「DAVE SMITH INSTRUMENTS Prophet 12 Module」製品レビュー:Prophet 12をモジュール化した12ボイス仕様のハイブリッド・シンセ

DAVE SMITH INSTRUMENTSProphet 12 Module
シンセ界のレジェンド、デイヴ・スミスが新たにデザインした話題のProphet 12。彼の35年にわたるキャリアの中で“最高傑作のシンセだ”と公言してはばからない同機のモジュール版が登場しました。その出来栄えをレポートします。

洗練されたユーザー・インターフェース
デジタル/アナログのハイブリッド仕様


近年のシンセのトレンドと言えばフル・アナログ回路ですが、本機はデジタル/アナログのハイブリッド仕様です。オシレーターとエフェクト類をデジタル化し、VCF/VCAはアナログ方式を採用。ボイス数は12で、1ボイスあたり4つのDSPオシレーター+1サブオシレーターがあり、そのオシレーターの音色を変化させるキャラクター・セクションを通った後に、ローパス・フィルター→ハイパス・フィルター→VCA→最後に4基のディレイ/フィードバックを通過して出力されるというアーキテクチャーです(図①)。

▲図① 本機のボイス・アーキテクチャー。DSPによるオシレーター信号はキャラクター(CHARACTER)を経てローパスとハイパス・フィルターに入り、VCAの後段からはメイン・アウト、4系統のディレイ、そしてフィードバック・ループへの経路に分岐される ▲図① 本機のボイス・アーキテクチャー。DSPによるオシレーター信号はキャラクター(CHARACTER)を経てローパスとハイパス・フィルターに入り、VCAの後段からはメイン・アウト、4系統のディレイ、そしてフィードバック・ループへの経路に分岐される
 MIDI入出力端子のほかUSBポートを搭載しているので、パソコンと直接MIDIのやりとりができます。メモリーには99プログラム×8バンクが用意され、その半分がユーザー・バンクです。ボイス・モードはポリにもユニゾンにも設定でき、2つの音色を鍵盤に左右に分割したり(スプリット機能)、2つ同時にレイヤー(スタック機能)で鳴らすこともできます。またLFOやMIDIクロックなどと同期できる多機能アルペジエイターも内蔵。各セクションについては後で詳しく説明します。外観は、Prophet 12と比較すると鍵盤やベンド・ホイールが無いだけでなく、フロント・パネルのツマミも大幅に省略していることから、操作性についてもかなり違いがあります。しかし中身はほぼ同じです。中央のディスプレイも解像度が高くて美しく、階層が深くならないように工夫されています。ほとんどの操作はツマミがある機能についてはそれを回すだけで、それ以外のものについても該当するボタンを押せばディスプレイに項目が表示され、その上部にある4つのソフト・ノブで操作できます。 

