「OKTAVA MK-105」製品レビュー:高域特性をアップデートした単一指向のロシア製コンデンサー・マイク

OKTAVAMK-105
実は筆者、思い起こせば20年近く前にOCTAVAのマイクに出会っています。従来のコンデンサー・マイクとは違う、何かミラクルを起こしてくれるような変わったマイクはないものかと探しているときでした。そのときのチョイスがロシア製のOCTAVA MK-319だったのです。しかし、意図通りにはいかず、良くも悪くも“変わったマイク”という印象を持っていました。そんな同社のイメージを一変してくれたのが、今回テストしたコンデンサー・マイクMK-105だったのです。

前世代の特徴を継承しながら性能向上
タッチ・ノイズも少なく精巧な作り


手元に届いたMK-105は、NEUMANN TLMシリーズのような小振りなサイズに、カプセル部分と本体の間がくびれているインパクトのあるデザイン。そして、高級感も一段と増しています。メーカーのうたい文句でも、クラシカルなMK-319の特徴を生かしながら、高域特性の向上を狙ってトランスレス増幅回路を採用し、ハイファイかつ透明感ある音に仕上げているとのこと。周波数特性は20Hz〜20kHz、最大音圧レベル120dB SPLなど、スペックは必要にして十分です。単一指向性で、PADやローカットのスイッチは無く、至ってシンプルな構造。今回は専用サスペンション・ホルダーSM-Spiderも併せて試用しましたが、直接スタンドに設置できるホルダーもMK-105に付属しています。さて、実際に使ってみることにしましょう。まずはコントロール・ルーム内で、マイクを直接手に持ち、ハウリングを起こさない程度に自分の声をラージ・スピーカーでモニターしてみます。これで、6割くらいはどんなマイクか判断がつくのです。“あれ? これ、いけるんじゃないの!?”というのが第一印象。MK-319とは別ものと感じられ、格段にクオリティが上がっていることがすぐに分かりました。ボディ・タッチのノイズも少なく、本体の作りの良さも感じ取れます。 

明るくスピード感ある抜けの良い音
低価格マイクにありがちな欠点も無い


実際の録音は、まずアコースティック・ギターを試してみました。NEUMANN U87IとMK-105を同じマイキングにして聴くと“ん……あれ? これどっちのマイクだ?”と一瞬分からなくなりました。SN比はもちろん、音のエッジの感じが非常に似ていて、これには驚きました。安価なコンデンサー・マイク、特にラージ・ダイアフラムのモデルにありがちな、音の密度の薄さ、不自然なコンプ感、ハイエンドのざらつき感といった部分は、MK-105からは全く感じられません。そうした問題が無いこと以上に、明るく派手に録るにはもってこいだと思います。U87シリーズというよりは、スモール・ダイアフラムのNEUMANN KM84に似た感じの印象です。ただし、中低域〜ローエンドの豊かさがやや不足気味なのは否めないので、音源から離して使うよりもオンめのマイキングで使った方がベターかと思います。オンマイクという観点では、MK-105は吹かれに強いので、ちゃんと歌える人(不必要に息を吹きかけない人)であればポップ・ガードは必要ないでしょう。振動にも強いので、ダイナミック・マイクのようにサクッと立てて録音できるでしょうし、自宅録音などの環境で考えれば、かなりの高得点だと思います。本番のボーカル録音にも使ってみましたが、素晴らしかったです。ミディアム・テンポよりも速いポップス/ロックとの相性が良く、非常にいい仕事をしてくれます。明るく、スピード感もあり、抜けもとても良いです。それとは反対にスローなバラードやジャズをオフマイク気味で歌うと、先述の低域特性から物足りなさを感じるだろうなと予想します。そのほか、KM84のようだと感じたように、ドラムのトップにも問題無く使える音です。中低域の特性を考えると、ドラム・キット全体というよりはシンバル狙いの方が良さそうです。最後に同じ価格帯での比較という意味で、15年ほど前に5万円程度で買ったコンデンサー・マイクと比較してみましたが、ナチュラルさや繊細さにおいて、MK-105が圧倒しました。 強いて言うなら色気や癖がもう少し欲しいところですが、それはより上の価格帯の製品に期待すべきところでしょう。MK-105は、価格から考えれば非常に優秀なマイクと言えます。  (サウンド&レコーディング・マガジン 2014年9月号より)
OKTAVA
MK-105
オープン・プライス (市場予想価格:52,000円前後)
▪周波数特性(±0.5dB):10Hz〜65kHz(ST1&2)、10Hz〜50kHz(AUX&Line Outputs) ▪最大入力レベル:+22dBu(最小ゲイン、1kHz @0.5% THD+N) ▪DA変換(S/P DIF):24ビット/44.1/48/88.2/96kHz ▪出力トリム・レンジ:−80〜0dB ▪DIMアッテネーション:−30~−6dB ▪ヘッドフォン・アンプ出力:150mW+150mW ▪外形寸法/228.6(W)×63.5(H)×216(D)mm ▪重量/4.54kg