
ART Tube MP譲りのプリアンプ部
Auto-Tune部は3モードを搭載
Auto-Tune Preは、同社Tube MP直系のプリアンプ部と、Auto-Tune EFXと同等のプロセッサーを備えたピッチ補正セクションから構成されています。プリアンプ部の回路はクラスAのディスクリート仕様となっており、12AX7真空管を使用。一方、Auto-Tuneセクションにはキー/スケール/EFX TYPEの3パラメーターを搭載。スケールのパラメーターでは、Major/Minor/Chromaticという3種類のプリセットを切り替えて使えるのですが、それ以外のスケールを使いたい場合は、前面に計12個並ぶ白鍵と黒鍵を模したスイッチをON/OFFすることで好きなスケールが作れます。EFX TYPEにも3種類のプリセットが用意されており、ケロケロ声を作り出すためのHard EFX、軽めにケロらせたい人向けのSoft EFX、歌声のニュアンスを残したままピッチ補正できるPitch Correctをスイッチで切り替えて使う仕様です。キー/スケール/EFX TYPEの設定は、プリセットとして5種類まで本体に保存でき、別売のフット・スイッチを使えば足元でAuto-TuneをON/OFF可能です。続いては入出力を見ていきましょう。入力端子としては、XLR/フォーン・コンボのマイク/ライン・インを装備。48Vのファンタム電源を搭載するほか、マイクをXLRで接続した際に+20dBのゲイン・アップ・スイッチを押すと、入力を+66dBまで持ち上げられるため、大体どのようなマイクでも受けられます。録音時に不要な低域を軽減するための100Hzのローカット・スイッチも便利でしょう。ライン・インはハイインピーダンスにも対応するため、ギターやベースを直接つなぐことが可能。そのほか、インサート端子を使うとAuto-Tuneセクションの前段に任意の外部エフェクトをかけられるほか、プリアンプ部のみを通った信号の取り出しも行えます。出力端子は、XLRとフォーンを1つずつ装備。スイッチで+4dBm/−10dBVのいずれかのレベルが選べるので、業務機にも民生機にも接続可能です。
ギラつきが無く素直なサウンド
ライブにも対応できる低レイテンシー
それでは実際に使っていきます。今回はSHURE SM57とAKG C414B TL-IIを接続し、ボーカルとギターの録音に試してみました。その総合的なインプレッションについて書いていきます。まずはプリアンプ部から。筆者は10年以上前に購入したTube MPを所有しているのですが、音質を比較してみると大幅にリファインされた印象です。高級機のプリアンプに比べるとややナロー・レンジですが、“真空管の高級機を使ってみたら、ハイファイ過ぎて思っていた感じとは違った”と話すミュージシャンも多いだけに、真空管に求められる甘い音のイメージにうまく落とし込んでいると言えます。低価格機にありがちな変にギラギラした感じもなく、素直で使える音でしょう。とりわけ、ボーカルに関してはパネル上のクリップ・インジケーターが点灯する直前までゲインを上げると、ボーカルをかなり太く録ることができます。クリッピング・ポイントを超えてゲインを突っ込むと結構ひずんでくるので、インプット・ゲインとアウトプット・ボリュームの両ツマミをうまく使えば、太くて温かい音色のバリエーションが作れそうです。Auto-Tuneセクションは、やはり相当直感的に使える仕様ですね。白鍵/黒鍵ボタンをポチポチ押してスケールを設定するのは、プラグインのAuto-Tuneとやっていることは同じでも、操作がより簡単に感じました。EFX TYPEをHard EFXに設定すると、本格的なケロケロ声が得られます。Pitch Correctは、触れ込み通りナチュラルに音程のズレを補正。これをライブで使えるのはズルいですね(笑)。実は、筆者はライブでプラグインのAuto-Tuneを使ったことがあるのですが、レイテンシーが大きくて何を歌っているのか分からない状態になりました。このAuto-Tune Preにも遅延はありますが、本当に少しズレるだけなので、ライブでも十分に使えると思います。また、サイズもギター用のコンパクト・ペダルより一回り大きいくらいなので、会場への持ち運びやステージでの設置も苦にならないでしょう。今やすっかりポップ・シーンに定着したAuto-Tuneサウンド。これをさまざまな場面で手軽に使えるので、思った以上にパフォーマンスの幅が広がるかもしれませんよ。
