待望の64ビット対応化
操作インターフェースが大幅に改善
SampleTank 3の最大のポイントは、64ビットへの対応です。この数年でOSやアプリケーションの64ビットへの移行は着実に進んでおり、処理スピードの向上やライブラリーの大容量化に対応するためにも、64ビット化は必然と言えます。Mac/Windowsのハイブリッドですが、64ビットの恩恵を受けるにはOS/DAW共に64ビットで動作していなければなりません。プラグインとしてはVST2、VST3、Audio Units、AAX Nativeに対応するほか、スタンドアローンのアプリケーションとしても動作します。SampleTank 3はインターフェースも大きく改良されました。インストゥルメントのロードを行う“PLAY”(メイン画面)、各パートの音量やエフェクトを調整する“MIX”、細かなパラメーターの調整を行う“EDIT”の3ページが用意され、左上部にあるボタンで切り替えます。またすべてのページから素早くサウンドを調節するために、複数のパラメーターを一つのノブでコントロールできるマクロ機能と、SampleTank 3の強力な武器であるエフェクトにアクセスできるよう、“クイック・アクセス”と呼ばれるパネルが用意されており、ストレスなく作業が行えるよう工夫されています。またカーソルを置いてホイールを回すだけでパラメーターが変更できる仕様も、慣れるとかなり使いやすく気に入りました。あまりメニューを持たず操作性がシンプルにまとめられているのはこれまでと同様ですが、主要ページを効率よく3つに分けたことでレイアウト全体に余裕ができ、従来より一回り大きなフォント/ノブが採用されるなどユーザー・インターフェースは格段に向上しています。デザインが分かりやすく合理的にまとめられているので、ほとんどの操作はマニュアルを見ることなく行えるでしょう。
アンサンブルに埋もれない
明るいサウンドは健在
続いてサウンド・ライブラリーを見ていきます。33GB以上のライブラリーには21のカテゴリーに分類された4,000以上ものインストゥルメントが用意されおり、アコースティックからエレクトロニックまで必要とされるサウンドはすべて網羅されています。またSampleTank 2 XLのサウンドもすべてコンバート済みで収録されているので、従来のユーザーも安心して使用できるでしょう。ほかにDAWのテンポに同期する、ロック、ファンクからEDMまでさまざまなジャンルに対応した2,500ものリズム・ループも用意されています。データのロードも快適で、今回はAPPLE MacBook Pro(Late 2013)でチェックしたのですが、内蔵SSDで約1.2GBのピアノの音色を3秒ほどでロードできました。ステージなどで使用することを前提とした、曲ごとに組まれたマルチをプログラム・チェンジで呼び出せる“Liveモード”では、あらかじめロードしたサンプルをメモリーに保存しておくことで、4GBを超える大容量のセットアップでも瞬く間に切り替えられます。なお同社のオーケストラ音源=Miroslav PhilharmonikやMellotron専用ライブラリー=SampleTronなどは本体のインポート機能によりコンバート可能なので、ライブラリーの拡張に困ることはないでしょう。このようにライブラリーが豊富なこともSampleTank 3のウリですが、それ以上に魅力があるのが、ユニークなサウンド・キャラクターです。あくまで個人的な感想ですが、精緻に作り込まれたというよりも、ザックリした思い切りの良さに魅力を感じるサウンド。アメリカのものとは違うポップな明るさを持ち、アンサンブルの中でも埋もれない不思議な力強さがあります。特にピアノや生ドラムなどにその傾向を強く感じます。単なる写実的なリアリティを追求するのなら、その楽器に特化された専用ライブラリーなどの方が、いわゆる“生っぽさ”はあるのですが、SampleTank 3は、ソロで聴くよりもオケの中で映える音、楽器として説得力のある音がします。とても不思議な個性で、人好きのする“モテるサウンド”とでも言うのか、イタリア生まれということに妙に納得してしまいました。また心臓部とも言えるサウンド・エンジンも大きくリニューアルされました。通常のリサンプリング以外にもリズム・ループ用にチューニングされたピッチ・シフト/タイム・ストレッチ、そしてボーカルや木管/金管などアコースティック楽器のフォルマントを保持したまま自然な音程変化を行うために開発されたSTRETCH(SampleTank REsynthesis TeCHnology)など3種類のサンプリング・エンジンや14種類のフィルターが搭載され、中低域の量感が豊かになりました。その分高域が少しまろやかになったようにも感じますが、過去のバージョンと聴き比べてみると高域も伸びており、よりワイド・レンジでボトムのしっかりした現代的なサウンドになっていると思います。また最近のサンプラーの定番機能ですが、使用していない音域の鍵盤で音色を切り替える“キー・スイッチ”や、連打の際に楽器として自然に鳴るようにサンプルを切り替える“ラウンド・ロビン”などの機能も新しく装備されています。続いて、IK MULTIMEDIAが得意とするエフェクトを見ていきましょう。今回SampleTank 3専用に22種類のエフェクトが開発されましたが、それ以外にもアンプ・シミュレーターのAmplitubeやマスタリング・プロセッサーのT-Racksで培われたアナログ・モデリング技術を応用したよりすぐりのエフェクトが33種類も用意され、それらを16パートと4つのAUXセンド、マスター・アウトに5つずつ用意されたスロットにインサートすることで、1パートに対して最大で30ものエフェクトを使用できます。EQ/コンプはもちろん、ギターのオーバードライブやトレモロなどのストンプ・ボックス系、アンプ/キャビネットのシミュレーター、コンボリューション・リバーブなど最近の定番以外にも、ピアノやギターのボディの共鳴具合をシミュレートする“Acoustic Resonance”などユニークなエフェクトも用意されています。感心したのが、各エフェクトはインサート用に設計されているせいかレイテンシーが気にならない点と、良い意味で原音のイメージを大きく変える“効きの良さ”を備えていることです。特に過激にブーストしても嫌みがないVintage EQ-1Aや、ディレイのにじみ方が心地良いTapeDelay、シンセ・ベースにも効果的なベース・アンプ・シミュレーター=SVT Classicなどが気に入りました。楽器としてのキャラクターを手早く際立たせてくれるエフェクターが多数装備されているのは大きなアドバンテージで、先述したサウンド・ライブラリーの魅力も、これらのエフェクトによるところが大きいと思います。またマクロ機能とともにクイック・アクセス・パネルにエディット画面が置かれているところからも、音作りの一部として重要な部分を担っていることがうかがえます。インストゥルメントにビルトインされているエフェクトとしては、現時点で最高峰といっても過言ではないでしょう。
作編曲を強力にアシストする
MIDIパターン・プレーヤーを新搭載
最後に、新たに内蔵された“MIDIパターン・プレーヤー”を紹介しましょう。PLAYページからはインストゥルメント以外にも“パターン”と呼ばれる2,000以上ものMIDIファイルにアクセス可能です(画面①)。