「NOVATION Bass Station II」製品レビュー:20年前の名機を元に現代のサウンドに最適化したアナログ・シンセ

NOVATIONBass Station II
20年ほど前にBass Stationが登場したとき、アイディアの宝庫と感心したのは筆者だけではないでしょう。ポイントは標準サイズのMIDI鍵盤を2オクターブ程度装備した上に、ツマミでコントロールできるシンセ音源を合体させたこと。それはある意味で今日の“テーブル・トップ型シンセ”と、”アナログ・シンセはツマミ付きでもここまで小さくすることができる”という両面における礎となった記念すべきモデルであると言えるのかもしれません。そんな同機がBass Station IIとして一層パワー・アップして、激動のアナログ・シンセ市場に参入してきましたので早速レビューに入ろうと思います。

随所に使いやすさを追求した工夫
3つのオシレーターで幅広い音作り


箱から取り出そうとボディをわしづかみにして構造に早速ニヤリ。片手でつかめるようにボディ裏にくぼみがあるのです。これだけのことでもさすがNOVATIONの仕事といった趣で高ポイントを付けたいと思います。思わず“いいね!”を押したくなりました。電源を入れると2つのホイールを内部から青いLEDが照らして浮かび上がるような演出が施されており、とても5万円台程度とは思えない高級感を漂わせています。ツマミの配列は音作りで迷うことがないように基本は信号の流れる順になっていて、とても素早い操作が可能です。また液晶ディスプレイには3けたの数字しか表示できませんが、その分パネルに描かれた文字群が明解そのものなので操作に戸惑うこともなく、すぐに慣れ親しむことができました。オシレーターは2つ。それぞれにサイン波、三角波、ノコギリ波、パルス(矩形)波が用意されていて、オシレーター1にはサブオシレーターを加えることが可能です(写真①)。

▲写真① 2つのオシレーターは4種類の波形(サイン、三角、ノコギリ、矩形)が使える。OSC1はさらに3つの波形からチョイスできるサブオシレーターを搭載 ▲写真① 2つのオシレーターは4種類の波形(サイン、三角、ノコギリ、矩形)が使える。OSC1はさらに3つの波形からチョイスできるサブオシレーターを搭載
 LFO、PWM、エンベロープによるモジュレーションに加えて、シンクもかけられるので、2つ(正確には3つ)のオシレーターだけでかなりの数の波形バリエーションを作れるという期待が持てます。その音質はワイド・レンジでクセが無く、幅広い音作りの素材として使用可能というわけです。さらに次段のミキサー部分ではリング・モジュレーター、外部入力、ノイズのどれかを選択して単独で、あるいは併用できる仕様です。これだけの装備にもかかわらず、パネル専有面積は極めて小さく、それでいて操作性は快適そのもの。オシレーターの1と2をボタンで切り替え可能にした仕様も省スペース・アイディアの一つですね。このように、とにかくNOVATIONの開発者が研究熱心であることはもちろん、理想を具現化する能力に長けていることも感じられました。 

ダイオード・ラダー方式のフィルター搭載
TB-303系サウンドも生み出せる


さて、このミキサーの出力はオーバードライブを経由してからフィルターに入るという、これまたニヤリとさせられる構成です。もはやオーディオ信号をフィルターに入力する際には、多少でもひずませれば音に色気が出るというのが常識なわけですが、ユーザーによってひずみに対する感性はさまざま。ならばひずみ具合はユーザーにお任せしよう、というわけでツマミが装備されているのでしょう。搭載されているフィルターはローパス、バンドパス、ハイパスの3種類が12dB/octと24dB/octスロープにそれぞれ用意されて6種類。加えてACIDと呼ばれるチョイと怪しい名前のフィルターを含めてトータル7種類です(写真②)。
▲写真② フィルターはローパス/バンドパス/ハイパスが選択可能。さらにClassicタイプとACIDタイプが選べ、それぞれ12dB/octと24dB/octを切り替えられる ▲写真② フィルターはローパス/バンドパス/ハイパスが選択可能。さらにClassicタイプとACIDタイプが選べ、それぞれ12dB/octと24dB/octを切り替えられる
 ACIDフィルターというのはダイオード・ラダーで構成された24dBローパス・フィルターです。多くのモノシンセはトランジスターかオペアンプを使うのに対し、少数ながらそれらの代わりにダイオードを使うというモデルも過去に存在していました。EMSのVCS3やSynthi A、あるいはROLANDのSHシリーズの一部といったシンセたちが同じくダイオードです。肝心の音は、Bass Station IIのノーマルと比較した場合、発振具合などが全体的に落ち着いた雰囲気になり、結果的にTB-303の18dB/octという24dBと12dBの中間の特性に近くなっているように思います。お勧めの使い方は、フィルターの手前にあるオーバードライブを派手めにかけてレゾナンスと組み合わせることで、極悪非道(もちろん良い意味です)な303系サウンドが堪能できます。モジュレーション系はLFOとエンベロープが2つずつ。LFOはサンプル&ホールドを含む4波形を広範囲な速度で出力可能です。さらに動作が開始されるまでの時間を設定できるディレイまで装備(写真③)。
▲写真③ LFO波形には、三角波、ノコギリ波、矩形波、サンプル&ホールドを用意。速度とディレイ調整ができる ▲写真③ LFO波形には、三角波、ノコギリ波、矩形波、サンプル&ホールドを用意。速度とディレイ調整ができる
 エンベロープはマルチ/シングル・トリガーが切り替えられるので、広範囲な音作りツールとしての利用が期待できます(写真④)。
▲写真④ ADSRタイプのエンベロープ。アンプとモジュレーションで兼用となる。マルチ/シングル・トリガーの切り替えに加え、オート・グライドに設定するとレガートで弾いた際、ポルタメントがかかる ▲写真④ ADSRタイプのエンベロープ。アンプとモジュレーションで兼用となる。マルチ/シングル・トリガーの切り替えに加え、オート・グライドに設定するとレガートで弾いた際、ポルタメントがかかる
 ところでBass Station IIにはエフェクトと呼ばれるセクションに、2つのツマミが用意されています。一つはディストーションで、フィルターとアンプの間にあります。つまりフィルターの前には前述のオーバードライブがありますから、ひずみ系が二重に搭載されていることになります。あくまで一例ですが、オーバードライブを使って地味にひずませて音にハリを持たせておき、それを後段のディストーションで全体的に過激にひずませる、なんてことができるわけですね。もう一つのツマミがOSC Filter MOD。オシレーター2の波形をダイレクトにフィルター変調用信号として使ってしまおうというものです。一例を挙げるなら、フィルターを発振させた状態でオシレーター波形を使って変調させると、即座に鐘の音ができるという、シンセ好きも納得の魔法のツマミ。ぶっちゃけて言うとスペースが狭いためにパラメーターが少なく思えるかもしれませんが、できることは規格外です。あらゆる音作りができてしまうBass Station IIは、とにかくスキがないなぁと実に感心させられます。 

