「ANTELOPE AUDIO Zen Studio」製品レビュー:24ch入出力可能な192kHz対応USBオーディオ・インターフェース

ANTELOPE AUDIOZen Studio
Zen Studioは、元祖マスター・クロックとも言えるAARDVARK AardSyncの開発者、イーゴア・レービン氏が放つ最新オーディオI/Oだ。現在ANTELOPE AUDIOはメイン製品となるマスター・クロックIsochoneシリーズのほか、そのクロック技術を搭載したAD/DAコンバーターも発売している。今回チェックするZen Studioは既にライブ録音などで人気のオーディオI/O、Orion 32と同一のクロックやコンバーター回路を搭載したモバイル・モデル。シンプルな外観からは予想もできない高機能を持っているようだ。

モバイル・ボディに38系統の入力端子
12基のマイクプリが圧巻


左サイドにボディと同色の赤いキャリング・ハンドルがあることからも分かるように、モバイル録音を意識したデザインだ。高さが1U、奥行きは 145mmと短く、バックパックに入れて持ち運ぶことが可能。ラック・マウント仕様ではないが、横幅/高さともラックに入るサイズなので、うまく固定できれば組み込むこともできるだろう。驚くのはこのコンパクトなボディに38chもの入力を装備している点。特に12基用意されたマイクプリが圧巻で、バンドが集まったリズム録音でもドラムはもちろんベース、ギター、キーボードまでを本機一台で同時に録ることができる。このマイク入力となっているXLR/フォーン・コンボ端子のうち前面の4つは、Hi-Z切り替えでギターやベースを直接接続可能。さらにはD-Sub 25ピンでのアナログ8ch入出力、S/P DIFコアキシャル入出力、右サイドには2系統のADAT端子(最大16ch入出力として使用可)も装備し、合わせると38イン/32アウトの同時入出力が可能となっている(チャンネル数について詳しくは後述)。豊富な入出力の割にフロント・パネルは大変シンプルな構造で、3つのボタンと1つのロータリー・コントロールで操作する。小型ながら高精度のマルチファンクション・ディスプレイは32ch分のピーク・メーターとして機能するほか、マイクプリのゲインなどの状況を数値で表示させることが可能。左のボタンは電源、右の2つのボタンはディスプレイの表示切り替えなどに用いる。通常ロータリー・コントロールはモニター・アウトか2系統のヘッドフォン出力、いずれかのボリュームになっていて、最初にこれを触るだけで現在の音量値を確認することができる。また押し込むことでスイッチとしても動作し、どのボリュームを増減するかを選択する。なお筆者の手元に届いた状態では、モニター・アウトもヘッドフォンもミュート状態になっていた。ダイアルを少し押したままにするとミュートが解除され、音が聴けるようになる。そのほかインプット1&2にはアナログでのインサート用にそれぞれTRSフォーン端子を用意。例えばボーカル録音でマイクプリ後段/A/D前段に外部コンプレッサーを接続できるのが本格的だ。代わりにオーディオI/Oでは常設となった感のあるMIDI端子が省かれているが、もし必要なら安価なUSB/MIDIインターフェースを追加すれば済む。本機がメイン・ターゲットとしている生録派にはインサート端子を装備する方がおいしい仕様と言えよう。またワード・クロック端子はアウトだけでなくインも装備しており、大規模なデジタル・システムに組み込む場合でもちゃんと対応できるのがうれしい。 

