「TASCAM PROFESSIONAL SOFTWARE Sonar X3 Producer」製品レビュー:音源やエフェクトを中心に機能拡充したWindows用DAWの最新版

TASCAM PROFESSIONAL SOFTWARESonar X3 Producer
Windows専用のDAWとして人気の高いSonarが、今年1月末にX3へとバージョン・アップを遂げました。最上位版のSonar X3 Producer(価格は上記参照)を筆頭に、機能を絞ったSonar X3 Studio(オープン・プライス:市場予想価格38,000円前後)、Sonar X3 Essential(オープン・プライス:市場予想価格19,000円前後)の3種類がそろっています。ここではSonar X3 Producerをレビューしていきましょう。

スマート・ツールやProChannelなど
従来の特徴的な機能を継承


Sonar X3 Producer(以下、Sonar X3)を使ってまず感じたのは、GUIや操作性がきちんとユーザーの視点で作られているということです。上のプロジェクト画面から分かる通り、基本的に1つの画面で曲作りやミックスなどさまざまな作業が行える設計となっています。画面は、使用トラックの並んだトラック・ビュー、選択したトラックの情報を閲覧/編集できるインスペクター、ミキサー画面のコンソール・ビュー、プラグインやファイルを管理するブラウザーなどに分かれており、必要に応じてこれらを表示/非表示、拡大/縮小させながら制作を進める形。画面の各種設定は“スクリーン・セット”として10個まで保存できるほか、キーボードの数字キーで任意のものを瞬時に呼び出せるため、快適に作業できます。Sonar X3は、Sonar X1やX2から特徴的な仕様の多くを受け継いでいます。ここで少しおさらいしておきましょう。画面左上にある★マークは“スマート・ツール”と言って、マウス・ポインターの置かれている位置やマウスの挙動に応じて、さまざまな機能を呼び出せるユニークなツールです。特に便利だと感じたのはピアノロールへのMIDI入力で、マウス・ポインターの置き場所によってノートを書く/移動させる/伸ばす/縮める/ベロシティを調整するといった機能が切り替わるため、ツールを変更せずに素早く編集していくことができます。また今どのような機能が割り当てられているかは、マウス・ポインターの形状から知ることが可能。マウスでの打ち込みを多用する人は、とても重宝しそうです。画面中央のトラック・ビューでは、各種オートメーションを書き込むことができますが、ここで便利なのが“オートメーション・レーン”(画面①)。

▲画面① Sonar X2から実装された便利機能、オートメーション・レーン。X1以前は各種オートメーションをレイヤー表示することしかできなかったが、画面のように個別のレーンに分けて表示/編集することが可能になった ▲画面① Sonar X2から実装された便利機能、オートメーション・レーン。X1以前は各種オートメーションをレイヤー表示することしかできなかったが、画面のように個別のレーンに分けて表示/編集することが可能になった
これを有効にすれば、複数のオートメーションを個別のレーンに分けて表示できるので、視認性と編集の効率が上がります。先述のスマート・ツールはオートメーションの書き込みにも有用で、ノードを配置したり移動させたりといった操作がツールを切り替えずスムーズに行えます。細かい操作が多くなりがちなオートメーションの書き込みですが、Sonar X3ではそのストレスを軽減できるのがとてもうれしいですね。画面左側には、オーディオ/インストゥルメント・トラックに標準装備されたプラグイン型チャンネル・ストリップ、ProChannelを表示させることができます。EQやコンプなどの基本的なエフェクトのほか、サウンドに温かみや程良いひずみを加えることができるSoftube Saturation KnobやTape Emulator、OVERLOUD製の高品位なリバーブBreverb Sonar、3種類のクラシックなアナログ卓のヘッド・アンプ部を再現したConsole Emulatorなどをモジュールとして追加して使用できるため、ProChannelだけでもかなり積極的な音作りが可能です。 