アルペジエイターを新搭載
ステップ・シーケンサーでも大いに遊べる


Bass Stationには無いBass Station IIの目玉を2つ挙げてみましょう。一つは前述した“スキの無い多彩な音作り”ですが、もう一つはステップ・シーケンサー機能を含むアルペジエイター・セクションを挙げたいと思います(写真⑤)。
▲写真⑤ アルペジエイターは上昇、下降以外にRhythmツマミで32種類のバリエーションが生成できる。この設定はステップ・シーケンサーとして使う場合も有効 ▲写真⑤ アルペジエイターは上昇、下降以外にRhythmツマミで32種類のバリエーションが生成できる。この設定はステップ・シーケンサーとして使う場合も有効
 アルペジエイターとは、押さえた鍵盤の音程を上昇、下降、上昇+下降といった一定のパターン通りに繰り返しアルペジオの形で自動演奏する機能で、そのパターンを元に、さらに多くのリズム・パターンを鳴らすことが可能です。MIDIクロックでDAWとのテンポ同期もできるので、ちょっとした作編曲ツールとしても重宝するでしょう。しかし筆者的にプッシュしたいのはステップ・シーケンサーで、こちらは自分で考えたパターンで鳴らすことができます。とは言え、はっきり申し上げて、エディット・ディスプレイも無い状態での入力、最高32ステップ、使えるのは16分音符のみなどの制限付きなので、どんなパターンでも作成できるDAWのシーケンサーのようには行きません。しかしながらこういうプリミティブなところに愛おしさを感じてしまうのは筆者だけではないでしょう。実際にやってみるとものすごく面白い。レガートや休符入力もできるし、エンベロープにあるオート・グライドを併用すれば303的な“キュ〜ン”というグライドも再現可能なので、前述のACIDフィルター&オーバードライブ機能と合わせれば“303神サウンド”の降臨というわけです。 20年前、そのコスト・パフォーマンスの高さに驚かされたBass Stationですが、今回Bass Station IIとなって、仕様面で大きく進化を果たしました。例えば、よく使うフィルター・カットオフのツマミだけが大きめだったり、エンベロープ・ツマミだけが視認性を上げるためにスライダー・タイプになったりしています。それにもかかわらずお値段据え置き(むしろ安価になった!)を実現させたメーカーの心意気には頭が下がりますね。Bass Station IIは音良し、操作性良し、ルックス良しと見事なトータル・バランスを確保した“末永く愛着の持てるシンセ”であることを実感しました。 
▲リア・パネル。中央から右に向かってヘッドフォン(ステレオ・フォーン)、ライン出力(フォーン)、外部入力(フォーン)、サステイン・ペダル入力(フォーン)、MIDI IN/OUT、USB(パソコンとのMIDIのやりとりや電源供給用)、電源スイッチ(USB/OFF/DCを切り替え) ▲リア・パネル。中央から右に向かってヘッドフォン(ステレオ・フォーン)、ライン出力(フォーン)、外部入力(フォーン)、サステイン・ペダル入力(フォーン)、MIDI IN/OUT、USB(パソコンとのMIDIのやりとりや電源供給用)、電源スイッチ(USB/OFF/DCを切り替え)
   (サウンド&レコーディング・マガジン 2014年6月号より)
NOVATION
Bass Station II
オープン・プライス (市場予想価格:55,048円前後)
▪鍵盤数:25(シンセ・アクション/アフタータッチ、ベロシティ感知) ▪オシレーター:2(サイン波、三角波、ノコギリ波、矩形波) ▪サブオシレーター:1(サイン波、矩形波、パルス幅変調/2オクターブ下まで設定可能) ▪フィルター:1(ローパス、バンドパス、ハイパス、12dB/24dBスロープ/ACIDタイプ:ダイオード・ラダー・フィルター設計) ▪エンベロープ・ジェネレーター:1(ADSRエンベロープ/モジュレーション・エンベロープ) ▪LFO:2(波形:三角波、ノコギリ波、矩形波、サンプル&ホールド回路) ▪アルペジエイター:1(最大32種類、ラッチ機能) ▪ポルタメント:1 ▪シーケンサー・ステップ数/32(16分音符限定) ▪外形寸法:457.2(W)×76.2(H)×273.05(D)mm ▪重量:約3kg