YAMAHAHPH-MT220
最近、街中を歩いているとヘッドフォンをしている人をよく見かけるようになった気がします。ヘッドフォン専門のイベントも開催され、多くの新機種が試聴できるようになり、売り上げも好調だと聞いています。一般の方はリスニング用として、私たちエンジニアはモニター用として多彩なバリエーションから選べるようになりました。私は最近PAの仕事にも携わるようになり、以前よりもヘッドフォンを使う機会が増えましたが、PAでは遮音性が高くパワーがあるタイプ、レコーディング・スタジオでのミュージシャン用としては音漏れが無く気持ちよくプレイができるもの、エンジニア用はバランスが分かりやすいモニター的な音がするものというように、同じヘッドフォンでも用途によって異なるキャラクターが求められます。また個人の好みや相性も重要視され、最近のスタジオではミュージシャンが好みのヘッドフォンを持ち込むことが多くなってきています。
大口径45mmドライバーを採用
重さを感じさせないフィット感
今回試聴するのは、YAMAHAの新製品＝HPH-MT220で、下位モデルとして40mmドライバー搭載を搭載したHPH-MT120（オープン・プライス：市場予想価15,000円前後）もライナップされています。重量は比較的重く415g。周波数特性は広めの15Hz〜28kHz、インピーダンスは比較的低く37Ω、出力音圧レベルは平均的な97dBとなっており、最大入力は余裕のある1,600mWです。特徴としては、軽量なボイス・コイルを持つ大口径45mmドライバーを採用し、ワイド・レンジ化を図っていることが挙げられます。ハウジング部分は耐久性のあるシルバーのアルミニウムと黒いABS樹脂による２トーン・カラーのシンプルなデザイン。イア・パッドは、低反発クッションが適度な湿りと滑らかさのあるプロテイン・スキンで包まれており、耳によくフィットしてストレスを感じさせません。ヘッド・バンドは丈夫な３次元構造となっており、長時間使用しても疲れにくい設計となっています。なおイア・カップは片耳でのモニタリングも可能です。付属のコードは1.2mのカール・コードで、腐食に強い金メッキ・プラグです。装着してみると、私の耳の形状にはよく合っており、重さを感じさせない快適なフィット感。なおこの製品はコンシューマー系ではなく、PAプロオーディオ部門扱いの製品となっています。
音はワイド・レンジかつ
ステレオ・イメージを判断しやすい
まずPAの現場でチェックしてみました。FOHのミキサーでは、大きな音が鳴っている中で各マイクのかぶりや楽器の音色をチェックしなければならないので、遮音性と大きなパワーが必要となります。その点、本機はイア・パッドが気持ちよく耳にフィットするので、十分な遮音性があります。PAでの音色作りはやや硬めの傾向になりますが、高域が気持ちよく伸びている割に耳に痛くないので、音作りがしやすいです。なおパワー的には、もう少し出ると良いと思いました。次にスタジオでのバンド録音に使ってみました。音の印象はワイド・レンジで、低域はキックの胴鳴りが分かりやすく判断でき、高域はシンバルの響きがスムーズに聴こえます。特徴的なのは中高域のバランスが良く、L/Rもヘッドフォンの割には自然に聴こえ、ステレオ・イメージを判断しやすい点です。リバーブもよく聴こえるので、ミュージシャンがこのヘッドフォンを使うと気持ちよく演奏できるのではないでしょうか。もう一点、私はマイクや機材のチェックをする際、自分の声をヘッドフォンで聴きながら行うのですが、HPH-MT220でも実践してみました。マイクのチェックでは、モノラルになりますが低域の空調ノイズや高域のリップ・ノイズが分かりやすく、リアルに聴き取れました。また、空気感も分かりやすいので、マイクの距離による奥行きもうまく調整できると思います。 本機は上々のフィット感、分かりやすい音色とステレオ・イメージで、長時間の使用にも耐えるでしょう。リスニング用途でもモニター用としても音楽を楽しめる、新しいタイプの製品だと思います。PA時は付属のカール・コードが使いやすいのですが、スタジオではストレート・コードの方が便利なので、オプションがあるとうれしいです。またパーツの供給を長期的にしてもらえると継続して使いやすくなりますし、これからいろいろな場所で見かけるようになるのではないでしょうか。 （サウンド＆レコーディング・マガジン 2014年2月号より）
YAMAHA
HPH-MT220
オープン・プライス （市場予想価格： 25,000円前後）
▪形式：密閉ダイナミック型
▪周波数特性：15Hz〜28kHz
▪インピーダンス：37Ω
▪音圧レベル：97dB
▪端子：ステレオ・ミニ（フォーン変換アダプター付属）
▪ケーブル：1.2mカール・コード、片出し
▪重量：415g
