各パーツに最適なマイクを用意
特性クランプ・ホルダーも付属
専用ケースに収められているのは、すべて単一指向性のダイナミック・マイクで、スネアの上下に最適なPR 22×2本、オーバーヘッドやシンバル向きのPR 30B×2本、キック専用のPR 48、タム用のPR 28×3本の計8本です。
そして特筆すべきは特許出願中(2014年8月28日現在)という付属のクランプ・ホルダーHH-1です。従来のものは小さめのマイクにしか対応していなかったり、設置角度に制限があったりして、全長200mm超えの定番マイクには使いづらい印象でした。しかし本製品は大きいマイクにも安定して取り付けが可能です。リムに付けてからの角度変更も容易に行えます。それだけでも買う価値はあるでしょう!
セッティングはオーソドックスな方法で、PR 22をスネアの上下に立て、PR 48をキックのホールに半分突っ込む形にしました。PR28はタムやフロア・タムのリムに取り付けられる付属のクランプ・ホルダーHH-1を使い、打面に対してオン気味に設置。PR 30Bはオーバーヘッドとしてシンバルの上部40cmくらいのところにセットしました。PR 30Bは赤いグリルの付いたてっぺんの広い面が集音方向になるので要注意。
PR 22は10kHz辺りがリアルに録れる
PR 48はアタック感がナチュラル
音を聴いた第一印象は、全体的にまとまっていてヌケが良い感じでした。特にスネア用のPR 22のヌケの良さは定評通り。コンデンサー・マイクのようにサラサラとした繊細なトップエンドと大音量に耐えるパンチの効いたサウンドが共存して、スネアの胴鳴りもスナッピーの細かい振動もうまく表現されています。10kHz辺りのチリチリした成分がリアルに聴こえる割には硬さがなく、別途試したボーカルやアコギの集音にも良い結果が得られました。指向性はやや狭めで、カブリにも強そうです。S/Nも問題なし。
キック用のPR 48は初めて出会うキャラクターでした。最初から適切なEQが施されたような音なので、加工があまり必要ないかもしれません。30Hz辺りのローを良い感じに拾ってくれて、逆にあまり必要無さそうな300Hz辺りの帯域は強調しない印象。アタック感もナチュラルで、ビーターのバチバチとした感じは誇張しませんがキックらしい音が録れました。これ一本でも良さそうでしたが、他社のコンデンサー型バウンダリー・マイクと併用してみると、さらにパンチのあるキック音になりました。定番になり得るマイクですね。
タムにセットしたPR 28はマイキング時に扱いやすい小さなボディが良かったです。音の印象は、タムの生音に近いニュアンスを残しつつ、奇麗なまとまりが感じられました。オンで立ててもブーミーになり過ぎず、フロア・タムもおいしい部分の鳴りをうまく表現できていて、誇張も無くオール・ジャンルに使えそうです。指向性は広めな印象がでしたが、カブりはマイキングで十分カバーできる範囲でしょう。
オーバーヘッドに使ったPR 30Bは、ラージ・ダイアフラムを搭載。中高域のレスポンスが良く、ローの効いたキックの質感も好印象でした。S/Nも良いと思います。筆者はオーバーヘッドにあまりダイナミック・マイクを使わない主義でしたが、本機はシンバルを多用するラウドな演奏でもまとまりのある安定した音で録れました。耳が痛くなるようなアタッキーなシンバルの質感もうまく表現してくれる、納得の録り音です。コンデンサー・マイクを使ったときのような高域の立ち上がりはむしろ抑え気味。そのためトランジェントを出しながらも下品にならない、オーセンティックな音作りに向いていると思います。今回は試しませんでしたが、本国アメリカではギター・アンプに立てているエンジニアが多いようです。
ハイハット用のマイクが無かったのは残念でしたが、シーンによってルーム・マイクなどを別途用意すれば良いでしょう。とはいえマイク・セット内容のバランスが良く価格も手ごろなので、初めてのドラム・マイクとしてもお薦め。個人的には他社マイクとの組合わせ方をもっと模索したいと感じる、遊び心いっぱいの製品でした。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2014年10月号より)