「DANGEROUS MUSIC Dangerous Compressor」レビュー:充実のサイド・チェイン関連機能を装備したステレオ・コンプレッサー

DANGEROUS MUSICDangerous Compressor
DANGEROUS MUSICの製品があまり日本に入っていなかった時代、ニューヨークのスタジオで初めて見て、そのパンチあるルックスに魅了された記憶がある。近年は日本でも見られるようになった同社の新製品であるステレオ・コンプレッサーは、Dangerous Compressorをじっくりと試してみた。

カラフルで気分が上がるロゴやボタン 直感的で分かりやすい操作子


漆黒のフロント・パネルにビビッドなオレンジで刻印されたロゴ・マーク、鮮やかでカラフルなボタンやVUメーターが使う前からワクワクさせてくれる(音楽を作る上では、楽器と同じく機材も“使いたい”と思わせるルックスであってほしいものだ)。VUメーターはボタン一つで−6dB下げて表示させることができるため、昨今のハイゲインな音源を取り扱う際には非常に勝手が良い。 さて、早速幾つかのソースを使って音の感触を探っていこう。まずはレシオ/アタック/リリース/スレッショルドといったおなじみのパラメーターをいじりながら、ドラム音源をコンプレッションしてみる。アナログ機材なので、細かいパラメーターは目視できないが、レシオは3:1、アタック・タイムは大体25ms、リリース・タイムは100msという感じで、4〜5dBほどリダクションするような設定でサウンドを確認した。キックもスネアもしっかりとアタックが強調されて、かつミッドローの辺りがほんの少し持ち上がるというか、アナログ・コンプとしての質感が素晴らしい。“ややファットな”という形容詞が浮かぶが、基本的に色付けは少なく、力強さが増す印象だ。次に“SMART DYN”というボタンがあるので、それを押してサウンドの変化に注目。これは平均レベルを調整することで全体をスムーズに処理しながら急激なトランジェントにも対処するという優れた機能で、音の印象は、よりナチュラルになったように思う。ボタンを押していない状態がパキッとコンプレッションされたように聴こえていたのに対して、程良いコンプ感に変化したようだ。ドラムやピアノなどのソースを使って、例えばそのまま本機をインサートする場合は、このSMART DYNを使うことで過剰なコンプ感を出さずに押し出しの強さを得られるだろうし、逆に原音とパラレルでハード・コンプレッションした音源を足してサウンド・メイクする場合などは、あえてこのボタンは使わずに強いコンプ感を出すと良いかもしれない。

音楽的なかかり方のオート・モード 原音との比較が容易なバイパス・スイッチ


次に2ミックスにトータル・コンプとして使用してみる。本機はマスタリングを見据えて開発されているらしく、これが最大のポイントになるだろう。本機にはサイド・チェイン関連のボタンが4つ用意されているので、その中からBASS CUTボタンを試してみる。これは余分な低域信号をスレッショルド回路に行く前にカットしてくれるというもの。60Hzで−3dBとあるので、つまり超低域が余分に引っ掛かってオーバー・コンプレッションになるのを防いでくれる。確かに全体の音像の粒立ちが良くなる印象を受けた。打ち込みものの音楽などはどうしてもキックの全体に占める割合が大きくなるし、超低域成分を含む場合が多いので、そこにコンプが引っ張られることを防げるだろう。またSIBILANCE BOOST機能は逆に高音域成分へのコンプの反応を良くするというものだ。こちらはほんのりかかる程度なので、シンバルがややうるさく聴こえている場合などに活用できそうな印象を受けた。 さらに、アタック/リリース・タイムを自動で設定してくれるオート・モード機能も忘れてはいけない。MANUAL ATT/RELボタンを押さない状態で自動的にオート・モードになり、非常に音楽的なかかり方をしてくれる。歌モノのポップスの場合、通常トータル・コンプのスレッショルドに引っ掛かるのはざっくり言えばボーカルやキック、スネアなどになるが、それぞれにうまく作用するポイントを見極める作業は非常に難しい。逆に言えばそこが腕の見せどころなのだが、このオート・モードを使えばレシオとスレッショルドだけ設定すればOK。つぶし過ぎずに音楽的な粒立ちとアタック感を持ち上げてくれて、当然レベルの抑制も行ってくれる。付け加えてENGAGEボタン。これはつまり回路のバイパス・スイッチで、コンプレッション回路をハードウェア的に完全バイパスできるため、元ソースとの比較がしっかりできる。   総合的に見ると、名前に反して非常にナチュラルで優秀なコンプであるということが言える。むしろ極力色付けは抑えた中で、かつ非常に音楽的に音源を扱える機材としてお薦めしたい。
▲リア・パネルの端子は左から外部サイド・チェイン・リターン入力L/R(XLR)、サイド・チェイン・センド出力L/R(XLR)、イン/アウトがL/Rでそれぞれ1系統(XLR)、埋め込み式メーター・トリムつまみ ▲リア・パネルの端子は左から外部サイド・チェイン・リターン入力L/R(XLR)、サイド・チェイン・センド出力L/R(XLR)、イン/アウトがL/Rでそれぞれ1系統(XLR)、埋め込み式メーター・トリムつまみ
サウンド&レコーディング・マガジン 2014年8月号より)
DANGEROUS MUSIC
Dangerous Compressor
オープン・プライス (市場予想価格: 310,000円前後)
▪周波数特性:15Hz〜80kHz±0.25dB ▪最大入力レベル:+27dB ▪クロストーク:115dB @1kHz ▪インプット・インピーダンス:20kΩ ▪アウトプット・インピーダンス:50Ω ▪外形寸法:482(W)×88.5(H)×342(D)mm(実測値) ▪重量:6kg(実測値)