NOMAD FACTORYのエフェクトや
Addictive Drumsなどを新しく同梱


次にSonar X3の新機能をピックアップしていきます。まずはProChannel関連のトピックですが、本バージョンから内部のEQモジュールをズーム表示することが可能となり、大きなパネルで操作できるようになりました(画面②)。
▲画面② ProChannel内のEQは拡大表示できるようになり、視認性/操作性の向上が図られている ▲画面② ProChannel内のEQは拡大表示できるようになり、視認性/操作性の向上が図られている
またEQカーブにスペクトラム・アナライザーが重なって表示されるため、EQポイントを視覚的に定めやすくなっています。アナライザーの上には鍵盤の絵があり、各帯域がどんな音域にあたるかが分かります。これはとても親切な設計だと感じます。新たに搭載された音源やエフェクトもあります。音源は、人気の高いXLN AUDIO Addictive Drums(画面③)、音作りの自由度が高いエレピ音源A|A|S Lounge Lizard Session Sonar Edition、キーボードで簡単にアコースティック・ギターのストラム奏法を再現できるA|A|S Strum Acoustic Session Sonar Editionなど、生楽器を再現するものが数多く追加されています。こうして新しい音源のラインナップを見てみると、旧バージョンで不足していた部分を補強し、確実に守備範囲を広げている印象です。
▲画面③ XLN AUDIO Addictive Drumsが新たにバンドル。3種類のドラム・キットやプロ・ドラマーの演奏を基に作られたMIDIデータを収めている ▲画面③ XLN AUDIO Addictive Drumsが新たにバンドル。3種類のドラム・キットやプロ・ドラマーの演奏を基に作られたMIDIデータを収めている
一方エフェクトについては、サウンドを大きく作り変えることができるフィルター/ひずみ系エフェクトTONE2 Bifilter 2、全19種類のビンテージ風プロセッサーを含むNOMAD FACTORY Blue Tubes Bundle、同社のチャンネル・ストリップBlue Tubes Analog TrackBox、1980年代のデジタル・リバーブを再現したBlueVerb DRV-2080などが追加されています。どれも実に個性的なエフェクトで、従来の付属エフェクトでは難しかった味付けが行えるものばかりです。とりわけBlue Tubes Bundleのものが印象的で、強いパンチ感が得られるBT Limiter LM-2Sやどんな帯域にも自然にかかるBT Equalizer BQ2S-3がとても気に入りました(画面④)。
▲画面④ 新たに付属するNOMAD FACTORY Blue Tubes Bundleは、コンプやゲート、エキスパンダー、ディエッサー、パラメトリック/グラフィックEQ、コーラスやフェイザー、ディレイ、エコー、オーバードライブ、ステレオ・イメージャーなどのプラグインを計19種類含んでいる。画面は筆者お気に入りのBT Limiter LM-2Sで、パンチのあるサウンドが得られる ▲画面④ 新たに付属するNOMAD FACTORY Blue Tubes Bundleは、コンプやゲート、エキスパンダー、ディエッサー、パラメトリック/グラフィックEQ、コーラスやフェイザー、ディレイ、エコー、オーバードライブ、ステレオ・イメージャーなどのプラグインを計19種類含んでいる。画面は筆者お気に入りのBT Limiter LM-2Sで、パンチのあるサウンドが得られる
 

Melodyne Essentialをバンドル
コンピング機能も強化


新たなプラグインと言えば、特にボーカル処理と相性の良い機能としCELEMONYのオーディオ解析/編集ツールMelodyne Essentialがバンドルされています(画面⑤)。
▲画面⑤ 新バンドルのCELEMONY Melodyne Essentialにボーカルのオーディオ・クリップ(赤枠)を読み込んだところ。画面のようにモノフォニック素材や打楽器/ノイズ素材のピッチを検出し(青枠)、自由に調整できる ▲画面⑤ 新バンドルのCELEMONY Melodyne Essentialにボーカルのオーディオ・クリップ(赤枠)を読み込んだところ。画面のようにモノフォニック素材や打楽器/ノイズ素材のピッチを検出し(青枠)、自由に調整できる
これはオーディオ・トラックにインサートしても使えるのですが、“Region FX”という機能と併用すればさらに便利。Region FXとは、トラック全体ではなく指定した範囲のオーディオ・クリップや分割された個々のクリップごとにエフェクトを挿せる機能で、Region FXメニューからMelodyne Essentialを立ち上げれば狙った個所をピンポイントに編集することができます。また、Melodyne Essentialを使用したオーディオ・クリップをMIDIトラックにドラッグ&ドロップすれば、何と検出したピッチを瞬時にMIDIノートへ変換できます。この機能はモノフォニック素材と打楽器/ノイズ素材にのみ有効で、ボーカルのメロディを譜面に起こしたり、鼻歌で作ったメロディをソフト・シンセで鳴らしたりといった使い方にも応用できそうですね。歌や楽器を録音する人は、複数のテイクをつないで最終的なテイクを作る“コンピング”を多用するかと思います。このコンピングについても、機能強化が図られています。Sonar X3では、デフォルトの状態で“コンピング録音モード”がONになっており、1つのトラックに複数回録音した場合、各テイクを個別のレーンに分けて表示させることができるのです。それらの中から良い部分を抽出し1つにまとめるわけですが、ここでもスマート・ツールが活躍します。クリップの真ん中辺りにマウス・ポインターを置くと“コンピング・モード”に切り替わるので、あとはドラッグで範囲を指定することでOKテイクを抽出することが可能です。またOKテイクを取り出した後、隣り合うテイクとのつなぎ目で上下にドラッグすることで、クロスフェードのカーブを変更できるのが非常に便利。未使用テイクを一括削除したり、そのときにコンピングされたものを1本のトラックにバウンスし新たなテイクとして読み込むことも可能です。コンピングの状態を好きなタイミングで整理できるので、操作が単純化されるわけですね。 Sonar X3は付属の音源やエフェクトが非常に充実しているので、インストールした時点であらゆるジャンルに対応することができます。さまざまなジャンルを制作する人や、“これからどんな音楽を作るか分からないけれど、とりあえずDAWが欲しい”といった人にも強く薦めることができます。操作性も優れているので、一度使い慣れたら簡単には手放せないDAWになりそうです。   (サウンド&レコーディング・マガジン 2014年4月号より)
TASCAM PROFESSIONAL SOFTWARE
Sonar X3 Producer
オープン・プライス (市場予想価格/57,000円前後)
▪Windows:Windows 7/8(32/64ビット)、INTEL Core 2 Duo E8200 2.66GHz/AMD Phenom Quad Quad Core 9750、2GB以上のRAM(4GB以上を推奨)、50GB以上の空き容量のあるSATA接続のハード・ディスクまたはSSD(ハード・ディスクの場合は7,200RPM以上を推奨)、1,280×800ピクセル以上のディスプレイ、Windows対応のオーディオI/Oまたはサウンド・ボード(ASIO対応のハードウェアを推奨)、インターネット接続環境(光回線などの高速な回線を推奨)