
2ステップで任意機能をアサインできる
“TOUCH AND TURN”ノブ
QL5は64モノラル+8ステレオのインプット・チャンネルを備えており、そのすべてにデジタル・ゲイン、ハイパス・フィルター、4バンドEQ、ダイナミクス・エフェクト1(ゲート/ダッキング/エキスパンダー/コンプ)、ダイナミクス・エフェクト2(コンプ/コンパンダー・ハード/コンパンダー・ソフト/ディエッサー)、パン、タイム・アラインメント・ディレイ(最大1,000ms)などを搭載。アウトプット・バスとしては、16ミックス・バス、8マトリクス・バス、ステレオ・バス、モノラル・バス、キュー・バス(ステレオ)が用意されている。サイズは828(W)×272(H)×563(D)mm、重量は21.8kで、同社のLS9-32と比べてみるとほんの少し大きい。背面には32のアナログ・イン(XLR)や16のアナログ・アウト(XLR)、AES/EBUアウト、そしてCLシリーズより採用されたPRIMARY/SECONDARYの2つのDante端子(Cat5E)を装備。Dante端子の入出力数は最大64イン/64アウトとなっており、先のアナログ・イン/アウトや各種バスの信号を自由にパッチできる。またMini-YGDAIカード・スロットが2つ用意されているので、入出力や機能を拡張することも可能だ。内部クロックの周波数は44.1kHzか48kHzを選ぶ仕様で、ワード・クロック・イン/アウト(BNC)も装備。そのほか5イン/5アウトのGPI端子(D-Sub 15ピン)、MIDI IN/OUT、Dante関連の設定を行うコンピューターを接続するイーサーネット端子(RJ-45)、ランプを接続できる2つのLAMP端子を備えている。パネル中央の10インチ・タッチ・ディスプレイは、CLシリーズと同じものを採用。CLシリーズの前の世代にあたるコンソール、M7シリーズのタッチ・パネルに比べると、レスポンスが良くなっている。“Selected Channel”という機能により、選択中のチャンネルの情報やパラメーターを一覧表示させることができ、ゲインやパン、ダイナミクス・エフェクトのスレッショルド、EQのQ幅/周波数ポイントなどの主要なパラメーターをディスプレイ右側のノブ群に割り当てて調整可能(写真①)。

チャンネル名などの情報を映し出す
フェーダー上部の小型ディスプレイ
ノブだけでなく、フェーダーも使い心地が良い。LS9やM7CLに比べると引っ掛かりが無く、指にフィットする感じはオペレート時のストレスを軽減してくれるだろう。フェーダー上部にはチャンネル・ネームを表示する小型ディスプレイが用意され、フェーダー・バンクを切り替えたり、内蔵グラフィックEQをフェーダーにアサインして使うときに便利。これはQLシリーズに初めて採用された機能で、設定によってゲートやコンプのゲイン・リダクション・メーターも映し出せる。任意のチャンネルを選択すると、タッチ・ディスプレイの左側にSENDSフィールドが表示される(写真②)。

