「ROLAND TR-8」製品レビュー:本家がTR-808/TR-909のサウンドを再現した新型リズム・マシン

ROLANDTR-8
ROLANDが新たに開発した、コンピューターとの連携とパフォーマンスに特化したデジタル・ダンス・ミュージック・シーンの進化を促すブランドが“AIRA”。このたび発表されたのはTR-8、TB-3、VT-3、System-1の4機種。今回レビューさせていただくTR-8は、同社の伝説的なリズム・マシンTR-808/TR-909のビンテージ・サウンドを21世紀によみがえらせた、本家による待望のニュー・マシンです。

808/909が混在するキットを作成可能
COMPでさらにメリハリのある音に


TR-808とTR-909は1980年代に発売されたマシンながら、いまだに中古品も人気が衰えず愛用者も多いわけですが、その要素を踏まえつつ、現在のDAWベースの制作環境に適したTR-8のようなマシンを多くの人が望んでいたと思います。オリジナルの回路図を持つROLANDにしかできない最先端モデリング技術=ACBテクノロジーでTR-808とTR-909のサウンドを完全再現し、リズム・パフォーマンスも視野に入れた進化型マシンとしてリリースしてきました。外観は、かつてのTR-808を思わせる黒を基調としながら、アクセントとなる緑のLEDがスタイリッシュな印象。ディスプレイはBPM表示のみで、最近の機種にありがちな液晶パネルが無いのは潔いです。16個のパッドもTR-808と同じカラーリングで、こだわりを感じます。しかもパッド全体が光るので、見た目はかなり鮮やか。APPLE MacBook Pro(15インチ)とほぼ同じサイズで、並べて置くとしっくりきます。重さは1.9kgなので片手で持つこともできます。パネル・レイアウトですが、TR-808はTEMPOツマミが左側にあったのに対し、TR-8は右側になっていることや、各インストのレベルがツマミから縦フェーダーになっているなどの違いがありますが、基本的にはTR-808/TR-909を踏襲したものになっており、初めて使う人はもちろん、オリジナルの実機を使っていた人も違和感なく操作できるでしょう。各パートの音源構成は、キックが808/909/808LongDecay、スネアが808/909、ロータムは808/909/808LowConga、ミッドタムが808/909/808MidConga、ハイタムは808/909/808HiConga、リム・ショットが808/909/808Claves、クラップは808/909/808Maracas、シンバルとクローズド/オープン・ハイハットはそれぞれ808/909、ライド・シンバルが808Cowbell/909RideSymbalとなっています。これらを組み合わせて16のユーザー・キットが作成可能で、例えば909のキックに808のスネアを組み合わせたキットも作れます。しかし同一パートでは1音色しか選べず、例えば808と909のスネアを同時に鳴らすことはできません。各インストはTUNEとDECAYが調整でき、さらにキックにはATTACKとCOMP、スネアにはSNAPPYとCOMPが追加されています。スネア/キックのCOMPはオリジナルに無かった機能で、ACCENTと併用すれば、メリハリあるビートが構築できるでしょう。各パートのパンニングも128段階で申し分ありません。肝心の音質ですが、そもそもオリジナルの実機も厳密に言えば個体差がありますから、人によってイメージしているTR-808/TR-909と音色が違うという印象を持つかもしれません。しかし、TR-8はそれらの平均的な音を目指して開発されたものと考えた方がよく、その意味では、オリジナルを使い続けてきた筆者にも全く違和感の無いサウンドが再現されていると思います。エフェクトはリバーブとディレイを内蔵。リバーブは8タイプから選択でき、LEVEL/TIME/GATEで調整。ディレイも8タイプが用意され、LEVEL/TIME/FEEDBACKを調整できます。この際TIMEツマミを動かすと、テープ・エコーのようなかかり方が楽しめます。このエフェクトは、パターンの特定のステップのみでかけられるのも、本機のポイント。例えば1拍目のキックにだけディレイ、4拍目のスネアにだけリバーブをかけたりすることができます。別途エフェクターをつながなくとも、これだけで多彩な展開が作れるので、ライブ・パフォーマンスもいろいろと楽しめそうです。このあたりが“リズム・コンポーザー”ではなく、“リズム・パフォーマー”と名付けられている理由の一つかと思いました。 

ライブ・パフォーマンスに有効な
スキャッター機能を新搭載


TR-8のシーケンサーはオリジナルTR-808のシーケンサー動作を完全モデリングしたTR-RECが採用されており、バリエーションA/Bの切り替え(各16ステップ)、A/B連続再生(32ステップ)という構成。ソング・モードはありません。まずSCALEボタンでパターンの長さを指定(1ステップの音の長さを4種類の音符から選択)、DRUM SELECTのINSTボタンで音源を設定し、鳴らしたいステップのパッドを押していきます(2度押しで消去)。左から右に流れるパッドの光を目で確認しながら入力していくシンプルさは、伝統的なリズム・マシンの手順そのまま。この際、TR-8は鳴らしているステップのパッドが赤く光るのに加え、1ステップ目から1拍おきに白く光っているので、拍が分かりやすい仕様になっています。またINST-RECという、パターンを鳴らしながらパッド1-11をリアルタイムにたたいて入力する機能もあり、AKAI PROFESSIONAL MPC上がりの人などは、こちらの方がやりやすいかもしれません。パッド12-15には4種類のドラム・ロールが用意されており、パフォーマンスで重宝しそうです。さらにINST PLAYモードでは、パターンを再生しなくてもパッドを押すと音が鳴るので、最初にこれで各パートの音色を決め込んでからパターン作成に入るのもいいかと思います。トップ・パネル右にはSHUFFLEのツマミもあるので、微細なグルーブも追求できます。TR-8は再生/録音モードがシームレスなので、パターンを走らせたまま、さまざまな調整が可能です。シンプルなことですが、この辺りが使いやすく進化したポイントだと思います。次はTR-8注目の新機能と言えるスキャッターを紹介しましょう。これはループ再生をステップごとに入れ替えるもので、再生方向やゲートの長さに変化を加えることで、グリッチのような再生音が得られる機能です。トップ・パネルの右上にあるノブでキャラクターを10種類から選択でき、DEPTHでかかりの深さも調整できます。予測できないランダムな効果が得られるので、ライブなどで使いこなしてみましょう。なおこのスキャッターはリア・パネルのEXTERNAL INから入力された音源に対しても適用が可能です。

