45種類のギター用キャビネット
マイク・シミュレーターも8種類用意
他社製品はギタリストが喜びそうなアンプやエフェクターが主体のデザインが多いですが、本プラグインを立ち上げると中央に現れるのはスタジオ内のグラフィック。それもそのはず、従来のアンプ・シミュレーターがギターから足元のエフェクターを経てアンプでの音作りを重視しているのに対し、Torpedo Wall Of Sound lllはアンプから鳴らしたサウンドをマイクで収録するまでの部分を充実させたプラグインだからです。なので、最初はプレイヤーよりもエンジニア寄りのプラグインなのかなという印象がありましたが、収録キャビネットを見てみますとギタリスト心をくすぐるシミュレートのオンパレード。定番はほぼそろっており、FENDER/MARSHALL/ROLAND JCからSUPRO/SUHR/DIVIDED BY 13まで45種類。ベース用キャビネットもAMPEGやHARTKEなど13種類用意されています。早速筆者のオーディオI/OであるAPOGEE Ensembleにギターを直で入力してチェックしてみます。まず目を引いたのが、今までのギター・アンプ・シミュレーターではあまりクローズ・アップされていなかった“パワー・アンプ部”の充実度でした。特に真空管のシミュレートを選べるという発想には驚きました。パワー・チューブはELシリーズやKT88などおなじみの4種類が用意され、さらにパワー・アンプ回路もクラスAとクラスABがあり、さらには五極管と三極管までも選べるという“タマ”マニアにはたまらない作りです。またマイク・シミュレーターもダイナミック、コンデンサー、リボンの定番を含む8種類を用意。マイク位置はアイコンをドラッグして調整できますので、直感的にポジションを探すことが可能です。そのほかにローカット・フィルター、5バンドEQ、エキサイター、コンプレッサーのポストFXセクションで音の最終調整もできます。確かにシミュレートではありますが、これらの設定を追い込んでいったところ、ギター録音する際に無意識に付加される“マイクを通した空気感”のうま味を感じさせるサウンドが出来上がってきました。
外部アンプ・シミュレーターを併用すれば
より空気感が豊かなギター・サウンドに
そして特筆すべきは、ほかのプラグインやハードウェアのギター・アンプ・シミュレーターで作ったサウンドを本プラグインに入力すると、単体で作った音よりもさらに空気感をまとったワンランク上のギター・サウンドが得られることです。試しにTECH21 SansAmp、IK MULTIMEDIA Amplitube、AVID Eleven/Eleven Rackなどでクリーン/ドライブ・サウンドを作り、本プラグインに入力してサウンド・メイクしてみました。すると、各アンプ・シミュレーターの個性は保ちつつ、レコーディング・スタジオでいつも聴いている“マイクで録音したあのギター・サウンド”に肉薄。自宅のアンプ・シミュレーターで録ったギター・ソロやフレーズをスタジオに持っていってプレイバックすると、“単体では良い音だったのに今一つ抜けてこない……”と感じることがたまにありまして、その要因を突き詰めると“空気”を通っていないからなのかなと思ったりしています。そういう意味で、ワンランク・アップしたギター・サウンドを作る力強いパートナーとなる予感がします。 レコーディング時にその場で聴くアンプの音とマイクを通った音の違いに戸惑うギタリストも多いと思います。なので、実際にマイクの段階でどんな音がしているのか、どんな設定が良いのか、ということをある程度経験する必要はあるでしょう。そうした部分を突き詰めていけるのも本プラグインの魅力の一つだと思います。 (サウンド&レコーディング・マガジン 2014年7月号より)