「SPL Phonitor 2」製品レビュー:スピーカー・シミュレート機能を備えて進化したヘッドフォン・アンプ

SPLPhonitor 2
SPLはユニークな製品作りで定評のあるドイツのハンドメイド・ハードウェア・メーカー。近年ではその秀逸なアナログ・プロセッサーの品質を高精度にモデリングしたプラグインも数多く発売していて、我々エンジニアも多くの恩恵を受けている。そんなSPLが今回発表したPhonitor 2は、その前身機種であるPhonitorにスピーカー・シミュレート機能が追加されたヘッドフォン・アンプである。同社の基幹技術である120Vテクノロジーを使って実現したという、“測定の限界を超えるスペック”から果たしてどんな音が生まれるのか、早速レポートしていこう。

左右バランスの調整ツマミや
スピーカー用のライン出力も装備


本機は120Vで正確に動作する。100Vでも使えなくはないが、音の勢いや立ち上がりが弱くなってしまうので、導入する場合には変圧器なども併せての検討が必要だ。ライン入力は全部で3系統。バランス入力(XLR)×2系統、アンバランス入力(RCAピン)×1系統で、フロント・パネルのSourceスイッチでセレクト。アンバランス入力の方は底面にあるディップ・スイッチにより10dB上げることができるので、民生機のCDやコンピューターのヘッドフォン・アウトなど、出力レベルの小さな機器を直接つなぐことができる。また今回新たに装備されたライン出力(XLR)×1系統により、単なるヘッドフォン・アンプとしてだけでなくパワード・スピーカーなどをつないでのモニタリングが可能になった。アウトプット・スイッチはヘッドフォンとライン出力のどちらか一つをセレクトする仕組みだ。VUメーターは+5dBまでのアナログ仕様だが、VUキャリブレーションが付いていて範囲を6dB/12dBまで拡大することができるので、CDレベルの音量でも問題ない。L/RのSOLOスイッチ、φ(位相)スイッチも搭載。また、Modeセクション内の“Laterality”は左右のバランスを取るツマミで、これは完全に左右に回し切っても片側がゼロにならず、3dBの範囲で調整できるので“バランスの微調整”の用途としては十分な働きをしてくれる。フロント・パネルの各パーツはとても操作がしやすく、後述するスピーカー・シミュレーションのコントロール部分も感覚的に分かりやすい配置になっている。スイッチ類が3段階のセレクトに統一されているところも好印象である。 

どんな音源でも余裕あるサウンド
自然な効果のスピーカー・シミュレート


では音のレポートをしていこう。“輪郭がしっかりしていてヌケのいい音”というのが第一印象。音の粒立ちが良く、歯切れが良いところも120Vテクノロジーのおかげなのだろうか。本機は通常のステレオ機器の4倍の電圧で動作しており、ヘッドルームもかなり余裕のある数値(+34dB)になっている。そのため、レベルを突っ込んだロックやEDM音源などのソースでも余裕が感じられ、あまりうまい言い方ではないかもしれないが、ひずんでいる音源はしっかりとひずんで聴こえるのだ。自社開発したというハンドメイドのオペアンプは、単体で150dBのダイナミック・レンジと200kHzを超える周波数特性を有するという。今まで見たこともない数値が並んでいても、この音ならば十分納得がいく。中域のアタック感やスピード感も素晴らしい反応で低域の締まり方も好印象であり、100〜200Hzぐらいのモヤッとするようなところもスッキリと再生してくれていて、迷いなく低音処理ができそうだ。また、底面のディップ・スイッチはアウトプット・レベルを+6dB/+12dBと段階的に上げることができるので、ハイインピーダンスのヘッドフォンでもベストのパフォーマンスを引き出すことができる。機器に合わせたレベル・アジャストが可能なところなど、シンプルなデザインながらユーザーへの配慮がとても細かくなされているのだ。リア・パネルにあるLEARNスイッチを使って学習させることができれば、手持ちのリモコンでボリューム・ダウン/アップの調整が可能になるリモート・コントロール機能もその一つと言えるだろう。スピーカー・シミュレート機能は漠然と疑似サラウンドのような空間を想像したが、全く違う技術であった。ヘッドフォン・モニタリング環境では完全に左に振り切った音は左の耳からしか聴こえないが、前方にスピーカーを設置したモニタリング環境では、前方斜め左から音が聴こえてくる。本機能はこのようにスピーカーから聴こえる音場を、ヘッドフォン・モニタリングで再現するイメージだ。“Angle”ツマミでスピーカーのペアの角度を、“Crossfeed”ツマミは簡単に言うとスピーカー・シミュレートの量を変えるものになっている。またヘッドフォン内ではセンター・レベルが大きく感じられるため、それを6段階で切り替えられる“Center”ツマミも装備。自分の感覚では、Crossfeed=5/Angle=40°/Center=−1.2という設定で、ヘッドフォン内にいつものスピーカー・モニタリングに近い環境を作り出すことができたように思う。疑似の残響を無理に付加するのではなく自然な空間を演出できるので、いつもより思い切ったパンニングができるかもしれない。 現在の音楽制作&モニタリング環境にうまく適応したPhonitor 2。スピーカー・シミュレーターの完成度もさることながら、クオリティの高い“余裕の音”にぜひ触れてみてほしい。 
▲リア・パネル。左からLEARNスイッチ、ライン出力(XLR)×1系統、アンバランス入力(RCAピン)×1系統、バランス入力(XLR)×2系統 ▲リア・パネル。左からLEARNスイッチ、ライン出力(XLR)×1系統、アンバランス入力(RCAピン)×1系統、バランス入力(XLR)×2系統
  (サウンド&レコーディング・マガジン 2014年7月号より)撮影/川村容一
SPL
Phonitor 2
250,000円
▪周波数特性:4Hz〜480kHz ▪最大入力レベル:+32dBu ▪最大出力レベル:560mW ▪入力インピーダンス:20kΩ(バランス)/10kΩ(アンバランス) ▪ダイナミック・レンジ:133.62dB(ヘッドフォン)/134.37dB(ライン出力) ▪外形寸法:277(W)×99(H)×305(D)mm ▪重量:4.3kg