識は不要です。Liquid Rhythm.amxdはLive上ではMIDI Effectとして使用し、後段にDrum Rackをインサートすれば、Liquid Rhythmをシーケンサー、Drum Rackを音源として使用可能。また、Drum Rackのセルに柔軟なルーティングができるExternal Instrumentをインサートすれば、Liquid Rhythmから、ソフト/ハード問わず外部ドラム音源を鳴らすことが可能です。 さらにこのデバイスを経由することで、ABLETON PushやNOVATION LaunchPadをLiquid Rhythmのコントローラーとして使えるのもポイント。今回はPushを使用しましたが、パソコンに触らなくても、PushのボタンでBeatForm Sequencer、ノブでMolecure Toolsの各機能をコントロールでき、Live上でPushを使用するのと同じノリで操作可能です。Liquid Rhythmの特徴であるカラー・パターンも、Pushのボタンが同じ色に光って視認性が高いのもポイント。リアルタイムにビートを打ち込み、変化させることができるので、ライブにも制作にも使えそうです。ここがLiquid Rhythmの本領発揮といったところで、思わず何時間も遊んでしまいました。   一通りテストしてみると、Liquid Rhythmはポップなインターフェースでドラッグ&ドロップを主体とした簡単な操作の割には、Beat WeaverやMolecure Toolsで複雑なビートも作れたり、LiveやPushとの連携など奥深さを感じさせる、面白いビート用シーケンサーだと思いました。ビート・メイク初心者の方にもオススメですが、LiveユーザーでMax for LiveとPushをお持ちの方も導入して損は無いでしょう。     (サウンド&レコーディング・マガジン 2014年11月号より)
WAVEDNA
Liquid Rhythm
オープン・プライス (市場予想価格:14,800円前後)
▪Mac:Mac OS X 10.6以上 ▪Windows:Windows Vista/7/8 ▪共通項目:2GB以上のRAM(4GB以上を推奨)、1GB以上のハード・ディスク空き容量