「WAVES Reel ADT Native」製品レビュー:アビイ・ロード・スタジオ独自のダブリング手法を再現したプラグイン

WAVESReel ADT Native
“ADT”(Artificial Double Tracking)をご存じだろうか? アビイ・ロード・スタジオに所属していたエンジニア、ケン・タウンゼントが1960年代に生み出したテープ・レコーダーを用いてのダブリング手法だ。WAVESが新たにリリースしたReel ADT Nativeは、ADTに使用されていた真空管テープ・レコーダーとそのダブリング効果を再現したプラグインで、Mac/Windowsに対応し、AAX Native/RTAS/AudioSuite/Audio Units/VSTプラグインとして使うことができる。

ダブリング効果のほか
テープ・レコーダーの特性も再現


テープ・レコーダーには録音ヘッドと再生ヘッドというものがあり、録音ヘッドでは音声の記録、その直後に位置する再生ヘッドでは記録した音声の再生を行う。2つのヘッドを同時に使用すれば、録音しながらその録り音を再生することが可能。ただし録音ヘッドと再生ヘッドの間には少しの隔たりがあるため、原音よりもやや遅れたタイミングでの再生となる。これを利用したのがADT。遅れた音を原音にミックスすることで、ダブリングの効果を得ようという手法だ。Reel ADT Nativeをオーディオ・トラックに立ち上げると、原音(SRC)とは別途ADT用のコピー信号が生成されるので、その発音タイミングを画面の上の方にある“ADT”というパラメーターで調整すればダブリングのかかったサウンドを生み出せる。モノラル・トラックに挿した場合は、原音とADT信号をモノラル・ミックスして出力するモード、両者の定位を個別にコントロールしステレオ出力するモード、原音に2系統のADT信号をミックスしてステレオ出力する“ADT 2V”モードの3つからを選んで使える(画面①)。 

▲画面① ADT 2Vモードを選ぶと、ADT用信号のチャンネルが2つ現れる。各チャンネルでは、発音タイミングやVARISPEED、パン、サチュレーションの量などを調整することが可能 ▲画面① ADT 2Vモードを選ぶと、ADT用信号のチャンネルが2つ現れる。各チャンネルでは、発音タイミングやVARISPEED、パン、サチュレーションの量などを調整することが可能
 ステレオ・トラックに挿した場合は、ステレオ出力とADT 2Vの2モードを選択する形だ。また原音とADT信号は、それぞれ音量や位相、サチュレーションの量を個別に調整することができる。このサチュレーションは、ADTに使われていたテープ・レコーダーのひずみ成分をシミュレートしたもので、“DRY”ツマミを使い分量を調整する形。上げ過ぎるとややオーバーな感じになるが、少しだけひずみを加えることで、簡単にロック・テイストなサウンドが手に入る。画面中央には“VARISPEED”というノブが装備されており、これを使用すればADT信号のテープ・スピードを±20msの範囲で調整できるため、ワウ&フラッターの再現も可能。テープ・スピードは手動で変えられるほか、標準搭載されたLFOによるモジュレーションを使い自動調整することもできる。LFOのSYNCスイッチをONにすれば、DAWのテンポ・マップから楽曲のテンポに合った周期を自動生成してくれるので便利だ。そのほかフランジャーやフェイザーなど、アビイ・ロード・スタジオで使われていたクラシカルなエフェクトも内蔵されており、全体として深みと広がりのあるサウンドを特徴としている。 

プラグインにありがちな
硬い音質ではなく自然なサウンド


実際のADTサウンドはザ・ビートルズ「シー・セッド・シー・セッド」などで聴くことができるが、Reel ADT Nativeのサウンドはかなり再現度が高い。プラグインにありがちなデジタル臭さや硬さが無く、非常にナチュラルな音質なのだ。テープ・サウンドならではの揺れやヘッドの挙動、真空管の温かみなど細かい部分までよく再現されている印象で、それが音のリアリティにつながっている。実機の特性をよく理解したシミュレートは、さすがWAVESだ。モードをADT 2Vに切り替えると、よりエフェクティブなサウンドが得られる。多用するのではなくスパイス的に用いる方が良いモードだと感じるが、実機でこれと同じ効果を得ようとするとADT用のテープ・レコーダーが2台必要になるため、その手間を省くことができるのはプラグイン特有のメリットと言える。ダブリングを得るためだけでなく、アナログ・テープや真空管アンプのシミュレーターとしても非常に有効であろうReel ADT Native。特にロック・ボーカルにはお薦めの一品だ。   (サウンド&レコーディング・マガジン 2014年6月号より)
WAVES
Reel ADT Native
24,000円
▪Mac:Mac OS X 10.7〜10.9.2、INTEL Core Duo 2.3GHz ▪Windows:Windows 7(SP1)/8、INTEL Core 2 Duo 2GHz ▪共通項目:4GBのRAM、解像度1,024×768ピクセルのディスプレイ