「ELEKTRON Analog Rytm」製品レビュー:12個のパッドを備えサンプルも扱える新鋭アナログ・リズム・マシン

ELEKTRONAnalog Rytm
Analog Rytmは、ここ数年飛ぶ鳥を落とす勢いで躍進を続けるELEKTRONが送り出す、新たなリズム・マシン。その名通りのアナログ・シンセ・エンジンに加え、サンプル・プレーヤー、FMなどを組み合わせて発音できます。

演奏者を考慮した操作子の配置により
直感的なオペレートを実現


まずは本体から見てみましょう。Octatrack以降おなじみになった黒いボディで、硬質なルックスかつ手触りにも高級感があって好感が持てます。本機で特徴的なのはトップ・パネル左に配置された12個のパッド。AKAI PROFESSIONAL MPCスタイルの演奏/入力が容易に想像できます。実際に触れてみるとサイズは小さめですが、各パッドはある程度の間隔をもって配置されており、たたきにくいということはありません。打感も少し硬めで、大変打ちやすいです。ツマミ/ボタンなどほかの操作子も、同社製品でおなじみのものが採用されています。毎回言いますが、トップ・パネル下部にズラッと並ぶTrigキーを指で滑らす“ご破産”も可能。ちなみにこのTrigキーでも音を鳴らせるので、従来のELEKTRON製品に慣れている方も問題なく操作できるでしょう。このTrigキーはたたくのに力が要らない上にベロシティが固定されるため、音色を確認しながら細かくエディットしたい場合は、こちらの方が重宝するかもしれません。ELEKTRONの製品を使用するたびに不思議に感じるのですが、Functionなど幾つかのキーを同時に押す操作を求められるインターフェースでありながら、直感的に使えます。今回Analog Rytmを使ってみて、その理由がパネル設計の妙にあるように感じました。例えば連打のための“Retrig”というボタンがパネル左側にありますが、これを左手で押しながらパッドをたたいて連打、右手で連打の細かさを調整するという操作が、とても自然にできてしまいます。続いてリア・パネルを見てみましょう。出力はメインのほかに各トラックのパラアウトを用意。MIDI THRU/OUT端子では何とDIN Syncを送出でき、ビンテージ・シンセなども接続できます。その隣にはUSB端子も装備し、コンピューター(Mac/Windows)との親和性も問題ありません。先日、専用のVST/Audio Unitsプラグイン経由でDAWとの緊密な連携が可能になる“Overbridge”もアナウンスされ、デジタルとビンテージ機材を仲介する機材としても注目されるところではないでしょうか。 