オシレーター後に多彩なエフェクトを用意
スムーズなアナログ・フィルターも好感触


オシレーター・セクションはDSPということもあって機能が充実(写真①)。
▲写真① オシレーター画面。4つの定番波形、12のウェーブテーブル波形、3つのノイズを選ぶことができ、さらに任意の2波形間でウェーブ・シェイプも可能。それに従って画面の波形表示も変わっていくので分かりやすい ▲写真① オシレーター画面。4つの定番波形、12のウェーブテーブル波形、3つのノイズを選ぶことができ、さらに任意の2波形間でウェーブ・シェイプも可能。それに従って画面の波形表示も変わっていくので分かりやすい
 デイヴ・スミスはアナログ・オシレーターの機能的な限界について言及していて、デジタルの自由度の高さや優位性を主張しています。4基のオシレーターにはそれぞれに独立したオシレーター・シンクやFM/AMを搭載し、豊富な波形が選べます。ノコギリ/矩形/三角/サイン波といった典型的なシンセ波形のほか、デジタルっぽいきらびやかなウェーブテーブル波形も多数あり、ノイズの種類も充実しています。また波形にはシェイプ・モジュレーション、つまりウェーブ・シェイパーが付いていて、倍音のイメージを大きく変えることができます。ツマミを回すと、ディスプレイに表示された波形もリアルタイムに変化していくのがいいです。このパラメーターはノイズにも有効です。チューニングは基本となるピッチを半音単位で設定するタイプで、C0、C#0……のようにノート表示され、微調整も可能です。オシレーターだけでもいろいろと遊べるのが魅力的ですが、通常であれば即フィルターへ直行するところを本機ではキャラクター・セクションを通過させることによってデジタル・エフェクトをさらに加えることができます。パラメーターにはGirth/Air/Hack/Decimation/Driveといった聞き慣れないパラメーターが並んでいますが、使ってみた印象で言えばGirthとAirはそれぞれ低域/高域に特化したEQみたいな効果。HackとDecimationはビット/サンプル・レートのリダクション、Driveはテープ・サチュレーションのシミュレートです。この後にフィルターが用意されているのですが、ここからはアナログ処理を行います。ローパスとハイパスが用意され、前者はCURTIS製フィルター・チップを採用。SEQUENTIAL Prophet-5など往年のシンセの名機に数多く使われてきた同社製のチップは1980年代を象徴するサウンドを数多く生み出しましたが、現在では入手が難しくなっています。そこでデイヴ・スミスは設計者のダグ・カーティスに依頼して特別に製造してもらったそうです。ローパス・フィルターは2/4ポールの切り替え式で、レゾナンスは勢いよく発振します。まさにサウンドはCURTISそのもの。非常にスムーズでアナログ・フィールな粘りのあるスウィープ感を生み出せます。ハイパス・フィルターは2ポール固定となっています。ちゃんとレゾナンスも搭載されており、音作りに積極的に使えそうな良い音です。フィルターの次はVCAです。ローパス・フィルターと同じ5ステージ・タイプの専用エンベロープが搭載されており、面白いのがVCAの後ろにステレオ・パンニング効果を加える回路が組み込まれており、“Pan Spread”というパラメーターによってボイスごとにパンニング具合を設定できることです。0では完全に効果が無くなり、数値を上げていくとボイスごとに左右の振幅が大きくなります。また“Repeat”をオンにするとエンベロープが鍵盤を押している間ループします。これは古くからシンセにはよく付いていた機能ですね。VCAの後はディレイに入ります。本機は1ボイスにつき4系統ものステレオ・デジタル・ディレイを搭載しています。各ディレイ・タイムの組み合わせや調整によってリバーブっぽい効果を出したり、コーラス/フランジャー的な使い方もできるようになっています。ディレイ・タイムは最大1sで、後述のアルペジエイターやMIDIクロックにシンクさせることができ、BPMに対する音符単位でも調整できます。またディレイ部分にもローパス/ハイパス・フィルターが設けられており、ディレイ成分の音色作りに役立ちます。さらに“Delay Pan”パラメーターによってステレオのパンニング・ディレイ効果も得られ、パンニング・ポジションをLFOなどさまざまなモジュレーション・ソースによって変調することができるという充実ぶりです。LFO自体も各ボイスに4基搭載されており、外部同期や打鍵による波形のリセットも可能です。波形の種類はアナログ・シンセと同じですが、打鍵でリセットしたときにLFOの位相をどこから始めるかを設定する“Phase”パラメーターが用意されているのは興味深いです。エンベロープについては、前述したフィルターとVCA以外にも補助的なAUXエンベロープが2基搭載されています(写真②)。機能的に4基とも全く同じものですが、AUXの2つは自由にデスティネーションを指定可能です。
▲写真② エンベロープ画面。本機には1ボイスあたり4つのエンベロープ・ジェネレーターが用意されており、画面を見ながらADSRを調整できる ▲写真② エンベロープ画面。本機には1ボイスあたり4つのエンベロープ・ジェネレーターが用意されており、画面を見ながらADSRを調整できる
 パネル右側に独立して設けられたDistortionツマミも気になるところです。これはアナログのステレオ・ディストーションが2基搭載されており、レイヤー・モードにしたときにもそれぞれ独立したディストーションを加えることができます。強くかけてもローノイズでいい感じのひずみです。アルペジエイターについても触れておきます。通常のUP/DOWNなどのモード選択と3種類のオクターブ・レンジ切り替えに加え、ノートを指定回数だけ繰り返してから次のノートに移るRepeat機能や、ステップ・シーケンサー的なノート指定ができるアルペジエイター・スクラッチ・パッド機能などもあります。 最後に、皆さんが一番気になるのは“Prophet”の名を冠した本機がProphet-5的なサウンドを持っているかというところだと思います。Prophet-5と音が似ているかという点で言えば答えはノーです。Prophet 12は数年前にリリースされたProphet '08ともまた違うキャラクターを持っており、現時点におけるデジタルとアナログの良いトコ取りをした次世代的なコンセプトの新しいシンセと言えます。パッと聴いた感じでは、多くの人はデジタル・シンセに近い印象を受けるかもしれません。しかしフィルターのアナログ感によって、クリーンな響きの中にも音楽的な表現力があり、冷たさを感じさせない音色だと思いました。特にフィルターを深くかければかけるほどアナログのフィーリングが増し、Prophet-5的なファットなストリングス・パッドなども作り出せます。逆にフィルターを開けばゴージャスで倍音がたっぷり含まれたデジタル・サウンドが飛び出します。全体的な音ヌケが非常に素晴らしく、美しいプリセットの世界観に魅了されてしまいます。さすがデイヴ・スミスはシンセのツボをうまく押さえていますね。 
 
▲リア・パネル。左からUSB(パソコンとのMIDIデータやり取り用)、サステイン・ペダル(フォーン)、エクスプレッション・ペダル×2(フォーン)、MIDI IN/OUT/THRU、電源、アウトB L/R(フォーン)、メイン・アウトL/R(フォーン)、ヘッドフォン(ステレオ・フォーン) ▲リア・パネル。左からUSB(パソコンとのMIDIデータやり取り用)、サステイン・ペダル(フォーン)、エクスプレッション・ペダル×2(フォーン)、MIDI IN/OUT/THRU、電源、アウトB L/R(フォーン)、メイン・アウトL/R(フォーン)、ヘッドフォン(ステレオ・フォーン)
  (サウンド&レコーディング・マガジン 2014年5月号より)
DAVE SMITH INSTRUMENTS
Prophet 12 Module
オープン・プライス (市場予想価格:266,666円前後)
▪ボイス数:12 ▪オシレーター:1ボイスにつき5基 ▪オシレーター波形:ノコギリ/矩形/三角/サイン+ウェーブテーブル×12+ノイズ×3 ▪オシレーター・クロス・モジュレーション:FM/AM ▪ローパス・フィルター:CURTIS製2/4ポール・アナログ(4ポールで自己発振に対応) ▪ハイパス・フィルター:2ポール・アナログ ▪エンベロープ:ディレイ機能付きADSR×4(ローパス・フィルター用/VCA用/アサイナブル×2) ▪LFO:4(フェイズ・オフセット&スルー・リミッター付き) ▪モジュレーション・マトリクス:16×2系統(ソース×26/デスティネーション×97) ▪アルペジエイター:ラッチ機能付きブログラマブル ▪キャラクター・エフェクト:5系統(Girth/Air/Ha ck/Decimation/Drive) ▪プログラム数:ユーザー×396/ファクトリー×396 ▪外形寸法:419(W)×72(H)×173(D)mm ▪重量:2.21kg