「IZOTOPE Break Tweaker」製品レビュー:ビートを柔軟にエディット可能なBT発案によるリズム・マシン・ソフト

IZOTOPEBreak Tweaker
ここ数年最も創造性に富み、多くのアーティストが取り組む音楽スタイルの1つとしてダブステップがあります。斬新で複雑なビートやグルーブをオリジナルで生み出すには、相応のセンスやプログラミング・テクニックが必要となり、そのハードルの高さこそが創造意欲をかき立てるケースも多いのでしょう。ただ昨今のEDMブームで、もっと手軽にダブステップ的ビートを扱いたいという人も増えています。サンプル・ライブラリーを使うのも手ですが、そうしたアリモノではなくオリジナルなビートを、しかも簡単に作りたい……そんな願いを見事にかなえてくれるのが、このBreak Tweakerというソフトです。

1パターンにつき6トラックを用意
各トラックの再生スピードも変更可能


本ソフトは、以前スタッター効果をキーボード操作1つで可能にしたStutter Editの考案者であるクリエイターのBTと、IZOTOPEのタッグにより設計/開発されました。本製品にも幾つかの点でStutter Editの流れをくんだ要素が見受けられます。ただ、作られたオーディオ・ループを再構築するStutter Editに対して、オリジナルのビートをシーケンスから創造するという点で大きく進化したものと言えるでしょう。まず大まかな仕様を紹介します。本ソフトはDAWソフト用プラグイン(AAX/AudioSuite/VST/Audio Units、Mac/Windows対応)として機能するもので、シーケンサー付属のリズム・マシンのようなものと考えて良いでしょう。しかも音源にはドラム・サンプルだけでなくウェーブテーブル波形も用意され、シンセシスも充実しているためかなり突っ込んだ音作りができます。つまりDAW内に立ち上げたBreak Tweakerのみで、曲の骨格自体はほぼ仕上げることができそうです。以下、各機能ごとに見ていきましょう。●ステップ・シーケンサーBreak Tweakerのシーケンサーでは、1つのパターンにつき6本のトラックが利用でき、長さは最長2小節(画面①)。

▲画面① ステップ・シーケンサー部。各トラックは最長2小節(32ステップ)で、グリッドをクリックしてノートを打ち込んでいく。ベロシティはノートを上下にドラッグすることで直感的に設定可能。また各トラックごとにステップ数を変えたり、再生スピードを変更するなどして複雑なビート作りも行える ▲画面① ステップ・シーケンサー部。各トラックは最長2小節(32ステップ)で、グリッドをクリックしてノートを打ち込んでいく。ベロシティはノートを上下にドラッグすることで直感的に設定可能。また各トラックごとにステップ数を変えたり、再生スピードを変更するなどして複雑なビート作りも行える
 24個までパターンを作成可能で、各パターンはMIDIキーボードのC2からB3までの24個の鍵盤に順番にアサインされるため、鍵盤をトリガーとしてパターンが再生できる仕組みになっています。また各トラックの音はC1からF1までの6個のキーにアサインされるので、音を確認したいときはもちろん、パターン再生中にもアドリブ的にリアルタイム演奏できるなど、自由に鳴らすことが可能です。パターンは鍵盤を押したタイミングで切り替わるので、通常のリズム・マシンのように一通り再生されるのを待つ必要が無く、リズミカルな鍵盤プレイでリアルタイムに切り替えが行えます。画面中央下にあるMIDIエリアで、“GATE”を選択すれば鍵盤を押している間のみパターン演奏、“LATCH”を選べば次に鍵盤が押されるまで同じパターンを繰り返します。さらに“LATCH”のまま“ALWAYS RETRIGGER”のチェックを外せばシーケンスの時間軸をキープしたままでパターンの切り替えが可能で、この設定でプレイするのが一番気持ち良くて楽しいと思います。パターンの作成は非常にシンプル。1小節16ステップのグリッドをクリックすると書き込み、ダブル・クリックすると消去することができます。書き込んだステップを縦にドラッグすれば、ベロシティの調整ができ、横にドラッグすればノートの長さを変えられます。そしてこの横に伸ばした状態が、後で説明するMICROEDITで生きてきます。また各トラックは個別に再生速度を調整することができ、最遅で1/3倍、最速で3倍の7段階でスピードを設定できる上に、ステップ数も個別に変えられるので、流動的な周期を持つパターンも作れます。 