サンプルを選ぶスロットにまで
モジュレーションが可能


Analog Rytmをセッティングして電源を入れたのですが……まず何より音が良い! 皆さんも起動したら、ぜひパッドを一発たたいてみてください。スピーカーのはるか後方に落ちていくキックの低域、小音量でも“ガシャッ”と存在感あるハイハット、切れ味鋭いスネアに、もはやサブベースの帯域まで響くタム! 素晴らしい! ちょっと感動的ですらあります。Analog Rytmは8ボイス仕様で、それぞれのボイスがパーカッション・シンセ、サンプル・プレーヤー、ノイズ・ジェネレーター、フィルター、アンプ、LFOなどシンセとしての機能を持つ構成となっています。パッドは12個ありますが、うち4つは1ボイスを共有する形になります。それでは各ボイスの構成について見ていきましょう。まずパーカッション・シンセでは、キック、スネア、ハイハット、タムなどそれぞれドラム・パーツに対応した音源が選択でき、各音色に特化したパラメーターで音色を作れます。ピッチ/チューンはもちろん、スウィープ・タイムやディケイ、ノイズの長さなど詳細な設定が可能です。さらに例えばキック・シンセだけでも“HARD”“CLASSIC”に加え、Ver. 1.01BのOSよりFMシンセも追加。音源ごとにパラメーターを操作できるので、このパーカッション・シンセだけでもかなり幅広い音作りが実現します(写真①)。
▲写真① パラメーター・セクションにある“Synth”ボタンを2度押しすることで、そのトラックで使用する音源を選択可能。キック/スネアに関しては、Ver. 1.01BのOSよりFMシンセも選べるようになっている ▲写真① パラメーター・セクションにある“Synth”ボタンを2度押しすることで、そのトラックで使用する音源を選択可能。キック/スネアに関しては、Ver. 1.01BのOSよりFMシンセも選べるようになっている
 続くサンプル・プレーヤー内では、チューン/ファイン、スタート/エンド・ポイントなどに加え、ビット・リダクションなども設定できます。さらに面白いのがサンプル・スロット。再生するサンプルを選択するだけの項目なのですが、何とここにLFOなどでモジュレーションをかけられるのです。モジュレーターによって読み出すサンプルがどんどん入れ替わったり、ベロシティが上がるにつれて盛り上がるサンプルに切り替わっていくという演出もでき、打ち込んでいく過程では思いも寄らなかった音色の動きを作れます。このサンプル・プレーヤーで鳴らすサンプルも、ユーザー側で設定可能。USBを介し、コンピューターからサンプル・ダンプで音色を追加できます。Analog Rytmは“+Drive”と呼ばれるストレージを内蔵しており、1GBのモノサンプルを保存できます。続くフィルター・セクションは、完全アナログのマルチモード・フィルター。2ポールのローパス、1ポールのローパス/バンドパス、1ポールのハイパス、2ポールのハイパス/バンドストップ/ピークの7種類から選択可能で、“さすがアナログ”とも言うべき、非常に滑らかな効き味です。音色のエディットにあたって欲しい場所にフィットしてくれる、“分かっている”フィルターだなぁという印象。もちろん、過激な設定で発振したときの荒々しさも特筆すべきポイントです。フィルターの後段はアンプ、エンベロープ、LFOと続きます。特にLFOは複数のウェーブフォームはもちろん、ウェーブフェイズやリトリガーまで細かく設定することが可能。先述したサンプル・スロットを含む多くのモジュレーション先も設定できます。ほかに面白いのは、パッドのベロシティによってもさまざまなモジュレーションが行えること。例えばパッドを強くたたくと音色がガラッと変わるようなセッティングにもでき、ライブなどで重宝しそうです。さらに後段にはエフェクト・セクションがあります。センド・エフェクトとしてディレイ/リバーブ、マスター・エフェクトとしてはディストーション/コンプレッサーを装備。ELEKTRONの空間系エフェクトは、シーケンサーと組み合わせてパラメーターを操作することで独特な質感の形成に一役買ってくれるので、普段の制作でも多用しています。今回特筆すべきはコンプレッサーで、何とアナログ・コンプを採用。従来のELEKTRON製品の付属コンプも出来がよく、そこでまとめられた音が本当に素晴らしかったので、パラアウトは必要ないとすら思っていましたが、Analog Rytmのアナログ・コンプはそれ以上に効きが良く、独特の太い音色に大きく寄与しています。ちなみにこのコンプは、サイド・チェインEQやドライ/ウェットの設定によるパラレル・コンプレッションなど、モダンな制作手法にも対応しています。 

