「NUGEN AUDIO SEQ-S」製品レビュー:マルチチャンネルにも対応の多機能なリニア・フェイズEQプラグイン

NUGEN AUDIOSEQ-S
近年のプラグインEQの進化には目を見張るものがありますが、またもや斬新かつ高機能な製品が登場しました。Mac/Windowsに対応し、VST/Audio Units/RTAS/AAX Native/Audio Suiteをサポートするリニア・フェイズEQ、NUGEN AUDIO SEQ-Sです。モノラル/ステレオはもちろん、5.1chや7.1chといったマルチチャンネルにも対応しており、既存のEQには無い機能が満載なので慣れるのに時間がかかりましたが、素晴らしい製品であることは間違いありません。それでは、インプレッションをお届けします。

自由自在にEQカーブを描ける
斬新なユーザー・インターフェース


NUGEN AUDIOは、マスタリング・エンジニアのジョン・スコラ氏と音楽理論に精通したプログラマーのポール・タッパー氏が2004年に設立したイギリスのメーカーで、VisLM Loudness Meterなどの高精度なメータリング・プラグインをはじめ、マスタリング/ポストプロダクション寄りの製品をリリースしています。今回のSEQ-Sに関しては、INTEL Xeon(6コア、2.4GHz)を2基と12GBのメモリーを搭載したAPPLE Mac Proを使用し、AVID Pro Tools|HD 10システムの24ビット/96kHzセッションでテストしました。リニア・フェイズEQにはレイテンシーの気になる製品が多い印象ですが、SEQ-Sでは音質調整のレゾリューションを5段階から選択でき、最大で12,288サンプル、最小で768サンプルの遅れとなりました。なお、レゾリューションを上げると画面のサイズが大きくなり、分解能の高い調整が行えるようになります。モノラル換算で30trほどにインサートしたときのCPU占有率は15%ほど。リニア・フェイズEQとしては優秀で実用的と言えます。周波数ポイントは自由に設定することができず、固定されたポイントを調整する仕様。AdvancedボタンをONにすると音作りに関する各種メニューが表示されるので、その中からBandingという項目を選択すると、周波数ポイントとバンド数の組み合わせが6パターンの中から選べるようになります。グラフィックEQのような仕様ですが、各ポイントのQ幅を変更することはできますしバンド数もかなり多いので、やはり新たなタイプのEQと考えて使った方が良さそうです。さてここからが少々複雑なのですが、SEQ-Sには3系統のEQが搭載されていて、それぞれを入力ソースの個別のチャンネルに割り当てることができます。3系統のうちどれを調整(もしくはON/OFF)するかは画面下部の1〜3ボタンで選択でき、その右にあるAssignボタンでアサインするチャンネルを決める形です。ステレオのソースを入力した場合は、1〜3のそれぞれでL/R/Mid/Sideのいずれかを選ぶことができます。1〜3の左にあるD(Depth)ボタンでは選択したポイントのゲインの調整、S(Sharpness)ボタンではQ幅の変更が可能です。EQカーブは非常に設定しやすく、DボタンやSボタンのほか、ペンシル・ツールを使って画面中央のグラフィックに自由なカーブを描くこともできます。これは慣れると非常に快適で、グラフィック内のスペクトラム・アナライザーと合わせて視覚的な処理が行えますし、細かく詰めていくこともできる、なかなか斬新な操作性だと思います。またZone機能で特定の帯域を選択し、その範囲のみ調整することもできます。この機能も有効で、選択範囲のみQ幅を調整したりゲインを増減するなどあらゆるコントロールが可能。目的の帯域をピンポイントに調整したいけれど、それによってほかの帯域に影響を与えたくない、といった場合に便利です。さらにExcludeボタンを押すと、Zoneで設定した以外の範囲を調整できるようになります。これも便利ですね。 

キャプチャーした周波数特性を
別のトラックに適用することが可能


機能はまだまだ満載です。Invert機能では、設定したEQカーブと真逆のカーブを作成することが可能。例えば、同じような帯域がメインで鳴っていてカブりが気になるという2つのトラックに使うと、両者のすみ分けを図ることができます。また先述のZone機能で範囲選択すると、その部分のEQカーブのみを逆転させることが可能。その状態からゲイン値などを微調整すれば、よりち密な音作りが行えるでしょう。そのほかAdvancedボタンをONにし、リファレンスにしたいオーディオを取り込むと、その周波数特性をキャプチャーし、ほかのトラックに適用することができます。ボーカル録りが別日にまたがったセッションがあったので、各日のテイクに試してみたところ、別の日に録音したことが判別できないところまでキャラクターを近づけることができました。あまりに多機能なので最後になってしまいましたが、肝心の音質は特筆すべきもので、かなりブーストした設定でもひずみ感や位相の乱れがほぼ感じられません。トータル・ミックスやマスタリングで使用する際には、レゾリューションを最高にしての使用をお勧めします。総合的に見て、十分にマスタリング・クオリティと言える高精度なリニア・フェイズEQという印象でした。  (サウンド&レコーディング・マガジン 2014年10月号より)
NUGEN AUDIO
SEQ-S
27,400円
▪Mac:Mac OS X10.6以降、INTEL Core Duo 1.66GHz以上のプロセッサー(PowerPC非対応)、VST/Audio Units/RTAS/AAX ▪Windows:Windows Vista/7/8、INTEL Pentiumプロセッサー、VST/RTAS/AAX ▪共通項目:512MB以上のRAM