モバイル・ボディに38系統の入力端子
12基のマイクプリが圧巻
左サイドにボディと同色の赤いキャリング・ハンドルがあることからも分かるように、モバイル録音を意識したデザインだ。高さが1U、奥行きは 145mmと短く、バックパックに入れて持ち運ぶことが可能。ラック・マウント仕様ではないが、横幅/高さともラックに入るサイズなので、うまく固定できれば組み込むこともできるだろう。驚くのはこのコンパクトなボディに38chもの入力を装備している点。特に12基用意されたマイクプリが圧巻で、バンドが集まったリズム録音でもドラムはもちろんベース、ギター、キーボードまでを本機一台で同時に録ることができる。このマイク入力となっているXLR/フォーン・コンボ端子のうち前面の4つは、Hi-Z切り替えでギターやベースを直接接続可能。さらにはD-Sub 25ピンでのアナログ8ch入出力、S/P DIFコアキシャル入出力、右サイドには2系統のADAT端子(最大16ch入出力として使用可)も装備し、合わせると38イン/32アウトの同時入出力が可能となっている(チャンネル数について詳しくは後述)。豊富な入出力の割にフロント・パネルは大変シンプルな構造で、3つのボタンと1つのロータリー・コントロールで操作する。小型ながら高精度のマルチファンクション・ディスプレイは32ch分のピーク・メーターとして機能するほか、マイクプリのゲインなどの状況を数値で表示させることが可能。左のボタンは電源、右の2つのボタンはディスプレイの表示切り替えなどに用いる。通常ロータリー・コントロールはモニター・アウトか2系統のヘッドフォン出力、いずれかのボリュームになっていて、最初にこれを触るだけで現在の音量値を確認することができる。また押し込むことでスイッチとしても動作し、どのボリュームを増減するかを選択する。なお筆者の手元に届いた状態では、モニター・アウトもヘッドフォンもミュート状態になっていた。ダイアルを少し押したままにするとミュートが解除され、音が聴けるようになる。そのほかインプット1&2にはアナログでのインサート用にそれぞれTRSフォーン端子を用意。例えばボーカル録音でマイクプリ後段/A/D前段に外部コンプレッサーを接続できるのが本格的だ。代わりにオーディオI/Oでは常設となった感のあるMIDI端子が省かれているが、もし必要なら安価なUSB/MIDIインターフェースを追加すれば済む。本機がメイン・ターゲットとしている生録派にはインサート端子を装備する方がおいしい仕様と言えよう。またワード・クロック端子はアウトだけでなくインも装備しており、大規模なデジタル・システムに組み込む場合でもちゃんと対応できるのがうれしい。
自由度が高い内部ルーティング
使いやすいコントロール・ソフト
前述したようにフロント・パネルで操作できるのは本機の機能の一部であり、大抵の操作はコンピューター側にインストールしたZenコントロール・ソフトを使って行う。現状ではマイクのゲインさえも本体側では変えられないのでソフトでの設定は必須である。ANTELOPE AUDIOのWebサイトからオーディオ・ドライバーとコントロール・ソフト(Mac/Windows対応)をダウンロードしてインストールする。なおMacではOS標準ドライバーでも動作するためコントロール・ソフトを入れるだけでOKだ。USBで接続したコンピューターからは24イン/24アウトのデバイスとして認識される。つまり入出力系統数では豊富な本機だが、USBを介してDAWに録音できるのは24chまでとなる。USB 2.0仕様なので24ビット/192kHzでも24ch同時録音が可能だ。制御ソフトは実に使いやすい(画面①)。
AD/DA共にひずみが少なく
ナチュラルで端正なサウンド
聴き慣れたCDソースを使ってD/A側のサウンドをチェックしてみると、まずひずみ感が少ないのに驚かされた。適度な明るさを持ちながらも高域のひずみが少なく、耳に痛い感じがしない。10kHz辺りのエッジが抑えられているようでいて十分に抜けの良い音で、リバーブのディテールまで聴き取れる。次にマイクプリを使って歌を録音してみると、A/D側にも同様なひずみの少なさを実感できた。ちゃんと声のおいしい帯域を拾っているのに、決して暑苦しくならないのだ。Hi-Z接続でパッシブのギターをつないでみると、適度にギターの高域を拾いながらしっかりした太さがある。強めにカッティングしてもひずみが少ないので安っぽく感じない。ベースも同様で、とてもナチュラルだ。録音した音をほかのオーディオI/Oでチェックしても同様の傾向が残っている。これらが評価の高い高精度クロックの効果なのかどうかは筆者には判断できないが、不必要な誇張の無い端正なサウンドがとても気に入った。もっと使い込んでみないと分からないが、ダビングを重ねたときの輪郭がほかのオーディオI/Oと少し違って感じるのは気のせいだろうか。以上本機をチェックしてみて最も印象的なのは、やはり抜群に充実した入力群だ。USB経由の録音バスは24chという制限はあるが、内蔵DSPミキサーをうまく組み合わせることで、余った入力端子が決して無駄にならない深いポテンシャルを持っているのがいい。例えばリズム録音しながらも複数のキーボードを内蔵ミキサーでステレオに混ぜて録音するという活用もできる。また本機をほかのオーディオI/Oの追加マイクプリとして使う場合でも、アナログ・アウトでの接続、ADAT端子からの接続とさまざまな使い回しが選べて便利である。