異なるパラメーター値をメモリーし
Performanceモードで演奏


さてここまでの基本性能を踏まえた上で、実際にトラックを制作してみたいと思います。まずキックで骨子を作ります。キックのシンセ・エンジンを幾つか聴いてみると、FMの“BD FM”が目指す方向にはまりそうです。少しFMディケイを整えて、エディット次第でベースともとらえられるような基本形を作成。これをパラメーター・ロックで変形させて低域を担わせることにしました。ちなみに“パラメーター・ロック”とは、DAWで言うところのオートメーション。ELEKTRONの製品はこのパラメーター・ロックを含むシーケンサーが非常に優秀で、音楽的なのが特徴です。個人的に、最近はビートの中で微妙にドラムのピッチが変わるモジュレーションが好きなので、キックをクロマチック・モードで音程を付けてたたいていこうと思います。16分音符裏で鳴るキックはディケイが長めでピッチも少し低く……おお、そもそもの音色がとんでもなく素晴らしいので、低域はこれだけでカッコいいです。1小節ループの後半では少し潜ってタムにバトン・タッチしたいので、ローパス・フィルターで曇らせ、リバーブで雰囲気を付けて……ワルいです。極悪な低域で、雰囲気ありまくりです。後はタムで後半の動きと前半へ循環する勢いを付けます。さらにダークなテイストを付加したいので、使わなそうなハイタムのトラックにエレピのコード・サンプルをロード。次第に低域に偏重してきたので、次はハイハットをうっすらと足します。クローズド・ハイハットのディケイを短めに設定し、シェイカーとハイハットの中間くらいの“ジャリッ”とした質感を作ります。この音色を低いレベルの16分音符で刻み、高域成分を補完しました。あまり目立つ音色ではありませんが、ミュートすればその存在の大きさに気付きます。こうした“存在感”も、そもそもの出音の良さがあるからこそ成せる業ですね。さらにループ感のないシーケンスも少し欲しいので、シンバル・トラックにエフェクティブなパーカッション・サウンドをロード、シンク無しでサンプル&ホールド波形のLFOをフィルターにかけて、出たり消えたりするシーケンスを構築します。おお、たったこれだけの操作で、ビートからテクスチャーを構成する雰囲気まで、相当良いものができました。仕上がったビートをこのままDAWと同期して録音してもよいのですが、Analog Rytmが面白いのは、この後でPerformanceモードを使うことなのです。本体左上にあるPerfキーからPerformanceモードに入ります。この状態で各パッドにツマミの位置などを記録し、パッドを押し変えるごとに異なるパラメーター設定をリアルタイムに選んでプレイできるのです。先ほど組んだパターンからキックをミュートし、サンプルのディケイを伸ばしたブレイクのような状態や、ハイハットのディケイが開いている状態、サンプルのオーバードライブの値が上がってひずんでいる状態などを次々に登録していきます。後はこのモードで演奏しつつDAWに録っていけば、より変化に富んだ曲構成が作れます。しかもこのとき、パッドを押し込むベロシティに合わせて設定したパラメーターの値も変化! クレッシェンドのような演奏も可能で、フィジカルな動きのあるトラックが簡単にできてしまいます。 Analog Rytmはアナログ・リズム・マシンの強固な骨格を基本に、サンプラーや高機能でありながら直感的なシーケンサーなど現代的な機能を盛り込んだ、まさに“ビート・プロダクションの最先端”を具現化した製品と言えるでしょう。先述したVer 1.01BのOSにおけるFMシンセの追加など、シンセサイズできる領域はどんどん拡張されています。ELEKTRONは以前の製品でも頻繁にOSのアップデートをリリースし、さまざまな“使える”新機能を追加してくれるので、ぜひ皆さんもチェックしてみてください。 
▲リア・パネル。左より電源スイッチ、DC IN、USB端子、MIDI THRU/OUT/IN、その右はIndividual Outiputs×4(すべてステレオ・フォーン)で、接続にはインサーション・ケーブルを使用。各端子は左からCY(シンバル)/CB(カウベル)-RS(リムショット)/CP(クラップ)、CH(クローズド・ハイハット)/OH(オープン・ハイハット)-MT(ミッドタム)/HT(ハイタム)、SD(スネア)-LT(ロータム)、BD(キック)-BT(ベースタム)となる。さらにオーディオ入力(ステレオ・フォーン)、メイン・アウトL/R(フォーン)、ヘッドフォン(ステレオ・フォーン) ▲リア・パネル。左より電源スイッチ、DC IN、USB端子、MIDI THRU/OUT/IN、その右はIndividual Outiputs×4(すべてステレオ・フォーン)で、接続にはインサーション・ケーブルを使用。各端子は左からCY(シンバル)/CB(カウベル)-RS(リムショット)/CP(クラップ)、CH(クローズド・ハイハット)/OH(オープン・ハイハット)-MT(ミッドタム)/HT(ハイタム)、SD(スネア)-LT(ロータム)、BD(キック)-BT(ベースタム)となる。さらにオーディオ入力(ステレオ・フォーン)、メイン・アウトL/R(フォーン)、ヘッドフォン(ステレオ・フォーン)
 (サウンド&レコーディング・マガジン 2014年8月号より)撮影/川村容一 
ELEKTRON
Analog Rytm
161,944円
▪ボイス数:8 ▪音源方式:アナログ/FM/サンプル・プレイバック(音声ファイルの読み込みにも対応) ▪シーケンサー・トラック数:12 ▪ステップ数(1小節):1~64 ▪パターン数:128(プロジェクトごと) ▪サンプル・ストレージ:1GB(+Drive) ▪外形寸法:340(W)×63(H)×176(D)mm ▪重量:2.4kg