USBケーブル1本で
DAWへのパラアウトを実現


TR-8はコンピューター(Mac/Windows)とUSB接続することで、MIDIクロックによるDAWとの同期とオーディオのパラアウトに対応します。まず、あらかじめROLANDのWebサイトより“TR-8 Driver”をダウンロードしてインストールします。ここではMOTU DP8での方法を説明します。まず、MIDIクロックによる同期ですが、DAWをマスター、TR-8をスレーブとして同期させる場合、DP8のメニュー>Setup>Transmit Syncで“TR-8”を選択。これでDP8のシーケンスを走らせれば、TR-8で選択されているパターンも再生を始めます。この際もTR-8は単体使用時と同様にさまざまな操作が行えます。画期的なのが、TR-8の出音をUSB経由でDAWにマルチ録音できること。メニュー>Setup>Configure Audio System>Configure Hardware Driverで“TR-8”を選択。サンプリング・レートは24ビット/96kHz固定です。パラアウトは1-2がミックス・アウト(エフェクト音を含む)、3がキック、4がスネア、5がロータム、6がミッドタム、7がハイタム、8がリム・ショット、9がクラップ、10がシンバル、11がオープン・ハイハット、12がクローズド・ハイハット、13がライド・シンバルに割り振られます。DP8側でステレオ・トラック×1とモノ・トラック×11を用意し、各トラックのインプットをTR-8に合わせて設定。これでDP8で録音を開始すれば、同期したTR-8のパターンの音が各トラックに録音されます(画面①)。
▲画面① TR-8のパラアウトをDP8に録音したところ。こうしたマルチ録音がUSBケーブル1本で実現する。サンプリング・レートは24ビット/96kHz固定で、録音中もTR-8上でスキャッターなどの操作が可能だ ▲画面① TR-8のパラアウトをDP8に録音したところ。こうしたマルチ録音がUSBケーブル1本で実現する。サンプリング・レートは24ビット/96kHz固定で、録音中もTR-8上でスキャッターなどの操作が可能だ
ミキサーやオーディオI/Oを介さず、USB接続だけで録音できてしまうのは、本当に驚きです。上記のようなコンピューターとの連携から、TR-8を優秀なリズム音源&コントローラーのパッケージと考えることもでき、DAW全盛のこのご時世にハードウェアのリズム・マシンを導入する意義も、十分に出てくるのではないでしょうか。また持ち運びしやすいことから、ライブ・パフォーマンスはもちろん、楽器演奏者やトラック・メイカーとのセッションの可能性も広がります。 MIDI規格ができる前後に発売され、以降、一般的に“現役の機材”とは言えなかったTR-808/TR-909は、1980年代後半から1990年代にかけてのハウス/テクノ・シーンにおいて新たな解釈で使われ伝説化していくのですが、個人的には当時から実機の復刻、あるいはそれをベースにした新たなマシンを待ち望んできました。その間にもさまざまなリズム・マシンが発売されましたが、ここまでストレートにTR-808/TR-909を踏襲したものは無かったように思います。大げさに言えば、“ようやくこの日が来た”という感じで、発売のアナウンス以降、期待のハードルは上がりっぱなしでした。そしてTR-8は、その期待に応えてくれたと思います。 
▲リア・パネル。左よりDC IN、電源スイッチ、USB端子、MIDI IN/OUT、EXTERNAL IN L/R、ASSIGNABLE OUT A/B、MIX OUT L/R(すべてフォーン)、PHONES(ステレオ・フォーン) ▲リア・パネル。左よりDC IN、電源スイッチ、USB端子、MIDI IN/OUT、EXTERNAL IN L/R、ASSIGNABLE OUT A/B、MIX OUT L/R(すべてフォーン)、PHONES(ステレオ・フォーン)
  (サウンド&レコーディング・マガジン 2014年5月号より)
ROLAND
TR-8
オープン・プライス (市場予想価格:52,000円前後)
▪ユーザー・キット数:16 ▪ユーザー・パターン数:16 ▪ステップ数(1小節):1〜16ステップ×2(バリエーションA/B) ▪テンポ:40〜300 ▪ディスプレイ:7セグメント4桁(LED) ▪エフェクト:リバーブ、ディレイ、サイド・チェイン ▪規定入力レベル:−10dBu ▪規定出力レベル:−10/+4dBu(切り替え) ▪外形寸法:400(W)×65(H)×260(D)mm ▪重量:1.9kg 【REQIUREMENTS】(コンピューター接続時) ▪Mac:Mac OS X 10.6.8以上(10.9対応) ▪Windows:Windows Vista/7/8/8.1