本体のアナログ入出力や
Danteの入出力を直接パッチ可能
私見だが、QL5はDanteに対応したコンソールの中でもコスト・パフォーマンスの高い製品だと感じている。Danteとは、AUDINATEが策定したデジタル・オーディオ・ネットワークの規格。対応機器を100Mbpsもしくは1GMbpsのイーサーネット・ケーブルでスイッチング・ハブに接続しネットワーク化すれば、各機器の間で双方向1,024chの信号をやり取りすることができる(24ビット/48kHz時)。また、同一のネットワーク内で複数台のI/Oボックスやコンソールを使うこともでき、それらのルーティングをMac/Windowsに対応したAUDINATEのソフトDante Controllerの中で設定可能なため、大規模なシステムを簡単に構築することができる。QL5は“Port to Port”という機能により、本体のアナログ入出力/背面のスロットに装着したMini-YGDAIカードの入出力/Danteネットワーク内の入出力のそれぞれを、ミキシング・チャンネルに通すことなくダイレクトにパッチすることができる。このため、QL5をQL1やCLシリーズのI/Oボックスとして使うことも可能。その結果単体機のI/Oボックスの数を減らすことができ、ステージ袖の限られたスペースの有効活用にもつながる。またCLシリーズを所有するPAカンパニーにとっては、I/Oの拡張にも一役買うだろう。LAB.GRUPPEN Lakeプロセッサーを搭載したMini-YGDAIカード、MY8-Lakeを使用する場合のメリットにも触れておきたい。このカードを“Contour”というモードに設定すると、最大4イン/12アウトのクロスオーバーとして機能する。しかし、従来はその12アウトをコンソールの空きバス経由で出力せねばならず、バスの数を圧迫することから使用できる現場が限られていた。ここでPort to Portの出番である。先述の通り、この機能を使えばMini-YGDAIカードの入力をDanteネットワークに直接出力できるため、コンソールの空きバスを消費することなくMY8-Lakeを使えるのだ。
RUPERT NEVE DESIGNSとの
コラボで生まれたエフェクトを搭載
ヘッド・アンプはCLシリーズと同様に奇麗かつシルキーな音質で、どんなソースにも合いそう。さらに“ゲイン・コンペンセーション”という機能により、インプット・ゲインの値を2台以上のQL/CLシリーズのそれぞれで個別に設定することができる。これは、ヘッド・アンプで設定されたゲイン値がDanteネットワークへの送出前に自動でデジタル補正されるというもの。例えばQL5をモニター・コンソールとして使ったとき、本体のヘッド・アンプでゲインを調整しても、その信号をFOHのコンソールへパッチしたときにゲイン値が反映されないため、それぞれの持ち場で最適な値に設定することが可能なのだ。ミキシングに有効なツールとしては、CLシリーズで定評のあるプロセッサー群をもれなく搭載している。中でも独自の技術“Virtual Circuitry Modeling”(VCM)を採用したプロセッサー群が出色だ。RUPERT NEVE DESIGNSとのコラボレーションにより作られたEQのPortico 5033やコンプPortico 5043などがその代表で、アナログ機器の回路構成や振る舞いなどを高精度にモデリングしているという。これらVCMプロセッサーは、Premium Rackというバーチャル・ラックの中で最大8台マウントして使用することが可能(写真③)。




オートマチック・ミキサーは
声の検知と音質の精度が共に高い
先日、スポーツのイベントでQL1を使ってみた。司会などのワイアレス・マイク数本と映像音声、DJのサウンドがメイン・ソースとなったが、途中ボーカル・デュオによるライブもあった。こういったイベントの場合、ブースの広さが限られているという理由から、よりコンパクトなQL1の方を使ってみたのだ。事前に作っておいた設定ファイルをパネル上のUSB端子から読み込み、セットアップは終了。サウンド・チェックでワンツーしてみると、ヘッド・アンプはやはりクリアな音質だ。試しにオートマチック・ミキサーをワイアレス・マイクのチャンネルで使用。司会や解説の音声をほぼ自動でコントロールしてくれるので助かった。そもそもチェックの際、何人かにマイクでトークしてもらったら、頭の欠けや変な音の途切れが無く、声の入っているマイクを素早く検知し自然に出力してくれたので、本番で使うことにしたのだった。さらにカスタム・フェーダーで使用するフェーダーの組み合わせを作ってみたり、マスターにPortico 5043をインサートしてみた。各EQなどのパラメーターもTOUCH AND TURNノブでサクサク操作することができた。昨今、各機器がデジタル化することにより、演算時のレイテンシーに気を配る必要が出ている。それらを抑えるにはシステムのネットワーク化が必須だが、幾つかある規格の中でDanteは主力になりつつある。QL5やQL1をDanteのエントリー機として導入すれば、各社から対応製品の発売が増えた際により有用性が高まるだろう。