音源はサンプル/シンセを選択可
MICROEDITでグリッチ再生も簡単


●サウンド・ジェネレーターシーケンサーの各トラックの内部には、3つのサウンド・ジェネレーターが用意されています(画面②)。
▲画面② 各トラックに用意されたサウンド・ジェネレーターでは、サンプルもしくはウェーブテーブル音源を選択可能。さらにディストーション、フィルター、エンベロープ、LFOによる音色加工にも対応。1トラックにつき3種類のサウンド・ジェネレーターをレイヤーできる ▲画面② 各トラックに用意されたサウンド・ジェネレーターでは、サンプルもしくはウェーブテーブル音源を選択可能。さらにディストーション、フィルター、エンベロープ、LFOによる音色加工にも対応。1トラックにつき3種類のサウンド・ジェネレーターをレイヤーできる
 各トラック名の右側にある波形マークをクリックすると設定画面が出現。“GENERATOR TYPE”のプルダウンから音源タイプをサンプルかウェーブテーブル・シンセかを選択し、さらにカテゴリー分けされた音源をセレクトします。パターン再生中にもこの作業ができるので、実際にシーケンスを組みながらマッチする音源を探せて便利。プリセットの内蔵音以外にも、手持ちのサンプルを選択することが可能です。各サウンド・ジェネレーターはディストーション×2、フィルター、ミキサー、エンベロープ×4、LFO×4と十分なパラメーターを擁しています。さらにシンセ音源を選ぶと、1つのジェネレーターで2つのオシレーターが使えるので、フルに使うと1トラックにつき計6種類のオシレーターを用いたかなりエグいレイヤーを組むこともできます。また“DISCOVER”という現在の音に似た別の選択肢を提案してくれる機能もかなり使えると思いました。●MICROEDITBreak Tweakerの真骨頂とも言えるのがMICROEDIT機能(画面③)です。
▲画面③ MICROEDIT部では、サウンドをスライスしてグリッチ音のような効果が直感的に作れる。パラメーターも多いので追求しがいのある部分 ▲画面③ MICROEDIT部では、サウンドをスライスしてグリッチ音のような効果が直感的に作れる。パラメーターも多いので追求しがいのある部分
 これは1つのステップを数千に分割し、そのスライスされた音をハーモニクス/ピッチ/リズム・エフェクトなどの要素で再構築するもの。つまりダブステップなどで聴ける“ブーブ・ブブブブブブ”といったフレーズを、マウスのドラッグだけで直感的に生成できてしまうものです。やり方は至ってシンプル。ステップに書き込んだノートをクリックして選択すると、“MICROEDIT”部に四角い帯が表示されます。その帯を縦方向へグリッドするとそのノートが分割されていき、横方向へグリッドすると前半あるいは後半に細かく連打するような鳴り方にエディットできます。さらにその右側にある“TYPE”“SLOPE”“GATE”といったパラメーターでより詳細なエディットが可能です。これらのパラメーターの効果はすべてグラフィカルに表示されるので、どのように音が再生されるのかが一目りょう然。とにかくここでのエディット作業が楽しくてたまりません。これまで同様の効果を得るために大変な時間を費やしてプログラミングしてきたフレーズが、いとも簡単な操作で瞬時に実現できてしまうとは!なお、冒頭にダブステップのビートと書きましたが、本製品の活躍の場はもちろんそれだけに限りません。ミニマル・テクノ・シーンの王者リッチー・ホウティンが運営するレーベル=MINUSの作品などで聴かれる、一音入魂なミニマルでグリッチなサウンドもすぐに作れてしまいます。実際プリセットの“Minimal”というカテゴリーの中にはMINUSそのものと言ってもいいようなパターンが豊富に含まれていますし、ほかにも“Electro”“Hip Hop”、ロック系の“Retro”といったジャンルも併せて、合計80以上のパターンと2GB相当のサンプル・サウンドが用意されています。さらにはBreak Tweaker用の追加ライブラリーも別途販売されていて、さらなる今後の可能性も感じさせてくれます。  (サウンド&レコーディング・マガジン 2014年6月号より)
IZOTOPE
Break Tweaker
オープン・プライス (市場予想価格:25,000円前後)
▪Mac:Mac OS X 10.6.8以上(Intel Macのみ) ▪Windows:Vista(64ビットのみ)、Windows 7/8(32/64ビット) ▪対応プラグイン・フォーマット:AAX(AVID Pro Tools 11)、RTAS/AudioSuite(Pro Tools 7.4~10)、VST、VST3、Audio Units