
3種類のモニター・ソースを同時入力可
オーディオI/O部は計6イン&6アウト
Crimsonはモニター・コントローラーをメインに設計しつつ、オーディオI/O機能も内包した製品。モニター・コントローラー部は同社単体機譲りの本格的なアナログ・アクティブ回路で構成されているため、デジタル領域でのビット・レートの問題や、パッシブ回路で起こりがちなインピーダンスの変化によるリニアリティ低下などを回避できそうだ。それではモニター・コントローラー部から見ていこう。モニター・ソースは“Jack”(TRSフォーン)、“RCA”(RCAピン)、“Mini-J”(ステレオ・ミニ)のステレオ3系統で、それらを同時モニター可能。Mini-JにAPPLE iPodやMP3プレーヤーを直接つないでも、しっかりとレベル確保できる。さらにCDプレーヤーなどをつなぐS/P DIFのデジタル・インも装備。スピーカー・アウトはAとBの2系統を切り替えることができ、B側には±5dBのトリムが用意されている。20〜600Ωまでのインピーダンスに対応したヘッドフォン端子は2系統用意され、独立してレベル調整可能だ。USBオーディオI/O部はMac/Windowsのコンピューターに対応し、最高24ビット/192kHzの音声をサポート。入出力を見ると、DAWに対して6イン&6アウト仕様となっている。録音用のアナログ入力は4chで、マイク・イン(XLR)×2、インスト・イン(フォーン)×2、あるいはライン・イン(フォーン)×4の計8つの端子から選択可能。ただしライン・イン1/2に外部機器をつなぐとマイク・イン1/2が無効になり、インスト・イン1/2に楽器を接続すればライン・イン3/4が無効になるといった優先順位がある。マイク・インの内蔵マイクプリは+8〜+60dBの連続可変ゲインを持ち、ダイナミック・マイクでも十分なレベルが得られる。インスト・インのゲイン幅は−6〜+31dBで、パッシブのギターをつないでもかなりの余裕がある。これらにS/P DIFインが加わって、合計6インというわけだ。これらオーディオI/O用に用意された入力はモニター用としても使用可能なので、例えば6台のハードウェア・シンセをステレオで入力し、本機をキーボード・ミキサーとして使うような特殊な用途も想定できる。一方、DAWからのリターン信号はDAW1/2、DAW3/4(それぞれにDAコンバーターを内蔵)と外部出力用のS/P DIFのステレオ3系統。モニター用のデジタル・ミキサー機能は用意されていないが、録音中の楽器モニタリングは本体のアナログ回路で直接行うため、当然遅延の心配はない。演奏音とオケのモニター・バランスはM
onitor Mixツマミ一つで調整可能だ。
生楽器ダビングに便利なArtist Mode
単体のモニター機器としても使用可
真ん中に用意された“Artist Mode”スイッチが本機の最大の特徴で、ここにSPLならではの工夫が多く盛り込まれている。スイッチ一つで複数の機能が切り替わり、パネル上で名前が赤枠に囲まれた機能が動作するようになる。このモードではスピーカーでの再生時にいちいちマイクをミュートする必要がないので、特に1人で生楽器をダビングする場合には便利だ。スピーカー・アウトB(外部のヘッドフォン・アンプに接続して使用する)とヘッドフォン端子2はプレイヤー用の出力として分離され、そちらのヘッドフォンだけにDAW3/4へ送ったガイド・クリックやエフェクト、そしてトークバック回線を返すことができる。本機はトークバック・マイクを内蔵していないが、モニター・コントローラー用のJack端子のLをトークバック用に使うことが可能。もちろんその際は、ハウリングしないようスピーカー・アウトが−20dBにDIMされる。また録音後のプレイバック時に、A to Bボタン一発でエンジニア側のモニター・バランスをそのまま演奏者に送れるのが素晴らしい。この辺りの、スタジオ作業を知り尽くした上での実用的なデザインには驚かされる。外観はシンプルだが、装備された端子をフル活用するほど多機能なのだ。Artist Modeの便利さはレコーディングの現場で使ってみないとピンとこないかもしれないが、参考までに接続例の図版を作ったので、ご覧いただきたい(図①)。

ワイド・レンジなD/Aのサウンド
A/Dは重心の低いしっかりとした音
本機はUSBクラス・コンプライアント対応なので、専用のCrimsonドライバーをインストールせずとも、Mac/Windowsで最高96kHzのオーディオを扱うことができる。さらにAPPLE iPad Camera Connection Kitを用意すれば、iPadを接続しても使用することが可能だ。今回、筆者はまずMac環境においてまだ動作検証リストには載っていないMOTU DP7を使いチェックしたが、特に問題なく使用できた。このとき最小バッファーは64サンプルでPCIカード型のオーディオI/Oと負荷はほぼ同じ。またWindows 7環境で試したところ、ASIO4ALLで使用することができた。専用ドライバーをインストールすると、最高192kHzのオーディオが扱えるようになる。専用ドライバーを使用した場合、DP7ではうまく動作しなかったのでDAWをAPLE Logic 9に換えてみると問題なく192kHzも選択可能になり、最小バッファーも32サンプルとなった。ドライバーの対応DAWについてはメーカーの最新情報を確認していただきたい。D/Aの音質はさすがにSPLで、ワイド・レンジながら耳に痛い帯域が無くとても音楽的で聴きやすい音色だ。業務用アナログ・ミキサーでモニターしている感覚に近い。低域も豊かで、ピュア・オーディオでも評価の高い同社の単体機モニター・コントローラーの音質をしっかりと受け継いでいるのではないだろうか。特にヘッドフォン・アンプがかなりパワフルで、音色も良いので長時間聴いていても疲れない。A/Dも重心の低いしっかりしたサウンドで、強弱の激しい歌でも上品に録音できる。高域が耳障りになりがちな安価なマイクでも安っぽくならず聴きやすい。インスト・インはアクティブ・ピックアップのベースが実に良かった。ギターはハムバッキングよりシングル・コイルの方が合うようだ。 自宅録音作業におけるモニター・コントローラーの重要性は高まる一方で、オーディオI/O付属の簡易機能では満足しきれなくなった人も多いだろう。SPLはこれまであまり低価格帯に製品投入してこなかっただけに、Crimsonは気になる存在だ。純粋なモニター・コントローラーとして使用する場合も、少々場所を取るが単体機よりも入力数が多いという魅力は大きいので、ぜひ一度チェックしていただきたい。