自由度が高い内部ルーティング
使いやすいコントロール・ソフト


前述したようにフロント・パネルで操作できるのは本機の機能の一部であり、大抵の操作はコンピューター側にインストールしたZenコントロール・ソフトを使って行う。現状ではマイクのゲインさえも本体側では変えられないのでソフトでの設定は必須である。ANTELOPE AUDIOのWebサイトからオーディオ・ドライバーとコントロール・ソフト(Mac/Windows対応)をダウンロードしてインストールする。なおMacではOS標準ドライバーでも動作するためコントロール・ソフトを入れるだけでOKだ。USBで接続したコンピューターからは24イン/24アウトのデバイスとして認識される。つまり入出力系統数では豊富な本機だが、USBを介してDAWに録音できるのは24chまでとなる。USB 2.0仕様なので24ビット/192kHzでも24ch同時録音が可能だ。制御ソフトは実に使いやすい(画面①)。
▲画面① コントロール・ソフト。最上段にモニター・アウトやヘッドフォンのボリューム・スライダーとクロックやサンプリング・レートの設定などが並ぶ。その下が各インプットの設定で、この画面ではマイクプリのゲイン、ファンタム電源オン/オフ、位相反転、Hi-Z切り替えなどが設定可能。下にはルーティングやミキサー、エフェクトが表示されており、ここで見えるのはルーティング画面。マイク入力、ライン入力(D-Sub)、ADAT入力、コンピューターからのパラアウトのほか、Zen Studio内蔵DSPステレオ・ミキサー×4の出力や内蔵エフェクトの出力など、さまざまなソースを選択可能。ユニークなのはこれらの信号を出力端子にアサインするだけではなく、内蔵ステレオ・ミキサー×4の入力に戻したりもできる点だ ▲画面① コントロール・ソフト。最上段にモニター・アウトやヘッドフォンのボリューム・スライダーとクロックやサンプリング・レートの設定などが並ぶ。その下が各インプットの設定で、この画面ではマイクプリのゲイン、ファンタム電源オン/オフ、位相反転、Hi-Z切り替えなどが設定可能。下にはルーティングやミキサー、エフェクトが表示されており、ここで見えるのはルーティング画面。マイク入力、ライン入力(D-Sub)、ADAT入力、コンピューターからのパラアウトのほか、Zen Studio内蔵DSPステレオ・ミキサー×4の出力や内蔵エフェクトの出力など、さまざまなソースを選択可能。ユニークなのはこれらの信号を出力端子にアサインするだけではなく、内蔵ステレオ・ミキサー×4の入力に戻したりもできる点だ
 マイク/ライン/インスト(Hi-Z)の切り替え、ゲイン調整、48Vファンタム電源のオン/オフなどうまく整理された画面で混乱がない。いずれかの48Vがオンの場合は本体のLEDが点灯するので安心だ。ROUTINGタブでは上段の“FROM”の一覧から任意の入力番号をドラッグして、下段の“TO”にある接続先へアサインする。シフト+クリックで複数ソースを一度にアサインすることも可能。アンドゥ/リドゥもできる。TO側でアサインされた個所の色がFROM側の色に変わるので大変設定を進めやすい。また、通常の8倍と謳われるパワフルなDSPが搭載されており、32インのデジタル・ミキサー(主にモニター用)が4系統、16ch分のAFXという名のエフェクト(5バンドEQとコンプ)が用意され、任意に接続可能だ。通常DAW録音の場合はダイレクト・モニタリングで行うため、任意のアナログ入力と出力バスMIX 1 L/RをHP1(ヘッドフォン1)に接続して使う形になるだろう。HP2には別のミキサーを接続して2人目のプレイヤーのために違ったモニター・バランスを作ることが可能だ。またスピーカーを接続するモニター・アウトには入力端子からのダイレクト信号をアサインしないで、ヘッドフォンと使い分けるのがお勧めだ。これらよく使うセッティングは5つのプリセットとして保存することで即座に呼び出し可能である。もちろん電源を切っても最後に使用した状態を記憶してくれるので、保存し忘れても心配はない。さらに本機の場合ルーティングの自由度が非常に高く、別系統の内蔵デジタル・ミキサーを直列につなぐという特殊なことまで可能なのがすごい。AFXも出力はもちろん入力側にも接続でき、しかもAFX 1からAFX 2と多段でアサインすることも可能だ。試しに“複数のマイクプリ信号をMIX 4でステレオに混ぜ、AFXをかけてDAWソフトに録音したものをMIX 1でモニターする”といった複雑な接続も簡単に設定することができた。もっとも現状では用意されたエフェクトがEQとコンプだけなので多段がけする意味は薄いが、今後ほかのエフェクトの追加があるのではないかと期待させるほどの使いやすさだ。制御ソフトのMETERSタブでは本体の32chピーク・メーターに表示するソースを選択する。つまり単なる固定された入力メーターではなく任意の個所をメーター表示できる仕様なのだ。現在モニターしている場所はメーター中段に名前が表示される。普段はダイレクト・モニタリングに使うMIX 1辺りに設定しておくといいだろう。OPTIONタブでは内蔵オシレーター(1kHzまたは440Hz)の設定やラインの一括トリムなどが設定できる。ここからファームウェアのアップデートも可能だ。なお執筆時点で既にドライバー類はVer.2となっているが、メニューがあるのにその階層に入れない機能が幾つか存在した。今後ファームウェアのアップデートによって本体側で設定できる機能が増えていくのではないかと予想される。 

