「ART Auto-Tune Pre」製品レビュー:Auto-Tuneエフェクトの機能を搭載した真空管モノラル・プリアンプ

ARTAuto-Tune Pre
ARTと言えばギター用エフェクターで有名なMXRの設立メンバーの1人、テリー・シャーウッドが1984年に立ち上げたブランド。宅録ミュージシャンにフレンドリーな、手ごろな価格/サイズの製品を数多くリリースしています。そして今回は、ANTARESのピッチ補正プラグインAuto-Tuneを搭載したプリアンプ=Auto-Tune Preの登場。いやがおうにも期待が高まりますね!

ART Tube MP譲りのプリアンプ部
Auto-Tune部は3モードを搭載


Auto-Tune Preは、同社Tube MP直系のプリアンプ部と、Auto-Tune EFXと同等のプロセッサーを備えたピッチ補正セクションから構成されています。プリアンプ部の回路はクラスAのディスクリート仕様となっており、12AX7真空管を使用。一方、Auto-Tuneセクションにはキー/スケール/EFX TYPEの3パラメーターを搭載。スケールのパラメーターでは、Major/Minor/Chromaticという3種類のプリセットを切り替えて使えるのですが、それ以外のスケールを使いたい場合は、前面に計12個並ぶ白鍵と黒鍵を模したスイッチをON/OFFすることで好きなスケールが作れます。EFX TYPEにも3種類のプリセットが用意されており、ケロケロ声を作り出すためのHard EFX、軽めにケロらせたい人向けのSoft EFX、歌声のニュアンスを残したままピッチ補正できるPitch Correctをスイッチで切り替えて使う仕様です。キー/スケール/EFX TYPEの設定は、プリセットとして5種類まで本体に保存でき、別売のフット・スイッチを使えば足元でAuto-TuneをON/OFF可能です。続いては入出力を見ていきましょう。入力端子としては、XLR/フォーン・コンボのマイク/ライン・インを装備。48Vのファンタム電源を搭載するほか、マイクをXLRで接続した際に+20dBのゲイン・アップ・スイッチを押すと、入力を+66dBまで持ち上げられるため、大体どのようなマイクでも受けられます。録音時に不要な低域を軽減するための100Hzのローカット・スイッチも便利でしょう。ライン・インはハイインピーダンスにも対応するため、ギターやベースを直接つなぐことが可能。そのほか、インサート端子を使うとAuto-Tuneセクションの前段に任意の外部エフェクトをかけられるほか、プリアンプ部のみを通った信号の取り出しも行えます。出力端子は、XLRとフォーンを1つずつ装備。スイッチで+4dBm/−10dBVのいずれかのレベルが選べるので、業務機にも民生機にも接続可能です。 

ギラつきが無く素直なサウンド
ライブにも対応できる低レイテンシー


それでは実際に使っていきます。今回はSHURE SM57とAKG C414B TL-IIを接続し、ボーカルとギターの録音に試してみました。その総合的なインプレッションについて書いていきます。まずはプリアンプ部から。筆者は10年以上前に購入したTube MPを所有しているのですが、音質を比較してみると大幅にリファインされた印象です。高級機のプリアンプに比べるとややナロー・レンジですが、“真空管の高級機を使ってみたら、ハイファイ過ぎて思っていた感じとは違った”と話すミュージシャンも多いだけに、真空管に求められる甘い音のイメージにうまく落とし込んでいると言えます。低価格機にありがちな変にギラギラした感じもなく、素直で使える音でしょう。とりわけ、ボーカルに関してはパネル上のクリップ・インジケーターが点灯する直前までゲインを上げると、ボーカルをかなり太く録ることができます。クリッピング・ポイントを超えてゲインを突っ込むと結構ひずんでくるので、インプット・ゲインとアウトプット・ボリュームの両ツマミをうまく使えば、太くて温かい音色のバリエーションが作れそうです。Auto-Tuneセクションは、やはり相当直感的に使える仕様ですね。白鍵/黒鍵ボタンをポチポチ押してスケールを設定するのは、プラグインのAuto-Tuneとやっていることは同じでも、操作がより簡単に感じました。EFX TYPEをHard EFXに設定すると、本格的なケロケロ声が得られます。Pitch Correctは、触れ込み通りナチュラルに音程のズレを補正。これをライブで使えるのはズルいですね(笑)。実は、筆者はライブでプラグインのAuto-Tuneを使ったことがあるのですが、レイテンシーが大きくて何を歌っているのか分からない状態になりました。このAuto-Tune Preにも遅延はありますが、本当に少しズレるだけなので、ライブでも十分に使えると思います。また、サイズもギター用のコンパクト・ペダルより一回り大きいくらいなので、会場への持ち運びやステージでの設置も苦にならないでしょう。今やすっかりポップ・シーンに定着したAuto-Tuneサウンド。これをさまざまな場面で手軽に使えるので、思った以上にパフォーマンスの幅が広がるかもしれませんよ。 
▲背面には左から電源スイッチをはじめ、XLRのライン・アウトやフォーンのライン・アウト、そして出力レベル(4dBm/−10dBV)の切り替えを行ったり、100Hzのローカットや+48Vのファンタム電源をON/OFFするためのスイッチ、XLR/フォーン・コンボのマイク/ライン・インを装備。スイッチ類の上には、リモート端子とインサート端子が並ぶ ▲背面には左から電源スイッチをはじめ、XLRのライン・アウトやフォーンのライン・アウト、そして出力レベル(4dBm/−10dBV)の切り替えを行ったり、100Hzのローカットや+48Vのファンタム電源をON/OFFするためのスイッチ、XLR/フォーン・コンボのマイク/ライン・インを装備。スイッチ類の上には、リモート端子とインサート端子が並ぶ
   (サウンド&レコーディング・マガジン 2014年2月号より)
ART
Auto-Tune Pre
34,000円
▪周波数特性:20Hz〜20kHz(±1dB) ▪全高調波歪率:0.05%以下 ▪最大入力レベル:+15dBu(XLR端子)、+16dBu(フォーン/インサート端子) ▪最大出力レベル:+24dBu(XLR端子)、+18dBu(フォーン端子)、+16dBu(インサート端子) ▪入力インピーダンス:5.5kΩ(XLR端子)、1MΩ(フォーン端子) ▪出力インピーダンス:600Ω(XLR端子)、300Ω(フォーン端子) ▪外形寸法:150(W)×44.5(H)×165(D)mm ▪重量:1.14kg