「ROGER MAYER 456 Stereo」製品レビュー:STUDER A80/AMPEX 456を参考にしたテープ・シミュレーター

ROGER MAYER456 Stereo
ROGER MAYERの創設者であるロジャー・メイヤー氏は、ジミ・ヘンドリックスのエフェクターを製作した人物としてあまりにも有名で、その製品はジミだけでなく数多くのアーティストに愛用されてきた。同社はかねてからスタジオ用の音響機器も開発しており、ここでレビューするハードウェアのステレオ・テープ・シミュレーター456 Stereoもその一つとなっている。

XLRの入出力を備えたステレオ仕様
3種類のトーン・コントロールを装備


スペック面を見ると、外形寸法は220(W)×44(H)×185(D)mmのハーフ・ラック・サイズで、重量は11.62kg。背面にはXLRのライン・インL/Rとライン・アウトL/Rが備えられており、前面にはL/Rのそれぞれの信号を回路へ通さないようにするためのバイパス・スイッチ、インプット・ゲイン、アウトプット・ゲイン、プレゼンス/ベース/トレブルの3つのトーン・コントロールを配置している。ベースとトレブルは12時の位置、プレゼンスは絞り切った位置がフラットな設定だ。この通り、ハードウェア的には至ってシンプル。サウンドの特性に関しては、STUDERのアナログ・テープ・レコーダーA80とAMPEXのオープン・リール・テープ456がモデルとなっている。いずれも1970年代の業務用アナログ・テープ・システムの代表的な製品で、テープが生み出す2次/3次倍音やサチュレーションを忠実に再現しているという。余談だが、製品の箱もアナログ・テープの箱をイメージしたような雰囲気で、ちょっとニヤっとしてしまう。テープ・シミュレーターと言えばSTEINBERG Magnetoなどに始まり、最近では各社からさまざまなプラグインがリリースされているので、そういったものとの音質の違いも気になるところだ。 

角の取れた丸みのあるサウンド
スムーズなかかり具合のプレゼンス


それでは使用のインプレッションをお届けする。今回はAVID 192 I/Oに本機をインサートし、幾つかのソースでチェックした。本機には、多くのプラグイン・テープ・シミュレーターにあるサチュレーションのパラメーターが無いため、ひずみはインプット/アウトプット・ゲインのバランスで作り出す形。手順としては、まずアウトプット・ゲインを最大値にセットし、インプット・ゲインを使ってバイパス時との音質差が無いセッティングにする。そこからインプット・ゲインを上げていくとサチュレーションがかかり始めるわけだ。サウンドのキャラクターに関しては、どのようなセッティングにしても角が取れる印象。こもるわけではないのに、音が丸くなるのだ。トーン・コントロールはプレゼンスが印象的。上げていくと超高域が目立ってくるのだが、ギラついた音にならず非常にスムーズ。耳に痛くなく、非常に気持ち良いサウンドだ。ベースとトレブルについては、自然な音色変化が特徴。EQカーブがなだらかに設定されているのか、上げていってもあまりわざとらしい感じにならなかった。今回試したソースの中では、生ドラムとの相性が抜群。各打楽器がはっきりと分離しているドラム・ミックスに使用したところ、良い感じにまとまってくれた。程良くサチュレーションがかかり、サウンドの一体感が高まる印象だ。プラグインのテープ・シミュレーターに比べて各打楽器の定位が多少見えづらくなるような気はしたが、この一体感はコンプやEQだけではなかなか生み出せないだろう。また本機を使用するソースとしては、ドラムやピック弾きのベースなどアタックの効いたサウンドがマッチする。もちろん楽器だけでなく、2ミックスにかけてトータルでテープライクな質感を狙うのもアリだ。本機はアナログ機器なのでレイテンシーに悩まされることがなく、テープ・シミュレーターであるもののヒス・ノイズも無いので、さまざまな場面で使いやすいだろう。プラグイン・テープ・シミュレーターの音質に満足できなかったという人はチェックしてみると良いのではないだろうか。ちなみに、本機のモノラル版である456 Single(オープン・プライス:市場予想価格45,000円前後)も発売されているので、用途に応じて選ぼう。  (サウンド&レコーディング・マガジン 2014年10月号より)
ROGER MAYER
456 Stereo
オープン・プライス (市場予想価格:238,400円前後)
▪入力レベル:−20〜+4dB ▪出力レベル:+4dBu(ピーク) ▪出力インピーダンス:50Ω ▪ダイナミック・レンジ:96dB ▪ヘッドルーム:20dB ▪外形寸法:220(W)×44(H)×185(D)mm ▪重量:11.62kg