AD/DA共にひずみが少なく
ナチュラルで端正なサウンド


聴き慣れたCDソースを使ってD/A側のサウンドをチェックしてみると、まずひずみ感が少ないのに驚かされた。適度な明るさを持ちながらも高域のひずみが少なく、耳に痛い感じがしない。10kHz辺りのエッジが抑えられているようでいて十分に抜けの良い音で、リバーブのディテールまで聴き取れる。次にマイクプリを使って歌を録音してみると、A/D側にも同様なひずみの少なさを実感できた。ちゃんと声のおいしい帯域を拾っているのに、決して暑苦しくならないのだ。Hi-Z接続でパッシブのギターをつないでみると、適度にギターの高域を拾いながらしっかりした太さがある。強めにカッティングしてもひずみが少ないので安っぽく感じない。ベースも同様で、とてもナチュラルだ。録音した音をほかのオーディオI/Oでチェックしても同様の傾向が残っている。これらが評価の高い高精度クロックの効果なのかどうかは筆者には判断できないが、不必要な誇張の無い端正なサウンドがとても気に入った。もっと使い込んでみないと分からないが、ダビングを重ねたときの輪郭がほかのオーディオI/Oと少し違って感じるのは気のせいだろうか。以上本機をチェックしてみて最も印象的なのは、やはり抜群に充実した入力群だ。USB経由の録音バスは24chという制限はあるが、内蔵DSPミキサーをうまく組み合わせることで、余った入力端子が決して無駄にならない深いポテンシャルを持っているのがいい。例えばリズム録音しながらも複数のキーボードを内蔵ミキサーでステレオに混ぜて録音するという活用もできる。また本機をほかのオーディオI/Oの追加マイクプリとして使う場合でも、アナログ・アウトでの接続、ADAT端子からの接続とさまざまな使い回しが選べて便利である。 
▲本体向かって右側にADATオプティカル入出力を2系統(各最大16ch分)実装。S/MUXで96kHz/8chまたは192kHz/4chの入出力に対応 ▲本体向かって右側にADATオプティカル入出力を2系統(各最大16ch分)実装。S/MUXで96kHz/8chまたは192kHz/4chの入出力に対応
▲リア・パネル。左からUSB端子とDC電源入力、OUT B 1〜8とIN B 1〜8(D-Sub 25ピン)、モニター・アウトL/R(TRSフォーン)、S/P DIFコアキシャル入出力、ワード・クロック入出力、アナログ入力5〜12(XLR/フォーン。マイク入力はXLR、ライン入力はフォーンを使用)、インサート端子×2(TRSフォーン) ▲リア・パネル。左からUSB端子とDC電源入力、OUT B 1〜8とIN B 1〜8(D-Sub 25ピン)、モニター・アウトL/R(TRSフォーン)、S/P DIFコアキシャル入出力、ワード・クロック入出力、アナログ入力5〜12(XLR/フォーン。マイク入力はXLR、ライン入力はフォーンを使用)、インサート端子×2(TRSフォーン)
  (サウンド&レコーディング・マガジン 2014年10月号より)
ANTELOPE AUDIO
Zen Studio
286,000円
▪接続タイプ:USB ▪ビット&レート:24ビット/最高192kHz ▪入出力数:各24ch(入力端子38ch、出力端子32 ch) ▪ダイナミック・レンジ:118dB(A/D、D/A) ▪THD+N:−105dB(A/D)、−98dB(D/A) ▪推奨ロード・インピーダンス:2kΩ ▪マイクプリ最大ゲイン:65dB ▪クロック精度:±0.02ppm未満(64.5℃で運用) ▪外形寸法:418(W)×45(H)×145(D)mm ▪重量:約2kg