「TUBE-TECH MP2A」製品レビュー:レコーディングの定番2ch真空管マイク・プリアンプ/DIの後継機

TUBE-TECHMP2A
1985年のブランド設立以降、その名の通り真空管を使用したハイクオリティなプロ用録音機器の数々を生み出してきたTUBE-TECH。そんな製品の中で最も息が長く、1987年登場以来2013年夏までマイナー・チェンジすらすることなく生産し続けられていた2chマイクプリMP1AがMP2Aへとモデル・チェンジされた。四半世紀にわたり愛されてきた名機はどのような進化を遂げたのであろうか。

FINEツマミが追加され
より細かいゲイン・コントロールが可能


1980年代後半以降、レコーディング・スタジオで必ずといっていいほど見ることのできるTUBE-TECHの製品。プロのエンジニアにとっては大変なじみ深いものなのだが、実機に触れる機会も少ない読者もいると思うので、大まかな概要を紹介しておこう。まず製品名だが、先頭の英字が機種名でその機能を表し、次の数字(1or2)がモノ/ステレオの区別、最後のA/B/Cがバージョンを表す。MP1Aのみ、そのルールから外れていたのだが、今回のモデル・チェンジで足並みがそろった。スタジオで見かけるのはPE1B/CとCL1A/Bが多い。前者はTUBE-TECHを一躍有名にしたプログラム・イコライザーで、かのPULTEC EQP-1A3の正統派レプリカ。後者はTELETRONIX LA-2Aを基に開発されたオプト・コンプである。冒頭でも紹介したように、TUBE-TECH製品のすべてに真空管が使われていることから、そのサウンド傾向をビンテージ・ギアのそれに重ね“ウォームでローファイ”と想像する方々が多い。ところが実際は非常にナチュラルでどちらかと言えばハイファイ。ノイズやひずみも少ないので、使っているうちに真空管製品であることを忘れてしまいそうになることもしばしばある。ただし、少し強めにアクセスしたときの反応が心地良く、広範囲にきめ細かいひずみを生み出す点はソリッド・ステートの製品の挙動とは明らかに違い、“上質な真空管機器”の振舞いを見せてくれる。では今回の主役、MP2Aに目を移そう。鮮やかでありながら深みを持つブルーの筐体はTUBE-TECH製品に例外なく共通で、一目でそれと分かる。カタログによると寸法および重量はMP1Aと全く一緒。さらにフロント・パネル上のDI入力、20/40HzのLOW CUT、ファンタム電源スイッチ、−20dBのPADなどは変わらないのだが、今回大きな変更は4点。まず、ゲイン調整が25〜70dBまで5dBステップ可変だったのがMP2AはCOARSEつまみが10dBステップで20〜60dBをカバーし、追加されたFINEつまみで±10dBの範囲を2dBステップで調整することでより細かいゲイン・コントロールを行えるようになった。さらに−20dB PADとの組み合わせで、可変範囲が−10〜70dBと広がったことになる。2つめは600/1,200/2,400Ωのインピーダンス切り替えが可能になった点。最近のマイクプリにはこの機能を搭載するものが増えてきているが、設定に迷う方も多いようだ。もちろん、さまざまなマイクに対応する目的もあるのだが、個人的には、電気回路的理屈どうこうよりも切り替えることで生じる音色変化を積極的に使ってみる……という使い方をお勧めする。3つめと4つめはPHASEスイッチおよびOverload LEDの搭載だ。これらは地味ながらも大変喜ばしい機能。特にPHASEは、MP1A時代にケースに常備していた逆相変換コネクターが不要になるという大きなメリットがある。リアに目をやると、以前はカバーに覆われた真空管部分が突出していたのだが、内部に収められたようでスッキリとした。これら外観および機能的な変更点は、よりフレキシブルな使い勝手を追求した結果であろう。 

ローエンドからハイエンドまで十分な伸び
原音忠実で色付けの少ない音色


肝心の音質をチェックしていこう。やや卑怯だが価格的に1/3程度のマイクプリと比較してみた。アコギと男性ボーカルに使ってみたのだが、まず一聴して格の違いに気付かされる。先ほどご紹介したTUBE-TECH製品の傾向通りナチュラルでスムーズ、基音をしっかりとらえフォーカスがビシッと合った感じは価格差をふまえても段違いだ。ローエンドからハイエンドまで十分な伸びを見せ、ダブついた部分や詰まった感じ、ザラついた帯域など全く無い。太さ、明るさ、抜けの良さなど、どれをとっても非常に優秀。最近明らかに狙いを持って積極的に音作りをしているマイクやマイクプリが多い中、あくまで原音忠実で色付けの少ないこの音色は対極に位置する。音源のダイナミクスに対する反応も良く、強い入力が来たときに見せる柔らかい反応に真空管サウンドのおいしい部分を堪能できる。日ごろスタジオで当たり前のように使ってきたTUBE-TECH製品のクオリティの高さを再認識させられた。最近“ハイレゾ”という言葉を耳にすることが多くなってきた。我々も96/192kHzなどで録音、ミックスする機会が増えてきたのは確かだ。それに伴い、このMP2Aのような高品位なアナログ機器の需要がますます増えていくであろう。 
▲リア・パネルには、インプットとアウトプット(ともにXLR)を2ch分備える ▲リア・パネルには、インプットとアウトプット(ともにXLR)を2ch分備える
   (サウンド&レコーディング・マガジン 2014年2月号より)
TUBE-TECH
MP2A
609,000円
▪最大ゲイン:70dB(マイク)、60dB(DI) ▪入力インピーダンス:600/1,200/2,400Ω(マイク)、1MΩ(DI) ▪出力インピーダンス:60Ω以上 ▪周波数特性:5Hz~60kHz@-3dB ▪THD+N@40Hz:0.20%未満(0dBu、+10dBu) ▪ノイズ:-85dBu以下(22Hz~22kHz、ゲイン+20dB) ▪CMRR@10kHz:-60dBu未満 ▪真空管:ECC82×2、ECC83×4 ▪外形寸法:486(W)×88(H)×165(D)mm(突起物は除く) ▪重量:4.3kg